第四十七話 また明日
俺がそれぞれの注文を聞く前に『加護を授けて下さってありがとうございました。改めて御礼申し上げます』とハナちゃんが神々に祈りを捧げた。ハナちゃんは喋れないし神託を受けてないし神々の声が聞こえないしってことで一応俺からも代弁して伝えたが、どうやらちゃんと祈りは届いてるみたいだ。
謎の神様システムでハナちゃんの思考もある程度読めるっぽい。
相変わらず『ま、まあせいぜい頑張るのじゃぞ……』『先は長いしな、うん……』って微妙な反応をされてるハナちゃん、一体なんなんだマジで。
気になるけど気にしたら負けな気もする。
【注・ハナちゃんはムコーダさんの恋愛運があまりにも低いので神々に同情されています】
いつも通りリクエストを聞き終わりダンボール祭壇が消えていくのを見届けると、俺はへファイトス様、ヴァハグン様、キシャール様の順で話しかけられた。
酒好きコンビには俺のテナントを気にしてかレベルと戦闘のことを聞かれたよ。
全く、レベルなんかそんなすぐすぐ上がらないっての。
まぁでも明日は俺もちょっとだけ戦う予定だ。別に言われたからってわけじゃなくて、対イビルプラント用の武器を思いついたからね。
ネットスーパーに園芸用品コーナーがあるのはハナちゃんを育てた時に確認済なんで、恐らく除草剤もあるはず。フフフ、待ってろよイビルプラント。
もちろんハナちゃんの近くでは絶対使わないぞ。だってハナちゃん植物だし、危なすぎるだろ。
数がかなり多いって話だから二手に分かれたら効率もいいし、安心して除草剤を使えそうだな。
キシャール様はこの前一方的に頼んできたレビューについて聞いてきた。キシャール様が使ったことのない物をハナちゃんが使うようであれば使用感とかを教えて欲しいって話だったよな。
そもそも一応アルラウネなのにシャンプーで洗ったり化粧水やら何やら塗っても大丈夫なのか? って聞いてみたんだけどさ、キシャール様が言うにはどうやらハナちゃんの『擬態』は創造神様のお力で成り立ってるみたいで、むしろ『変身』に近いんだって。
しかも常時発動する永続スキル。流石創造神様だぜ。
だから髪や肌の表面部分はほとんど人間に似せてあるから化粧品は使っても大丈夫、効果も全然ないってわけじゃないそうだ。逆に熱めの長風呂なんかはアルラウネの体の深部まで届いてしまうので影響が出るってことらしい。
なるほど、ってなんで知ってるんですか風呂入ったこと。
『一緒にお風呂なんて大胆ねぇ~♪』
あーあー聞こえない聞こえない。
でも化粧品が普通に使えるって知れたのは大きいぞ。ハナちゃん、恐る恐る使ってたしね。キシャール様的にもハナちゃんが色々使ってくれた方が参考になるもんな。
ひとまず今日はハナちゃんが使ってるスキンケアのトライアルキットとシャンプー類の雑感をキシャール様に伝えたよ。
それから色々教えてくれたキシャール様にお礼がしたいってことで、ハナちゃんから代金を受け取って1枚銅貨2枚のフェイスパックを購入。
思いがけないプレゼントにキシャール様も喜んでたぜ。
『異世界人クン、転生者ちゃんたら良い子じゃない~!(……異世界人クンの恋愛運が一桁じゃなければ苦労しないでしょうに……)ま、まあ私も応援してるって伝えてちょうだいね』
フフ、そうでしょうとも、そうでしょうとも。
なんてったってハナちゃんのネットスーパー購入履歴、アロマテラピーサシェの材料はウゴールさんのため、ブラシはフェルのため、フェイスパックはキシャール様のためですからね。
これを良い子と言わずになんと言う。
しかしハナちゃんやたらと応援されてんな。良いことなんだけどさ、イマイチ内容がはっきりしないっていうか。
ま、まあいいか、良いことなんだよな?
【注・ハナちゃんはムコーダさんの恋愛運があまりにも低いので神々に同情されています】
最後のキシャール様の声も聞こえなくなった。ふう、終わった終わった。
俺は主寝室に戻るとしますか。
ハナちゃんはおやすみの挨拶してくれるのか、わざわざ廊下の方まで一緒に出てきてくれた。
「……えーと、きょ、今日は本当にごめん。あんなことになって」
散々お互い謝り倒した後だったが、寝る前にもう一度だけきちんと謝っておきたかった。
スイのお願いにハナちゃんが断り切れなかったとは言え、俺も混乱したまま流されちまったからな。
あの場でスイを説得出来なかった俺にも責任があるんです。
『あ、謝らないでください、向田さんは少しも悪くないじゃないですか……! 本当にごめんなさい……』
「で、でもスイやドラちゃんとはともかく俺と一緒とか嫌だったでしょ」
『え、全然嫌ではなかっ……………………いえ!! あの!? 恥ずかしくなかったわけではなくてですね?! そのっ恥ずかしいはもちろん恥ずかしいんですけどみ、みんなで!? みんなで入れたこと自体は嬉しかったというかなんというかその、えっと、はい…………ご、ごめんなさい…………』
「いや、い、い、嫌じゃなかったらよ、よかったよ、ハハハ……ハハ…………」
俺きゅっと下唇を噛みしめて去来する様々な感情に耐えた。
なんでそこで否定しちゃうんだよ、なんでそこで真っ赤になっちゃうんだよーーーっっ。
ぐわああ。
『えっと、えと、ええと……あ! そ、そう言えば、す、スイちゃんに説明までしてくださってありがとうございました……!』
「ど、どういたしまして……!!」
ぜ、全力で話題を逸らそうとしていらっしゃる。
全力で乗っかるけどな。
そりゃ今までだって隣の布団で寝るとかいう近すぎる距離をハナちゃんが当たり前のように受け入れてたのは知りすぎてるくらい知ってるが、まさか一緒の風呂まで許容範囲ってそれはちょっとつまりどういうこと??
あかん。
あんまり深く考えちゃあかんやつだ。
俺はゴフゴフとわざとらしく咳払いをして気を取り直した。
さっさと戻ってさっさと寝ちまおう。
「じゃ、じゃあおやすみハナちゃん」
『お、おやすみなさい向田さん。……また明日』
「ま、また明日」
軽く手まで振られて扉がしまる。
……な、なんかドキッとしちまった。
くそう、普通の挨拶のはずなのになんでそんなに嬉しそうに言うんだよっ、まるで明日も俺に会えるのが嬉しいって言われてる気が……
……いや、うん。
ハナちゃんのことだから本当にそう言ってるんだろうな。
俺にだってそれくらいわかる。
幽霊時代は寝て起きただけで何十年と経ってたって言ってたし、ハナちゃんにとって「また明日」があるってことは、すごくすごく嬉しいはずだ。
でもそれは!
俺じゃなくて!
俺たち!!
勘違いするなよ俺、うっかり勘違いしそうなことを言われるがそれはハナちゃんが俺をいつでも好意的に受け取ってくれてるって証拠だし俺に好意を抱いてくれてるってのはありがたいことに常日頃伝わってくるけどこの好意は決してそういうやつじゃない、そういうやつじゃないぞ、勘違いするんじゃない俺。
あくまで俺はハナちゃんの転生の切っ掛けであって現主人ってだけなんだからな!
はぁ~危ない危ない、また勘違いするところだった。寝よ寝よ。