ざあんざざあん、波はおだやか。いつも通りの景色です。
 彼女が隣に座ってました。いつも通りの景色です。
 でも、僕はこいつが誰だか知らないのです。
 イギリスの野郎は「お前にもじきにわかる」なんて、大人ぶったことを言ってました。「彼女は彼女だ」とも。
 いいから早くシーくんのこと認めやがれって話ですよ。
 横顔を見ても、やっぱりどっかで見た顔ですよ。ちらりどころかじろじろと、色んな角度で見たんですから間違いねえです。
 周りをぐるぐるまわっても、ちっとも表情は変わらない、それどころか随分おだやかな顔をしてやがります。
 ざあんざざあん、波と風と共に長すぎる髪の毛が揺れて、見てると眠くなる奴でした。
 今日は、シーくんと似たセーラー服を着てましたが、舞踏会に出るような、ドレス姿の時もあります。
 でも、どんな服を着ていようが、いつだって古びていて、ぼろぼろの服でした。
 雨ざらしにあった後みたいな、色褪せたものばかり着ています。可哀想です。
 それにしても、全然気付かなかったです。
 腕をくんでうんうん考えてたら、シーくんこいつに抱っこされてました。いつの間に。噂のNINJAかもしれねえですよ。
「シーくんは大人ですからね、おとなしく抱っこされてやるです」
 膝を抱えてちっちゃくなってるとは言え、すっぽり収まっちまう体の大きさには、“へきえき”するですけれども。
 その分心がおっきいのです!
「でも重てえです」
 ずっしり頭に乗っかってくる重みに、帽子ごとつぶされてました。
 シーくんには理解できないですよ。なんで女のひとはおっぱいばっか太るんですか?

 ……そうしてそのまま、うっかり眠っちまったです。波の音は、いつだって子守唄でした。
 しっかしほんとう、妙な奴です。こうしてじっと、シーくんのこと、ずうっと抱っこしたままだったんですか。
 呆れた奴です。でも腕の中の居心地は、少しは褒めてやってもいいですよ。
 そう言えば、寝ている間、ちいさく彼女が歌っていたような気がします。
 きらりと、視界の端で金色が揺れました。首を捻って見上げれば、波と風と共に長すぎる髪の毛が、きらきら光っていました。
 寝ぼけたかと思って目をこすってみたけれど、どうやら夢ではないようです。
 だって目の前には、それとよく似た夕暮れ時の、金色の海。
「……きれいですね」
(うん)
 ささやくような声。不思議な声。聞き覚えのある、声。
 なあんだ。たちまちにわかってしまって、少しだけがっかりしました。
 ……別に、お姉ちゃんなんか、欲しかったわけあるですよ。
「彼女は彼女だ」
 なんて、イギリスの野郎もよく言いやがったもんです。
 she is the she?
 she is the sea!
 しっかり発音しやがれってんですよ。
 
 (わたしは、あなたを、けずってしまうね)
 「そんなのへっちゃらですよ」
 (うん)
 「そんなんでへこたれるシーくんじゃないのです!」
 (うん)
 
 シーくんの目は海の色。
 シーくんの髪は海の色。
 誰にも認められてはないけれど。
 シーランド、僕は海の国。