透きとおった青い海はその身に太陽を沈め、赤々と燃え始めた。水面は黄金色を散らして、夕焼けが波と共に揺れる。浜辺は橙に染まり、そこへくっきりと影を落とす椰子の木は、どこか作り物めいて見える。異国であることも手伝って、まるで現実味が感じられない。ここの景色はきれいすぎる。
「きれいすぎて原稿の資料としては使いどころがない……」
「写真を加工して背景に使うのはどうですかね……?」
ぼそりと呟いてみれば、至極真面目そうに妹が返してくる。いつもの会話が落ち着くのはお互い様のようだった。初めての海外。他の誰も何も誘うとしたら彼女しかいなかったが、一緒に来られてほんとうによかったとも、ほんとうによかったか、とも思う。
妹の素足が柔らかな白い砂を踏みしめる。穏やかな潮風に裾がひらめいた。耳に髪をかけ、しゃがみ込む。落ちていた貝を拾い上げ、振り向いて嬉しそうに見せて来る。
なにせこの景色はきれいすぎる。
貸し切りのビーチ。非日常。強烈な錯覚を振り払う。世界で二人しかいないみたい、なんて、陳腐にも程がある。
すぐそこで寄せては引く波の音が耳を打つ。小さな足あとを辿って、小さな背中を見ながら、小さな頃を思い浮かべて、ついて行く。こんな風に歩いたことが、昔々にもあったろう。今のように、脱いだ彼女のサンダルを持って、転ばないように、後ろから見守って。
あの頃と、変わったもの。変わらないもの。変わってしまったもの。
変わってくれないもの。
「兄様?」
呼ばれて、すぐ目の前にいるから驚いた。驚いているうちに腕を組まれてさらに驚く。
「な、んですか、海外だからって気が大きくなってるんじゃないですか?」
「だってあんなに遠くまで行っちゃったんですよ?」
理由になってない答えの声はふてくされていて、見れば足あとはだいぶ先まで続いている。いつの間に、と同時に、無意識にでも妹から目を離してしまったことにぞっとする。リゾート地とはいえあくまでも海外だ。
「すみません私としたことがお前に何かあってからじゃ遅すぎるというのに……!」
すぐにでも海に飛び込みたい気持ちを、
「じゃあ、このままでいいですか?」
ぎゅうと腕に抱きつく体温が遮った。
「……いいでしょう、オマケに手まで繋ぎましょう」
「きゃー!腕組み手繋ぎ!リア充ですね」
「ごっこですからね!ごっこ!」
気がつけば辺りはもう、深い紫紺の夜へと色を変えていく。
「さて、そろそろヴィラに戻りましょうか」
来た道を引き返そうとすると、また腕に力を込められた。
ぽつん、と妹が言う。
「……一緒に、いてくださいね」
言われるまでもない、当たり前のことを、あえて口にするその意味を。
その言葉が、どの心から来るのかを。
――わかりたくはなかった。
「そうですね……一緒に、いましょうね」
お前が幸せになる、それまでは。
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