適当な背景と、障害物と、大量のモブが雑然と広がっている。昼休み、構内があふれ返るのは毎度のことで、慣れっこではあったが、慣れたいわけではなかった。人がぎゅうぎゅうに集まったとき独特の熱気がたち込めていて少し暑い。甲高い笑い声が通りすがりに耳を刺す。それら全てが不愉快、とまでは言わないのだから、この優しさは褒め称えられるべきとすら思う。本当のところ、これら全てがどうでもいい、それだけの話だったが。
 この目はとても正直だ。見たいものしか映さない。
 この耳はとても正直だ。聴きたいものしか通さない。
 こんなに素晴らしい目と耳だから、どんな場所でも、どんなときでも、すぐに妹を見つけることが出来るのだ。
 きょろきょろと辺りを窺いながら、自分のことを探す姿を見ていた。その顔はやや困っていて、可愛らしいのは言うまでもなかったが、ええいモブ共道を開けろと舌打ちしそうになる。手を上げて居場所を知らせようと思った瞬間、
 人混みの中で、目が合う。
「兄様!」
 急速に景色が色付いていく。雑音がぱたりと止んだ。
 だから他には何もいらない。必要とさえ感じない。
「お待たせしてしまってすみません!」
「いいえ、大丈夫ですよ。お昼にしましょう、お腹空いたでしょ。今日は、というか今日もお前のすきなおかずですよ。課題は無事に出せましたか?やっぱり私も一緒に行った方がよかったんじゃないですかね、まあこうして席は確保できたから良しとしますが変な輩に絡まれたりしませんでしたか?」
 すらすらと答えながら取っておいた席に妹を座らせて弁当を広げにかかる。うふふ、と笑う気配に顔を上げてみれば、また目が合った。可笑しそうに笑ってる。可愛い。
「お待たせしてしまって、すみません。ありがとうございます、兄様」
 もう一度同じことを言われて、はて、と首を傾げた。そんなに待ちくたびれたように、見えたんだろうか?