日に向いて咲く

 暑いときこそ手を繋ぎたくなるのはどうしてだろう。子供の頃を思い出すから?
 ぷらぷらと大きく腕を揺らしてみれば、「なんですか、子供みたいに」と笑われた。そう、今そう思っていたところ。
「だって、子供みたいじゃないですか?」
 夏の陽射し。暮れる空。蝉の鳴き声。あぜ道。ひまわり畑。
 笑い返すと、「それもそうですねぇ」なんて。ぐうん、とまるで行進するみたいに、もっともっと大きく振られる手。きゃあきゃあとはしゃいでしまえば、すっかり昔にもどっていた。
 ……ああ、だから、手を繋ぎたくなるんだ。背丈もちがう、声もちがう。肩の高さも、腕の長さも、ぜんぶちがう。今ではぜんぶちがう生き物になってしまったけれど、それでも。
 こんな暑い日に繋いだ手の体温は、すっかり同じに思うから。
「夏ですねえ」
 夏中、これが口癖になってしまう。とくべつすきな季節じゃなかったのに。この夏も、その前の夏も、そのずっとずっと前の夏も。何度も何度も繰り返すから、半ば呆れていらっしゃるかもしれない。でも、
「夏ですねえ」
 こうやって必ずこたえてくれるのを知っている。
 言われた通りに、日焼け止めを塗りなおしてきてよかった。夕方とはいえ、まだまだ強い陽射しが降りそそぐ。それでも青い空の端が、まずは薄いきみどりに染まっている。次にきいろ、橙、そのうちに真っ赤に暮れてゆく。この先にほんとうにお店があるのかしら、と不安になるあぜ道を、ずっとずうっと歩いていく。景色はさっきから変わらない。
 森と――、一面の、ひまわり畑。
 ステンドグラスを思い出す。
 賛美歌を思い出す。
 誓いのキスはいつも、おでこだったように、思う。
 
 今晩のおかずは何になさるんですか、肉なし肉じゃがとかどうですか、……そろそろお肉が食べたいですねえ、サラミ買って齧りながら帰りますか、ワイルドすぎやしませんか、ワイルドに吼えるぜ、ありがとうそしてありがとう、アニメも恋しいですねえ、録画たまってるでしょうねえ、えとせとら、えとせとら。
 歩きながら、話しながら、笑いながら。
 とくべつすきな季節じゃなかったのに、とくべつすきなあなたのせいで。
 また夏に恋をする。