いつもありがと

「オレの前世が猫って言ったら、信じる?」
「え……怖……正直ドン引きするけど……?」
「やだ……さすが……この正直者……」
「へへ……褒められた……やったぜ……」
「よせやい……褒めてないぜ……」
「え……褒めてよ……褒めちぎってくれよこのおれを……」
「うわっ一松めんどくさい」
「へへ……」
「褒めてないぜ……」
 マジいらねえと言った手前、誰にも言いたかないんだけど、ともだちとの会話は、ここちよかった。でも、いまだに、こそばゆかった。だってこんなクズでゴミでニートでも、人間のともだちが出来るとは、思いもしないし、思っても、みなかったし。
 だけど、ぼくはこのともだちと、どうやってともだちになったのか、覚えていない。今更聞くのもなんか……あれ……あれじゃん……という気持ち。気まずいじゃん。
「ここでいいの?」
「うん」
「人っ子一人いないじゃん」
「そう……だから色々便利……」
「やだ……あまりにも怪しい……」
 ちょうどいいとこで玉がなくなって、分けてもらったパチンコ台だったかな。それとも、野良猫にニボシをあげてたら、隣で同じことしてたからだっけっか。呑んだくれて全裸で道で転がった朝に、起きたら似たような呑んだくれと、ちょうど目があったからだったっけ。
 路地裏をどんどん進んで、曲がって、曲がって、行き止まりの吹き溜まりに、大の男がふたり。せっまいところで、肩なんて並べて、しゃがみ込んだりなんかして。
「絵面がやばいな」
「また職質されそう」
 気がついたら、いつもいつも、隣にいた。
 確かにそういうとこは、猫みたいって、思わなくもないけど。
「一松の前世はさ、なんだった?」
「えぇ……電波かよ……なんだろう……煙草の吸殻とかかな……」
「ちゃんと考えて答えてくれる一松はいい奴だけど自己評価がズタズタだなあ……」
「やったぜ……」
「よせやい……」
 さっきからの繰り返しのやりとりに、顔を見合わせて笑ってるうち、“ともだち”の墓が掘り終わった。
 道端で、転がってた“ともだち”を、ともだちは連れてきてくれた。ぼくはもちろん、手も服も、いつも汚れてるもんだから、全然気にしないんだけど。でも、普通の人は、そうじゃないんだろ。なんだあれ、汚いなって、そういう目で、ぼくたちを見るんだろ。
 でも、ともだちは、手も服も、一緒に汚してくれる。墓を掘ってくれる。
「ハンカチいる……?」
「……お前が先使えば……?」
 一緒に、かなしんでくれる。
 かなしいけど、うれしくて、変な気持ちだった。
「オレね、一松の前世はさ、一松だと思うんだよ」
「えぇ……意味わかんない……あと話題のチョイスがしつこすぎない……?」
「突っ込みが辛辣ぅ……」
 深く深く掘った穴に“ともだち”をそっと置いた。埋める。埋める。他の生き物が、間違えても掘り返してしまわないように。
「オレの前世が猫でさ、一松の前世が一松でさ、前のオレも一松に墓作ってもらった気がすんだよ」
「頭大丈夫……?」
「突っ込みが辛辣ぅ……」
 ぺんぺん、と土を手で叩いて、完成した墓を前にして、「一松」とともだちが呟く。おん、と返事をして、顔をあげると、目が合った。
 まんまるの目が、細まる。
 ――あ、笑った。
「いつもありがと」
 目の前のともだちが言ったのに。
 どうしてだか、土の中からも、声が聞こえた気がした。