第四十四話 お金は大事だよ

 一軒家を案内してくれた商人ギルドのドメニコさんが帰った後、ハナちゃんはするりと姿を現して呆然と呟いた。
『………………ひっっっっっっっろい………………』
 は、ハナちゃん口開いてる口開いてるっ。
 ま、まあ俺もさっきそうなってたけどな。まさかこんなテレビでしか見たことないような豪邸を紹介されるなんて思ってもみなかったし、しかもこれから1週間はここが拠点になるんだぜ?
 そりゃお口もぽかんだよ。
『うふふー、ハナちゃん変な顔ー』
『えっ!? み、見ないでスイちゃん~』
『あー逃げたー! 待て待て~』
 うん、豪邸だろうが可愛い×可愛いは超可愛いだな。
 スイとハナちゃんがキャッキャウフフと追いかけっこしても全然余裕なくらいリビングはだだっ広い。
 元より省スペースなドラちゃんはもちろんフェルがその辺で寝そべってても全然余裕。
 そんな広くて豪華なリビングとダイニングの先にある立派なキッチンで今から作ろうとしてるのがカレーって知ったらまたハナちゃんのツボにハマりそうだな。フフフ。
 折角だから俺はこの家カレーを作るぜ!
 匂いを気にして作れなかったが今なら大丈夫、借りてよかった一軒家。
 こんだけ広いのに紹介してもらった物件の中でもここが一番小さいって言うんだから驚きだわ。7LDKでも持て余しそうなのに13LDKとか10LDKとか考えるだけでも恐ろしいぜ。賃料は1週間で金貨60枚だった。
 ちなみにだが基本的に宿泊代はハナちゃんから徴収しないことになっている。
 俺が決めました。
 ハナちゃんには大分渋られました。
 あらかじめドランで泊まっていた宿にも確認したが、日本のホテルなんかと違って宿泊人数が増えても一室一室の値段は変わらないらしい。金のない駆け出し冒険者は狭い部屋でギチギチになって寝るんだとさ。
 きちんと俺が「俺と従魔」の宿泊代を払ってるってことが証明されたわけだ。
 つまりハナちゃんが気にする追加料金は元より存在しません。
 存在しないものは払えないよね? ってちょっとずるいけど丸め込ませて頂きました。ハナちゃんは最終的にお礼と共に折れてくれたよ。だから今回も受け取ってません。
 ハナちゃん、その辺やたらと気にするからなぁ。そもそも自分だけ金銭を頂くのが申し訳ないって最初に言ってたくらいだし。
 でも全員に意見を聞いた上で必要・不必要の確認を行ったんだから何も一人だけ特別扱いしてるわけじゃないぞ。
 結局話し合いでハナちゃんが狩ってきた魔物の買取金額は半分ずつ分けるって決まったはいいが、正直俺が貰う割合が多すぎだよ。まあこの話で大事なのは貰うことより渡せたことだけどな。俺が直接出してばっかじゃハナちゃんも遠慮するだろうし、楽しく買い物して欲しいからね。
 ハナちゃんが言うには『せめて食費と生活費は受け取って下さい』って話だったけど食材は主に皆が狩った魔物を使うから、食費の内訳って調味料や追加食材、時々調理器具、飲み物やデザートその他って感じだよな。
 あとは今回みたいな宿泊代とか日々の買い物とか、街での滞在や旅でかかる費用がそのまま生活費になってるはず。
 うーん。ハナちゃんの気持ちも尊重したいが、やっぱりどう考えても俺が貰いすぎだって。
 もちろん俺にきちんと対価を支払いたいって気持ちは純粋に嬉しかったよ。
 俺の所持金が皆のおかげで膨れ上がってるのは当然ハナちゃんも知ってる。でも『確かにフェル様たちはすごいです。だけど全部、向田さんじゃなければ成立してません。向田さんが……向田さんもすごいんですよ』って言ってくれたんだよ。ええ子や……。
 たとえ俺が意図して手に入れた物じゃなくても、俺の物には変わりないんだって。
『……これ以上は貰いすぎになっちゃいます。私はもうじゅうぶん過ぎるほど、向田さんから頂いてますから』
 ……そう言ってくれたハナちゃんと議論を交わしなんとか折半まで持ってった俺、超頑張りました。ハナちゃん、なかなか頑固だからなぁ。
 しかし現状として懐にはかなり余裕がある。完全に支出より収入が上回っています。皆には感謝だよホント。
 だからハナちゃんから受け取った分をわざわざ使わなくてもよくない? って思ってるんだよね。
 あ、ハナちゃんの稼ぎが微々たるものだって言ってるわけじゃないぞ。俺一人じゃ倒せないような魔物も狩ってるんだからな。
 でもさ、やっぱり俺としても、ハナちゃんが手に入れた物はハナちゃんの物だって思うんだよ。
 うん、やっぱりそうしよう。
 今後もハナちゃんが狩りで得た収入は変わらず折半していくけど、俺の方では使わずに貯めていこう。
 もし将来ハナちゃんに必要になった時いつでも渡せるようにしておこう。
 元々はハナちゃんが稼いだ分なんだから文句は言わせないぜ。
 ドランで折半した分は別の袋に分けてあったし、これからもそこに入れていけば混ざる心配もないな。
 名付けてハナちゃん貯金だ。
 ヨシッ。
 ひそかにそんなことを決めつつ、俺は家カレーとドライカレーを作り続けた。
『……あれ? この匂い……あははっ!』
 カレールーを溶かした辺りで案の定笑い声が……。
 スイと遊んでたハナちゃんが早速キッチンに飛び込んできた。
『向田さん、もしかしてカレーですか!?』
「フフフ、バレたか。そうだよ、この豪邸でなんと家カレー」
『豪邸で家カレー!? ふふっ、あははははっ!!』
 うむ、今日もハナちゃんが楽しそうでなによりです。

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