第二十七話 スキルの検証と 練習?
手頃な倒木と石があったから座ってハナちゃんと向かい合う。「アロマテラピーと風魔法が増えてるね」
『はい。風魔法はフェル様が教えてくださいました』
いつもは髪の毛に紛れている蔓が、生き物みたいににゅっと目の前に伸びてきた。
蔓の先っぽがくるくる回ると、扇風機くらいの風が吹いてくる。おお、すごいな。
『フェル様結構スパルタでした……』
なんてハナちゃんがはにかんだ。や、やっぱりブートキャンプだったのか。
どうやらハナちゃんは普通のアルラウネより魔力操作に長けてるらしい。フェルから言われたってことはそうなんだろうな。こっそり練習してたとはいえ、コンロにもすぐ魔力を流せたし。
「問題はアロマテラピーだけど、どう? 今使えそう?」
『や、やってみますね……むん……』
むん……?
ハナちゃんは難しい顔で目を瞑ると、ぎゅっと両手に力を込めた。もしかしてハナちゃんて、改まってスキルを使うってことが苦手なのかも。それこそ一番最初に召喚された時、ステルスが勝手に発動しちゃったみたいにさ。無意識で体が動いちゃうタイプ? 無意識で動いた蔓は本当大変でしたはい。
普段考えないでやってることを、改めて意識すると上手くいかないとかってあるよね。その点、風魔法はフェルに教わったから安心して使えてるんだろうな。案外フェルはいい先生だったのか。ちょっと見直したぜ。
『むむむ……』
お、いつもと違う匂いがしてきたぞ。思った通り頭の花から香ってくるみたいだ。何に似てるかって言われたら、ラベンダーが近いか? リラックス効果抜群って感じ。ちなみに普段の匂いは……わからん。今まで嗅いだことがあるような、ないような、不思議な優しい匂いなんだよな。
「いい匂いだね」
『あ、ありがとうございます』
うっかり感想をそのまま口にするとハナちゃんがぽっと赤くなった。待って急にそんな可愛い顔されても困るっていうか俺の言い方マズかったごめんなさい。女の子に面と向かっていい匂いとかセクハラにも程がありましたごめんなさいそんなつもりじゃなかったんです。
「ごっごめんっ、いや花、花の匂いがね!?」
『ひえ……!? あう、ひゃい』
焦って弁明すればする程ハナちゃんが真っ赤になっていく。そ、そうかハナちゃんの花も本人の一部だからか? 面と向かっていい匂いって言い放ったのと変わりないのかっ? 結局セクハラなのかっっ??
ハナちゃんは赤くなったほっぺたを手で押さえると、両側の蔓で自分にビュウッと風を送った。さ、冷ましてる。
『…………すみません、その、えっと、へ、変に照れちゃいました』
「ご、ごめんね変なこと言っちゃって……」
『い、いえ私が呼び捨てされたかと勘違いしちゃったので……』
そっち?
え、いい匂いって言われたのは気にしてないの? え?
ってかハナちゃん、俺に呼び捨てされたぐらいでそんな真っ赤になるくらい照れんの?? それってだいぶ俺のこと…………
「……」
『……?』
強い風に乱れた前髪を直したハナちゃんが、まだほのかに赤い顔で俺を見つめ返してくる。
……今俺、何を考えた? 普通、そう一般的に考えて、急に呼び捨てされたらそりゃびっくりするわな。ハナちゃんはほら、照れ屋さんぽいし。
ふぅ、これだから独身男性は全く妄想力たくましくて嫌になるぜ。
「き、気を取り直してスキルの検証しようか」
『は、はいっ!』
何回気を取り直せばいいんだ、俺。
『むむむ……むん……、……これはどうですか?』
「……い、いい匂いですとしか……」
引き続きハナちゃんがスキルを使っているはずなのに俺には依然として効果なし。
アレコレ試してるうちにわかったことと言えば、ハナちゃんが念じれば念じる程匂いが強くなるってことだ。今じゃラベンダー畑にいるって言われても信じられるレベル。目を瞑ったら富良野が見えるぜ。
不思議とこんなに濃い匂いなのに鼻が痛くならないんだよね。なんでだろ。香水とかもつけ過ぎたら普通は臭いっていうか、キツいっていうか、鼻が曲がるっていうか。満員電車で遭遇した時は地獄だったな~。 あと柔軟剤の香りがキツすぎる奴もね。
そういう嫌な匂いじゃなくてもっと嗅いでたくなるような……いや待てこれもちょっとアウトな気がする。発言には今後とも気をつけていきたい。
ハナちゃんが真剣な顔で首を傾げた。
『やっぱり、向田さんにはどうやっても効かないみたいですね。それとも逆に、子供や魔獣にしか効果が出ないとか……?』
「効果の出方も違ったよね。ダリルとイーリスはほっと落ち着いてる様子だったけど、スイとドラちゃんは落ち着き通り越して脱力してたし」
スイなんてほぼゲル状だったもんな。『いい匂いー』って言ってたから害はなかったにしろちょっとビビったわ。
『スイちゃんとドラくんに比べると、フェル様は余力があると言うか……普通にリラックスしてらっしゃいました』
フェルとの違い……体の大きさとか魔力の強さの問題か? それならダリルとイーリスにもっと効いてても可笑しくないんだよなぁ。
『そもそも人と魔獣で効き目に差があるのかも……?? あの時はとにかく2人を安心させたいって思って……』
「スキルの対象にはその通りの効果が出て、フェルたちはあくまでオマケってことか」
推測だが、アロマテラピーはダリルとイーリスを前にしてそこで初めて覚えたんじゃないか?
ハナちゃんはまだアルラウネの体を制御し切れてない、理解が追いついていないんだと思う。何が出来るかも未知数だ。でもハナちゃんの体はハナちゃんの意思を察知して動くし、応えようとしてスキルになったんじゃ?
そう伝えるとハナちゃんは『そうかもしれません』と八の字眉で自分の蔓を撫でた。見るからに複雑そうだ。わかるぞ、勝手に動くのは困るけど、悪気はないっていうか、結局ハナちゃんのために動いてるんだよな。そ、添い寝だって体温や感触を求めてたんだろうしさ。
『折角覚えてくれたからには活用したいんですが、これ、敵味方関係なく効いちゃいますよね……』
「た、確かに……あ、でもハナちゃんは風魔法が使えるから、ある程度は効果範囲を絞れるんじゃないか?」
『! 流石です向田さん! 早速練習してみます!』
立ち上がってハナちゃんは風を巻き起こし始めた。さっきまで俺たちの周囲に広がっていた匂いがかき消されていくと思ったら、小さなつむじ風が目の前に出現した。
つむじ風はハナちゃんが蔓の先を差し込んだらふわっと解けるように治まった。中に閉じ込められてたラベンダーに似た匂いが一瞬鼻をかすめて霧散していく。
ハナちゃんや。
練習どころか一発で完璧に出来てます。
『……なんでぇ……?』
「ブフッ……」
自分でやったことなのにあんまり戸惑って情けない声を出すもんだから思わず笑っちまったよ。
『わ、笑わないでくださ、んふふっ』
ハナちゃんも笑っちゃってるし。和むわ~。
練習って言えるかわからんが十分な成果は得られたな。
しかし、これ以上検証したくても判断材料が足りないんだよね。俺には効果ないし。
どうしたもんか。