刀剣乱舞、はじまります。

 朝のお献立はだいたい決まっている。ご飯かパンか選べる主食、汁物、主菜。それから作り置きのお漬物と、卵が一つ。卵の調理は第三、いや第二部隊が組めるようになったあたりから、各自お任せ形式にした。ご飯にかける子が多いけど、そのまま飲む子もいる。パン派で流行っているのは、真ん中をくぼませたそこに割り入れて、トースターで焼いたやつ。時間のある非番の子たちなんかは、希望者を募って卵を集めて、分厚い卵焼きを作ったりして。
 いつの間にやら、六周年。刀も増えに増え、今では計十四部隊分とんで一振りで八十五振り。なかなかの大所帯。食事風景だけでも壮観だ。
 ところでうちの本丸では、週休二日のシフト制を採用している。
 基本は五勤、二連休。
 出陣・遠征担当、演練・万屋担当、内番各四種――厨当番・畑当番・馬当番・手合せを、ひと月ごとに交代しながら行う。出陣・遠征担当には五部隊を充て、常に出陣一・遠征三になるように調整。内番は一種につき二部隊が配属され、隊長二名が指揮を執る。ここまでで十三部隊分。
 何しろ刀が増えに増え、刃員の運用も難しい。
 最近新設した演練・万屋担当は、今のところ一部隊を宛て、全体的な雑務も請け負ってくれていた。今後の増員次第では、厨当番を三部隊編成にする予定だ。
 現在は二部隊――つまり十二振りで、八十五振り足す審神者一の、八十六名分の朝食を作っている。
 そう。
 お台所は、もう一つの戦場である。
「しっかし、増えたよねー」
「増えたよねー」
 我が初期刀様がしみじみと呟くから、真似して同じ調子で返すと、目と目が合って互いに笑い出す。
 目の前には、シンクに大量の食器が溜まっていた。昔と比べたら倍の倍の倍でも届かない数だ。
 言わば、戦いの後。第一陣の朝餉を終えた表の大食堂では、出陣部隊や遠征部隊を送り出した厨当番たちが休戦し、ようやく食べ始めているところ。
「これが食洗機ねー。でっかいでしょ。この取っ手ごと銀の箱を下げると、この中で洗浄が始まんの。電源がここで、ランプが点いてないと動かないから覚えといて。結構強力だから、油汚れが酷いやつ以外は軽く洗えばだいじょーぶ」
「で、洗ったやつはこうやってラックに並べてね。お箸とかスプーンはこっちの網目が細かいラックを使うよ。並べ終わったらラックを横にスライドさせて、食洗機の真下にセット。最後まで下ろさないと洗浄が始まらないよ。たまーに手を挟む事故があるから、気をつけて」
 食器洗いも厨当番の仕事だったが、施設説明も兼ね、一人と二振りで引き受けたのだった。
 新刃は必ず近侍にし、審神者と初期刀が本丸を案内する――いつの間にやら出来た通例。
「うちでの仕事は、川の下の子だろうが一万両の名刀だろうが関係ないからね」
「うははは、違いない。どれ貸してみろ、次は僕がやる」
 本丸で一番の新入りが、可笑しそうに目を細めた。
「しっかし、次の部隊長がくそじじいとはなー」
「そう言うな。僕だって担ぎ上げられて喜ぶ歳でもないが、この本丸のるぅる、とやらに従うまでよ」
 うちでは、来てくれた順番で部隊編成をする。六振り一部隊が出来たら、次に来た子を隊長として、またひとつ部隊をつくる。
 時期によっては刀種の偏りもあるけれど、不思議と上手くいっている。
 刀派を超えた同期の繋がり。
 そういうご縁のかたち。
 八十五振り目の彼には、第十五部隊の隊長をつとめてもらう。
 はじまりの刀はもちろん、記念すべき第一部隊の隊長だ。
「しっかり覚えろよー? 次の新刃も最初は俺と主が案内するけどさ。隊長はあ・ん・た、なんだからね」
「も、もちろん、いつでもなんでも質問していいからね」
 その由緒正しき第一部隊隊長様の圧が少しだけ強いのは、やっぱり特命調査であれこれあったせいだろう。フォローの言葉を付け足しながら、最初の特命調査の後も大変だったなあ、と思い出す。
 でも、あの金と銀の二振りが顔を合わせる度にはらはらするのも、最初だけだった。
「主は優しすぎ! 最初が肝心でしょ? 俺達は戦うだけじゃなくて、ここで生活してかなきゃいけないんだからさ」
「うぅ……苦労かけるねぇ……」
「それは言わないお約束、って何言わせんの」
「あはは」
 ――結局は、なるようにしかならないことを知っている。それは悲観的なものじゃなくて。
“私達”は、ここで生活を共にする、している、していく、これからも。
「愛よの」
 突然の言葉に、首を傾げた。
「おぉ? そっくりだな」
 そう言われて、ますます首を傾げる。
 後でこっそり「同じ角度だったぞ」と教えてくれた。そりゃあもう、長く一緒にいますので。
「僕もこの本丸ものがたりに仲間入り、というわけか。良いねぇ、うはははっ」
 曰く。
 戦うだけに非ず、日々を常にする、刀と人。
 それを愛と言わずになんと言う?
 ……だってさ。

 刀剣乱舞、はじまります。
 今日も明日も明後日も。