Mr.pumpkin!
「何食べてんの?」
クッキーが手の中からぱっと消えた。イリュージョン?
ソファに座ったまま後ろを向くと、わたしの頭の上の背もたれに肘をつきながら、翼が奪ったクッキーをもぐもぐ食べていた。
「あー! もう!」
「ふーん。まあまあじゃん」
「ほんと!? じゃああげるー、最後の一枚」
やれ甘すぎる味に品がないこんなの美味しいなんてとか舌大丈夫? とか難癖をつけてくる翼にしては「まあまあ」は良い評価の方だ。悲しくなってきた!
わたしは嬉しくなってクッキーの包みを翼に渡した。奪われたことは一瞬で忘れることにした。
「新発売なんだってー」
隣に座る翼ににこにこしたまま言うと、彼は食べようとしないで、軽くにっと笑う。なんだろ。もちろん良い予感はしない。
「ねえ、今何月だか知ってる?」
「? 十月だけど、」
それがなに、と言おうとしたら
「treack or treat」
「へ」
やけに流暢な発音で翼が言った。
とりっく・おあ・とりーと。確かにそう聞こえた。
「聞こえなかった? 耳悪い? ちゃんと耳掃除してる? ちゃんと定期的にしなよね仮にも女の子なんだからさ」
「(仮にも!?)ししししてるよ! 馬鹿! じゃなくてっ」
ハロウィン。季節的には間違ってないし、街の色んなところでお化けのかぼちゃを見かけるし、現に今食べたクッキーだって、新発売・期間限定!パンプキン味だもん。
「treack or treat! いたずらかお菓子か。さあ選んで、って肝心のお菓子がないから選択の余地なしでいたずらなんだけどねこの場合最後の一枚はぼくが持っているわけだし」
「いやいやいや今お菓子あげたでしょ!?」
「それとこれとは関係ないだろ? その時ぼくはなんか言ったわけ? ウノなら勝負に負けてるよ」
早口でまくし立てられながらずい、と翼の顔が近づいて、瞬きをする間もなく唇を奪われた。
「ハイ悪戯」
女顔負けの綺麗な顔でにっこりと翼が笑う。
「あ、これやっぱり返すよ。ちょっとぼくの口には合わなかったからさ」
返ってきたクッキーを両手で握る。あ、と気づいた時には遅かった、こいつ、ちょっと!?
「さて、」
ずるいずるい、ず、る、い!
追い打ちの笑顔で、もう、わたしの顔は真っ赤だった。
「treack or treat?」
なんなのこいつ、鬼なの? 悪魔なの!?
手の中には一枚のクッキー。渡せばこの恥ずかしいやりとりからわたしを守ってくれる唯一のクッキー。
だけどこのパンプキン味じゃあ目の前の悪魔から身を守ってくれそうにない。守る気も、ないけど。
全部全部計算済みで、わたしは今日も思い通りに言葉を吐かされるんだ。
半ばやけになってわたしは叫ぶ。
「treat!!」
「はいよくできました。これはご褒美」
ちゅ、と軽く音を立ててまたキスされた。
悪戯もご褒美も一緒なんてずるい!!
23:35 2011/11/05 翼廃に捧ぐ