sweet rain
薔薇園にいた。懐かしい薔薇園。何が目印というわけではない。肌が、気配が、そうと言っている。それだけでよかった。朝露が光を受けてそこかしこで輝いている。妖精達がそろそろと眠りから覚めはじめ、羽をふるわせる頃。
巨大化したペットがしくしく泣いていた。
……なんだそりゃ。
見上げてみると確かに大きい。残念だがとても抱っこはできそうにない。オブジェか何かと見間違えるほどの大きさで、ペットがしくしく泣いていた。
声をかけても届くかどうかわからないのに、どうして体は傍へと滑るように駆け寄って、口は勝手にその名前を呼ぶのだろう。
「ますたー」
そうして結局、どちらも叶わなかった。ぬるい雨粒と泣き声に、足が止まってしまったから。
ぱしゃん。バケツをひっくり返したような水のかたまりを、全身に浴びてずぶ濡れだ。ぱしゃん、ぱしゃん。断続的にふりしきるそれはあたたかい。
溺れそうになりながら、唇は、笑みをつくる。その拍子に口の中にするりと入り込んできた雨水は、少しだけ塩辛い。
ペットは自分を呼び続けて泣いていた。しくしくしくしくと泣いていた
そんなにすき?
そんなにすき。
いつの間にか言葉を交わして――これが夢だと気がついた。
ぱしゃん。
はじけるように夢が終わる。
慣れ親しんだマンションの壁紙を目にとめて、アーサーは現実を悟った。懐かしく芳しい香りも今は鼻先にない。
代わりにと意識したそれは隣のぬくもり。
……最早慣れ親しんだ薔薇の香りが鼻をかすめる。石鹸を、は小さくなっても使い続ける。頑として最後の最後まで使うのだという。ストックもたくさんあるし、新しく使ってくれてもいいのに、
「ますたーが作ってくれた石鹸だから」
そんな理由で。
それは、繰り返す日々の中で、もう何個目なのかわからないほど、特別なものではなかったけれど。毎回頑として、最後の最後まで使うのだという。
使いづらいだろうに。
唇は、笑みをつくる。もうとっくに、溺れていた。
寝顔を眺めながら、髪を撫でながら、ぼんやりと時間は過ぎていく。そろそろと妖精達が眠りから覚めはじめ、羽をふるわせる頃。
可愛いペットを抱きなおして抱き枕にした。二度寝の誘惑には抗わない。どうせ呼び鈴は鳴るのだから。
キスの雨をふらせて、おやすみと呟いて、アーサーの夜が明ける。