欲情するピアッサー
「バルレル……、あの、あのね……? やさしく、してね……」
上目遣いを決め込んで、胸に手をあて、ほのかに頬を染め、史上最高に可憐な声を出した。
我ながら完璧!
「……」
その言われたバルレルはと言うと、一瞬動きを止めて、苦虫を噛み砕いて飲み込んでさらにおかわりしたようなものすっっごく嫌そうな顔をしたものだから、私はふき出して笑った。ですよね。
「犯すぞテメェ」
「ごめんて!」
悪魔の軽口にその胸元をぽんと叩く。
「んだよ?」
叩いた手で、そのままぎゅっと縋りつく。
ベッドに腰掛けた私と、その前に立つバルレルとでは、目線はあまり変わらない。
「いや、あの、怖いのはほんとだから、えっとね、」
「あァ? はっきり言えよ、{{ namae }}」
濁しまくる私に、バルレルはさっきとは打って変わってにんまりと嬉しそうに笑う。こいつめ。この悪魔め。棒読みでわざとらしいセリフより、しどろもどろでも感情のある言葉の方がお気に召すらしい。
今も私の不安と恐怖と緊張を味わっているのかと思うと悔しいやら恥ずかしいやらで、
「……ヤサシクシテクダサイ」
結局同じことを言った私だった。
「ヒヒ。ニンゲン素直が一番、だなァ?」
ニンゲンでも素直でもないやつに言われても!!
突っ込みたい気持ちを抑え、私はぐっと黙った。
サイドテーブルの上にはランプ、針、氷嚢、アルコールが置いてある。あらかじめ私が用意したものだ。
バルレルがランプの火に、消毒済みの針をあて、熱する。ごくり、と私は唾を飲んだ。
「右と左」
「左」
バルレルの指が伸び、私の髪を耳にかけた。そのまま何度か、梳くようになでられた。くすぐったい。
怖かったのもあったけれど、心底楽しそうなバルレルが癪で、私はぎゅっと目をつぶる。この悪魔め!
けれどその獰猛な笑顔にぞくぞくする、なんて、私も随分毒されている。
耳たぶにそっと触れられると、わかっていても身体がびくりとはねてしまう。
「大人しくしてろよ」
刺しやすいようにか、軽く耳が引っ張られた。そしてちくり、針先を感じた瞬間、
「つっ!」
ぶつん、と音が頭の中で響いた。
身構えたわりには呆気なかったものの、やっぱり痛い。ひりひりする。きちんと消毒して、冷やさなくっちゃなあ。
なんて考えながら、薄く目を開くと――変わらずに口元を歪めて笑うバルレルの赤い目とかち合った。
「え、」
ぞく、と背筋がふるえた。
片手はそのまま耳に、もう片手は頭を抱きかかえられ、私は身動きがとれない。
「ちょっと、バルレ、ひゃっ!?」
バルレルは口元を寄せ、針に貫かれたままの耳にキスをした。
「やだ、ねえ、抜いて……っ、……!!」
口走った言葉の恥ずかしさに私は唇を噛んだ。あああ、この悪魔め!!
耳がじんじんと熱い。痛みのせいか、這う舌のせいか、その両方か。ちゅ、とわざとらしく音を立てられただけで、私の身体はびくりとはねてしまう。――嬉しそうに。
針がゆっくりと抜かれ、拘束が解かれる。さっきから憎らしいほど嬉々とした悪魔が私に言い放つ。
「お望み通り、やさしくしてやろうじゃねェか」
方向が違う。
馬鹿! エロ親父! この悪魔!!
罵声の一つでも浴びせてやろうとして口を開けて、けれど、だだ漏れの感情は嫌悪感の一つもなくそれどころか喜んで欲情しているだろうということがバルレルにはわかりきっているのかと思うと悔しいやら恥ずかしいやらで、
「……オネガイシマス」
結局同じことを言った私だった。
「ニンゲン素直が一番、だなァ」
ヒヒ、とバルレルが笑う。
ああもう全く、悪魔の唾液は消毒になるのかしらね!?