第四十六話 煮えるの!?
「き……切りがないからもうこの辺にしておこ……」『は……はい……お、お疲れ様です……(お疲れ様とは……?)』
「お疲れ様でした……(お疲れ様とは……?)」
俺たちは入浴後から長きに渡る第一次謝罪合戦を無理矢理に終息させた。
はぁ、スイがあんなことを言い出すなんてなぁ。ドラちゃんとハナちゃんが風呂入ったって聞いて羨ましかったのか。ずっとハナちゃんの世話をしてきたのもあってすっかり仲良しだから気持ちはわかるよ、でも一緒に風呂はちょっと……。
いや待て、うっかりスイたんの勢いに根負けしたハナちゃんと風呂っていうあんまりな状況に流されてしまったがこのままだと『なんで今日はハナちゃん一緒に入らないのー?』とか言って1週間毎日一緒に入ることにならないか?
いかん。いかんぞ。色んな意味で。
ほ、ほら、ハナちゃんだってゆっくり風呂に入れないし、どうにかスイに説明しないと……な、なんて言えばいいんだっ?
ちら、と横目で見るとスイはキングサイズのベッドが広くて嬉しいのか『わーい』とコロコロ転がっていた。ぐぬぬ、可愛い。
スイはまだまだ子供だから時々わがままも言うけど、こっちが注意したことや言いつけはちゃんと聞いてくれる良い子なんです。
だから一から説明してきちんと言い聞かせればいいんだが。
もしかしてコレ男女の違いから話さなきゃいけないやつ?
それはちょっとスイたんにはまだ早いっ。
『……で、では失礼致します、フェル様』
『うむ、丁寧にやるのだぞ』
『もちろんです!』
俺が考えを巡らせているとハナちゃんは気を取り直したのか(まだ顔が赤いけど)、すっかり日課になりつつあるフェルのブラッシングを始めた。旅の途中も寝る前の時間とかにやってたよ。
なんでも初めてフェルと狩りに行って背中に乗せてもらって以来その感触が忘れられなくなったんだって。しかもあの時洗い立てだったしねぇ。ちょっとわかる。洗い立てのフェルの毛ってサラフワだもんな。
さっきも見た通りフェルは風呂ってか水が苦手だから、だったらせめてそれ以外のことで何かしたいってなったらしい。それでハナちゃんが駄目元でブラッシングをしてもいいかお願いしてみたら意外や意外、フェルがOK出したんだよな。フェルもブラッシング自体は気持ちいいみたいだし、なんだかんだハナちゃんから素直に敬われて
ちなみにハナちゃんはわざわざフェル用のブラシを購入済でなんと計3個も買ってた。色んな形状と種類を試したいんだってさ。
ハナちゃんが自分の金を使った購入履歴が今のところアロマテラピーサシェの材料とフェルのブラシっていう慎ましさよ。物欲が薄いのかもしれん。俺の背後霊になってからやっと色んな欲求が湧いてきたって言ってたし、ゆっくりでいいから買い物も楽しんで欲しいね。
って幸せそうにブラッシングしてるハナちゃんを眺めてる場合じゃない、スイたんが寝ちまう前になんとか話をつけないと……あれ?
ハナちゃんの顔色、さっきからずっと赤いんですけど。
恥ずかしさと湯上がりから来てるもんだと思ってたんだが、流石にちょっと長くないか?
「は、ハナちゃん大丈夫? もしかしてのぼせた?」
『はい? え、ど、どこか変ですか……?』
思わず心配になって声をかける。反応からして具合は悪くなさそうだけど、よく見たら首とかも赤いよ。い、いやこれは安全の確認であってみ、見たくて見たわけじゃないんで。
ハナちゃんの手によってサラフワになったフェルが、おろおろする俺たちを見てフンスと偉そうに鼻息を鳴らした。
『フンッ、湯になど長く浸かるからだ。普通のアルラウネだったらとっくに煮えておるわ』
『煮えっ!?』
「煮えるの!?」
で、でも確かに言われてみればそりゃそうか。ハナちゃんは擬態で人間に近づけてるだけで体は植物で出来てるんだし。
フェル曰くハナちゃんはどうやら普通のアルラウネじゃないっぽいのと、今は火の神アグニ様から極小ながらも加護を貰ってるから風呂自体は平気って話だ。
つまり風呂の温度と時間さえ気をつけていけば普通に入浴は可能か。よかった。ハナちゃんはフェルみたいに風呂嫌いじゃないし、一人だけ入れないとか寂しいもんな。
この間ドラちゃんと入った時はそんなに長湯じゃなかったから平気だったってことね。
今日はその……色々あったんで……つい長湯に……。
「フェル、小さめの氷出してくれよ」
『む……仕方あるまい。ハナよ、駄賃だ。とっておけ』
『わっ……ありがとうございます、フェル様……!』
フェルはふんぞり返ったまま氷魔法を使い、ハナちゃんの手のひらサイズの氷を出してくれた。ブラッシングの対価のつもりか? 素直じゃないんだから全く。
ってこのままだと氷でパジャマが濡れちゃうか。俺はアイテムボックスから小さめのジッパー付きビニール袋を出してハナちゃんに渡した。
『向田さん、心配してくださってありがとうございます。気付きませんでした……』
「どういたしまして。具合は悪くないんだよね?」
『はい、ちょっと暑いかなぁ? くらいで』
風魔法でそよそよと送風しつつ、ハナちゃんはビニール袋越しに氷でおでこを冷やした。
『ハナちゃんどうしたのー?』
ベッドの上からポンポンと跳ねながらスイがやってくる。
……あ。
俺とハナちゃんはアイコンタクトをしてこくりと頷き合った。
「……というわけでこれからハナちゃんは俺たちと別で入るからね、わかった?」
『うん、わかったー!』
俺たちとハナちゃんが入れる風呂の温度や時間の違いについて俺がしっかり説明するとスイは納得してくれた。
『(スイちゃんに説明ありがとうございます向田さん……! 本当にごめんなさい……!!)』
ハナちゃんの表情とお辞儀で完全に何を言ってるかわかりました。いいってことよ。これも主人の役目(?)
そう、スイはこっちが注意したことや言いつけはちゃんと聞いてくれる良い子なんです。
正直助かった。
スイに男女の違いを説明するのはまだ早い。
『悪い悪い、俺も気付くのが遅かったぜ』
『ううん、ドラくんが気にすることないよ。私の方こそうっかりしてて……』
『だからだって。ハナがうっかりし過ぎるからなー』
『うう……はい……』
はは、ドラちゃんがまた兄貴分面してるよ。
折角だしハナちゃんへの水分補給も兼ねてスポドリを出して皆で飲みました。
大変な風呂だったが新たな事実にも気付けたし、ま、まあ結果オーライということで。
風呂も入ったしさっさと寝たいところだが俺はこれから神様への
誘ったらハナちゃんは喜んで返事をしてくれた。
『是非! 色々見たいです! それに、加護のお礼も伝えそびれてますし、女神様からレビューも頼まれてますし……』
そう言えばそうだった、キシャール様に無茶振りされてたんだっけ。
俺たちは主寝室から出て隣の部屋に移動した。
……今思えばこれ、またとないチャンスだな。スイが皆で寝るとか言い出す前に自然とハナちゃんを別室に連れ出すことが出来たぞ。ハナちゃんには
俺はいつも通り神々に呼びかけた。
「みなさん、いますかー?」