第四十五話 勘弁してくれえぇーーーーーーっっっ
カレー、大好評でした。作り置きのはずだったドライカレーまで食べ尽くされたわ。流石日本の国民食と言われるだけある。発祥地インドだけどな。日本人は昔から魔改造が得意なんです。空っぽになってしまったカレーの鍋を見て俺は呟く。
『「2日目のカレー……」』
は、ハナちゃんとハモった。
俺たちは頷き合ってちょっとはしゃぐ。だよね、2日目のカレー食べたかったよね??
カレー味と違ってカレーは初めて出すからって少な目に作るんじゃなかったぜ。俺たちの中では一番少食なハナちゃんも珍しくおかわりしてたもんな。
そう言えばハナちゃんて水と日光だけで良くて実は食べなくても平気なんだっけ?
いつも美味しそうに食べてくれるから忘れがちだが、アルラウネなのに飯が食える体でホントよかったよなぁ。
「今度は鳥もいいよね。バターチキンカレーとか」
『あああ、絶対おいしいです……! トッピングに揚げナスとかアスパラとか……』
「ああ~、夏野菜カレー! 絶対うまいやつじゃん」
今度作る時は2日目のカレーが堪能出来るくらいたっぷり作ることを誓った。
そんでカレーと言えばやっぱこの強烈な匂いだよな。
換気としてリビングの窓をいくつか開けて風呂場に向かう。
豪邸に付いてる風呂はもちろん豪華で立派。こんな広い風呂に1週間毎日入れるなんて嬉しいね。
唯一風呂を喜ばない奴は今『やるなら早くやれっ』とぎゅっと険しい顔で目を瞑ってるけど。
伝説の魔獣も風呂の前には形無し。
まずは皆でカレーの匂いが染み付いたフェルを念入りに洗ってく。
まあ皆って言ってもドラちゃんはあんまり手伝ってくれないんだが……
『お加減はよろしいですか、フェル様』
『うむ。もっと強くてもよいぞ』
『はい』
……皆の中にハナちゃんも入ってる件ついて。
ハナちゃんはボディスとエプロンとタイツを脱いで、洗濯する予定のシャツとスカートと素足という格好でフェル洗いを手伝ってくれてます。
俺もハナちゃんを見習って洗濯予定のズボンを膝まで捲ってる。どうせ洗うやつだからフェルにブルブルってされても良しとする。上は少し躊躇ったが断りを入れてから脱ぎました。許可大事。
フェルの体はデカいから手伝ってもらえたらそりゃ助かる、助かるよ。
でもさ、いつも隠れてる足が見えてるってだけでドギマギするのは俺がっ、俺が悪いのかっっ?
そんなのもちろん俺が悪いに決まってますですごめんなさい。
立ち去れ煩悩。
素足ぐらいなんだ、服を脱いだら人類皆素足だよ(?)
なるべくハナちゃんの方を見ないようにワッシャワッシャガシガシと無心でフェルを洗った。
おかげでいつもより早く洗い終わった気がするぜ。
借家を濡らさないよう風呂場の中でブルブルっとしてもらい、フェルは風魔法で自分を乾かすとさっさと出ていった。
『フェルおじちゃんのブルブルすごかったねー』
『すごかったねー』
スイもハナちゃんもキャッキャしてる。二人にかかればフェルのアレも楽しんじゃうのね。俺的には毛も水も周りに一気に飛び散るから覚悟してもちょっとなぁ……ん?
周りに一気に飛び散るから?
「ゲッッッホ、ゴホッゴホッ」
『む、向田さん!?』
『あるじー、大丈夫ー?』
『なんだよ、フェルの毛でも食ったかー?』
三者三様の言葉を聞きながら俺はその場に蹲った。
ハナちゃん、透けてるーーーーーー!!
盛大に透けてますーーーーーー!!
シャツが濡れてぴったり張り付いて見えては行けない物が見えてますっ。
「だ、大丈夫っ、そう、ドラちゃんの言う通りフェルの毛が口に入っちまっただけだからっ」
『あぁ、すごい勢いでしたからね……』
『ドジな主人だなー。早く風呂にしようぜっ』
『フェルおじちゃんの毛おいしいのー?』
『フェル様の毛はおいしくないよスイちゃん、たぶん……』
平静を装って俺はゆっくり立ち上がる。薄目で。
落ち着け向田剛志。
ハナちゃんが無防備なのは今に始まったことじゃないだろ。
今はまだ気付いてないみたいだけど自覚したらきっと恥ずかしい思いをするに違いない、洗濯の時だってなんとか型崩れを指摘出来たんだ、紳士たる者これくらいはスマートに……
『今日はハナちゃんも一緒に入ろーねー』
『?! げっっほ、ごほっごほっ』
俺が声をかける前に今度はハナちゃんがむせた。
スイたんや…………。
スイたん…………。
それは…………
それは勘弁してくれ…………。
『おいおい、ハナまでフェルの毛食ってんのか』
『おいしくないよー』
『えーっ、食ったのかよ?』
『うふふー、お片付けするんだもんー』
言葉の通りスイの分裂体が飛び散ったフェルの毛やら汚れを綺麗にしてくれていた。
それはありがとうスイたん。
でもスイたんや。ああスイたんや。おおスイたんや。
どうして話をややこしくしてしまうんだい?
『すすすスイちゃんっ? わ、私は後でいいの、スイちゃんは向田さんとドラくんと一緒に入って……』
『だめーっ、この前ドラちゃんと入ったって聞いたもん、スイとも入るんだもんっ、ハナちゃんとあるじとドラちゃんと皆で入るのーっ』
皆で入るのーっ……
入るのーっ……
るのーっ……
のーっ……
ブルブル高速で震えながら駄々をこねるスイの声が風呂場に反響していった……。
どうしてこうなった。
『おっふろ、おっふろ、皆でおっふろー』
『っかぁ~、やっぱり風呂はいいぜ』
『……い、いいお湯です、ね……?』
「……そ、そうだね、ははは……」
ステルスハナちゃんin一緒の湯船。
どうしてこうなった??
俺だけじゃなくハナちゃんもスイに甘いからってコレは断ってもよかっただろーっっ。
もちろんステルスでハナちゃんの姿は見えないよ?
見えないんだが。
『ハナちゃんすごーい、見えないのにここにいるのわかるー!』
『この前入った時もこうだったぜ。いつ見ても面白いスキルだよなー』
『あ、あははは…………』
消えてるハナちゃんの姿がお湯の中にくっきり浮かび上がってるんだよ。そうだねすごいねそこだけすっぽりお湯が消えてるみたいに見えるね逆に生々しいんだわ。
0.1秒で目を逸らしたけどな!
ていうかなんとかステルスを使うことまではスイに『いいよーこの前ドラちゃんともそれで入ったんでしょー』って許されたんだがもし『だめー』って言われてたらどうしてたのっ?
そんなの想像だけでギルティなんですが。
『ご、ごめんなさい向田さん、断り切れなくて……』
「いっ、いやこっちこそなんかごめんっ」
なんかごめんって何??
お、落ち着け、落ち着くんだ俺。さっきから落ち着こうとしてるが落ち着けてないとかそんなこと考えてる場合じゃない。
万が一にでも俺の腰のタオルが落ちるなんてことはあってはならない、絶対死守する。
幸い二人で足を伸ばして入ってもぶつからないほどの大きい風呂だから気を付ければまず接触はない。ありがとう豪邸の風呂。
お湯がハナちゃんの形に窪んでるのも見ないようにすればいい、そもそもおかげさまで視覚的な刺激は少ない。ありがとうステルス。
だから大丈夫……大丈夫…………
『あるじとハナちゃん、ちょっと違うー?』
『ああ、人間の雄と雌だからな。まあハナはアルラウネだけど形はほとんど人間と変わんねえよ』
『そうなんだー。あ、ハナちゃんのここはスイみたいにプルプルするねー』
勘弁してくれえぇーーーーーーーーーーーーーっっっ。
風呂から上がって身支度を整えた俺とハナちゃんはお互いにしばらく平謝りの応酬をするのであった……。