呼びかけて、振り向かれるのがすきだった。「どうしました?」「呼びましたか?」いつも、そんな具合に。どんな声量でも必ず(作業中や画面の向こうに没頭しているときは例外として)振り向いてくれる。
「そう大きな声を出すものではありませんよ」なんて、窘められることも少なくはないけれど。
 時々擦り寄ってくるぽちくんとたまさんを撫でて、溜め込んだ録画を黙々と消化しながら、要所要所で携帯から実況ツイート。日が暮れてきたら洗濯物を取り込んで、お夕飯を一緒に作る。ごくごく普通の、日曜日。
 ほんの少し目線を上げたところに、えりあしがあった。つやつやした黒髪は、自分の髪よりずっときれいに見える。今までの人生で、これと、横顔と、どちらをたくさん見てきただろう。ほとんど隣にいるのだから、横顔だろうか。でも今のように後ろから、ぼうっと眺めていることだって多い。そうして眺めているうちに、無性に飛びつきたくなってくる。
 それが妹としての条件反射なのか、もっとも妹として程遠い感情からくるものなのか、正直、まだわからない。笑ってしまう。物心ついたときにはもう、こうだったのに。
「……なんですか?」
 もちろん、呼びかけてもいないのに振り向かれるのも、すきだった。視線に気付かれて、少しだけ怪訝そうに(用があるならどうぞ、と顔に書いている)そう言われた。確かにこのままでは、後頭部に穴が空いてしまう。うふふ、と笑ってみれば、なんですかもう、とつられて同じ顔が笑う。いちばん見てきたのは、やっぱり、笑顔かもしれない。
「兄様」
「はい」
 すきです。
「背中に飛びついていいですか?」
「はい?!」
 言えるわけのない四文字を飲み込んで、答えを聞く前に飛びついた。