それまで無かった物が増えて行く。食器棚には数個の食器が、趣味の部屋には彼女の好きな物が、仕方なくだろう必要最低限しか無いが増えた。
新聞紙を剥がして行くと、包まれていたものが顔を出す。私の物とは違った少し小ぶりな花が散りばめられているお椀。丁寧に使われているから特に目立った傷もないそのお椀を、私が普段使っているお椀の隣に置くとその大きさの違いがはっきりと分かる。
こんなに大きさが違うものなんですね。私が沢山食べると言うのもありますが、普通の女子はこんな物なんでしょうか?ちゃんと食べているのかが不安になりますね……。
それにしてもこうして色々と増えてもまだ実感が湧きませんね。また妹と、しかも今度は二人で暮らす事になるとは、誰が想像したでしょうか。
また、一緒になれるなんて……。少し感傷的になってしまいましたが別に会っていない訳でも、メールや電話のやり取りをしていない訳ではない。「兄様は過保護過ぎます」とむくれながら言われるくらいにはやり取りはしてましたし(あの顔は可愛かったです写真に収めましたとも!)、休みには会ったりもしてました。
ですが、一緒に住むとなるとやはり違うものがあります。四六時中一緒になるんですよ、暫く離れて暮らしていた分、どうしようかと緊張してしまいますね。気になることだって沢山ありますし。
変わっていないか、とか、ちゃんとした睡眠を取っているか、生活リズムは崩れていないか、食生活はどうか、とか上げればキリがない位です。
過保護?シスコン?上等です。寧ろ兄たるもの妹を守るのが役目であり、道を踏み外さない為に導く事だってたまには必要です。日常生活如きで大げさかも知れませんが生活リズムが崩れると体調にも変化が訪れますし、油断出来ません。
そうなると日々の食事にも気を使う事になりますね。元々一人暮らしの自炊は基本中の基本ですし、心配させない様にちゃんとしてるから料理の腕は良い方だと自負してます。後はレパートリー。これも結構種類があるのでは?と思ってますし、妹が来るならば彼女と相談して色々な料理を作るのも良いですね。
あぁ、となると二人で台所に立つのも久しぶりになりますね。実家暮らしをしていた時は手伝いや、両親に感謝の気持ちを込めて一緒に作ったりしましたっけ?懐かしいですね。
一つ思い出せば次から次へと思い浮かんで来る。妹とのかけがえのない日常の全てを覚えているのでは無いがとふと思ってしまう。妹の事なら何でも覚えていられますがね。
そんな事を思いながら荷ほどきしているともう直ぐ妹が駅に着くと予定していた時間になる。携帯を見るけど妹から連絡は入っていない。順調に来ているならいいんですが、何か事件に巻き込まれていないと良いですね。あの可愛い妹ですよ、もしかしたらじゃなくて!本当に何かに巻き込まれる可能性があります。
早く迎えに行きましょう。ついでに段ボールを捨てに行って、買い出しも済ませてしまいましょう。今日は妹の食べたいものを作る予定だし、必要最低限しか送って来なかった分、必要になるであろう日用品の買い出しもしたい。後者はまた後日でもいいですね、彼女も疲れているでしょうし。
「よっこいしょっと」
若者らしからぬ声を上げて立ち上がると、それを見計らった様にチャイムが鳴る。何ですか、人が妹を迎えに行こうと言う時に。今から出るのに無視も出来ない。もし出るまでに見つかったら面倒な事になりますし。若干苛つきながらはい、と出る。
「こんにちは、兄様」
「な、何でもうここにいるんですか!」
目に入った光景が信じられず、思わず声を上げる。迎えに行くって言ったのに!駅に着いたら連絡下さいって言ったじゃないですか!急いで鍵を開けて妹を迎え入れる。癖で重そうに手に持っていたバッグを受け取る。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、当たり前の事です。で、迎えに行くと言ったのに、どうしてここまで来ちゃったんですか」
「えっとですね……びっくりさせたくて、つい」
えへへ、と頬を掻きながら笑う妹に何も言えなくなる。可愛すぎるでしょう!ですが、過保護と言われようとこれだけは言っておきたい。
「確かに吃驚しましたよ。連絡も無く急に来るんですから」
「それはすみません……その方が驚くと思ったんですが、急にメールが無くなると心配になりますよね」
「ええ、凄く心配しました。ドッキリも良いですが、連絡はして下さいね」
「はーい」
少し落ち込んだ表情を浮かべる妹に苦笑が溢れる。別にドッキリが悪かった訳ではない。私も吃驚はしましたし、こういうのもたまにはいいと思いますし。ですが、ちょっと眠いんでまた後でと言ったきりメールが途切れたのは心配でした。
乗り過ごしてないか、とか変な事に巻き込まれてないかとか。だから連絡さえしてればこういうドッキリだって大歓迎なんですよ。
「一旦お入りなさい。疲れたでしょう?お茶を淹れますから一息つきなさい」
「ありがとうございます。だけど荷ほどきも早く終わらせたいんです」
「心配せずとも先に送られて来た物は殆ど出しましたよ」
「流石兄様です、ありがとうございます」
「いえいえ、それ程でも」
トントン拍子で進んでいく会話。落ち込ませたかった訳ではないからこうして普段通りの反応をしてくれると私も安心します。さ、お上りなさいと言えばお邪魔します、と靴を脱ぐ妹にふふ、と笑いが溢れる。
「もうお邪魔しますじゃないでしょう?」
きょとんとした後にふ、と少し照れくさそうに微笑んだ妹。そこには喜びが含まれているのが分かりやすく出ていた。
「そうですね。じゃあ、ただいま、兄様」
「はい、おかえりなさい。手洗いうがいはきちんとして下さいね」
「なんだか本当に昔に戻ったみたいですね」
ふふ、と口元を隠して笑う妹は昔と比べて大人になっている。けれどこの関係性は全く変わっていない。それが私を安心させてくれる。いつまでも、は困りますが、
いつかお前が嫁に行くまで、お前を守らせて下さいね。声に出さずに思う。
「あ、そうだ。兄様」
立ち止まった妹に首を傾げて振り向く。
「これからよろしくお願いします」
「此方こそ拙い事があると思いますが、またよろしくお願いしますね」
深々と頭を下げた妹に習って私も頭を下げる。また、妹との共同生活がこれから始まる。妹が来るまであった緊張など、今はもう無くなってしまっていた。
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