第四十九話 食用可の赤い薔薇
『と、取り乱してしまってごめんなさい……』「き、気を付けてね……」
咲き続ける花をなんとか片付けた俺たちは森の外に出た。
な、何はともあれ飯にしよう。色んな作り置きの余りが少しずつあるから、それを出せばいいよな。
から揚げにとんかつにメンチカツ、牛丼にビーフシチュー、餃子にハンバーグにピーマンの肉詰め、豚汁と煮豚に半熟の味卵に肉豆腐。
並べてみたら何だこれ? って感じになっちゃったけど、フェルもスイもドラちゃんも食べ合わせとか気にしないから色んな料理があるって喜んでくれたよ。ハナちゃんはハナちゃんで『なんだかパーティーみたいですね』って笑ってた。パーティーメニューにしてはイマイチ彩りに欠ける気がするが、ハナちゃんが楽しそうなのでOKです。
収穫した花は飯を食ってる間ブルーシートに広げて晒しておいた。ちなみにブルーシートはいつも布団の下に敷いてるやつだからそんなに汚れてないけど、念のためスイに頼んで表面を綺麗にしてもらってから使ったよ。
白くて小さな花はハナちゃんがスキルで創ったオリジナルの花で、見た目はイチゴの花に似てるんだが、少し放置するだけでみるみるうちに乾燥していく。しかも変に萎びたりしないで綺麗な形を保ったままだ。
食べ終わった頃にはすっかりドライフラワーになってたからすごいわ。
アロマテラピーサシェの材料が欲しいって念じてこの花が出来たってことは、もしかしてハナちゃん次第で色んな花を咲かせられるんじゃないか?
思ったことをそのまま伝えたらハナちゃんもやってみたいってことで、食後にちょっと試してみることになった。
咲かせられるようになってからちゃんと検証出来てなかったしね。
主に
本人希望だけど一応あんなにたくさん咲かせた後なのに大丈夫なの? って確認したらまだまだ体力と魔力は有り余ってるらしい。マジかよ。
『早速やってみますね! むん……』
むん……。
花と言えばと思い浮かべたのが薔薇だったので、まずはそれを咲かせられるか実験だ。
きちんと詳細を思い浮かべなきゃいけない分、こういう花が欲しいって咲かせるよりもなまじ知ってる花の方が難しいのかもしれんね。
……覚えたスキルって本当はこんな風に効果を確かめておけばわかることが増えるし本人のためにもなる、わかってますとも。
でも
ただ正直な話、需要はありそうなんだよなぁ。どこの世界にも不妊に悩む夫婦はいるだろうしさ。鑑定結果に「滋養強壮作用があり、弱った体にも効果絶大」ってあったから栄養満点ぽいし。
ただどうにも強力過ぎるんだよ。三日三晩はヤバいです。
何かいいアイディアがあればいいんだけどねぇ。
『咲きました!』
考えてるうちに終わったらしい。ハナちゃんの方をパッと見ると……さ、咲いてる。
髪が伸びてると思ったら毛先が茨になってて、立派な薔薇がいくつか咲き誇ってる。色は濃いめのオレンジだ。お、お見事。
ハナちゃんがエプロンを両手でつまんで広げると、蔓が器用に薔薇を摘み取ってそこに乗せていく。茨はすぐぱきぽきと地面に落ちていった。
こうして見るとハナちゃんの髪や体は植物で出来てるんだなってにわかに実感するね。
『ハナちゃん、それなーにー?』
『これはね、薔薇っていうお花だよ』
スイにも見えるようにエプロンを広げたままハナちゃんがしゃがんだ。
『いい匂い~。食べてもいいー?』
『食べ!? えっと待ってね、鑑定……あれ? 食べられるみたい……ど、どうぞ召し上がれ』
『甘くて美味し~』
甘いんかい。
ハナちゃん産の花は食用可らしいです。
やっと咲かせたのにこのままだとスイに食べ尽くされちまうな。
そうだ。イビルプラント討伐にみんな頑張ってくれたし、奮発してデザートを振る舞おっと。甘い物なら花より不三家でしょ。
フェルにはイチゴショートのホールケーキ、ドラちゃんにはプリンの詰め合わせ、スイにはチョコレートのホールケーキ、ハナちゃんには塩を使った白いロールケーキにしよう。
フフ、俺は昨日ちゃんと見てたんだぜ。ニンリル様のリクエストを一緒に見てた時、夏のスイーツフェアのロールケーキに一番反応してたもんな。
みんなに買って出したら案の定『……な、なんでわかったんですか?』ってちょっと恥ずかしそうにお礼を言われました。
流石に一人でロールケーキ1本は多いと思うけど今日のはご褒美なんだし、ゆっくり食べてもらえれば……って思ってたら普通に五等分に切り分けちゃうんだもんなぁ。
まあ、ハナちゃんだしね。にこにこ顔でみんなに配ってるところ見たらなんか俺も嬉しくなったよ。
もちろん俺も頂きました。
塩ロールケーキは塩っけと甘さのバランスがちょうど良くて、思ったよりさっぱりとして美味かったぜ。
『あの、向田さん』
自分の分の白玉クリームあんみつを食べ終わると、ハナちゃんが遠慮がちに声を掛けてきた。
見るとさっきの薔薇を持っている。
他の薔薇は結局スイが食った様子から『そんなに美味いのか?』って興味を持ったドラちゃんと『ふむ、鑑定結果は甘くて美味とあるな』なんてフェルが後押しする形になって、ハナちゃんが配ったロールケーキと一緒に食べられちまったんだよな。
だからこれが最後の1本だ。
オレンジの薔薇はほとんど花の部分だけで、茎(枝?)が短いからか棘はついてない。
『よければ受け取って頂けませんか?』
……。
……。
……。
お、俺にっ?
『あ! もちろん食べなくて結構ですので!? 私の髪の毛から咲いた花とか嫌でしょうしっ、その、き、記念に?! せっかく咲かせられたのでよかったらと思いまして!!(引かれたかな?! いやでもせっかく1本だけ残ったしっ、記念にってのも嘘じゃないし……!!)』
俺が思わずぽかんとしてたら慌てたようにハナちゃんが早口になる。
「ご、ごめん嫌とかそんなんじゃないから、ただちょっとびっくりしただけで!」
『すすすすみません驚かせて……』
アロマテラピーサシェも記念にってくれたし、それと同じ感じ??
俺は若干緊張しながら薔薇を受け取った。
な、なんで緊張してるんだ俺? は、花とか貰うの久しぶりだし、うん。
「あ、ありがとう」
『は、はい(わ、渡せた……!)』
俺も貰い慣れてないわハナちゃんも渡し慣れてないわで無性に気恥ずかしい雰囲気が漂ったぜ。
花とか貰うのいつぶりだ? 卒業式以来?
記憶が定かじゃないくらいには久しぶりなのは間違いない。
……せ、せっかくだから大事にしまっておくか。べ、別にハナちゃんが言うような理由で食べるのが嫌とかじゃないぞ。気持ち悪いとか全然思ってないし、むしろ逆っていうか。
この薔薇って綺麗なんだけどさ、綺麗って思う前に美味そうって思うくらい甘くていい匂いがするんですよ。
仮にもハナちゃんの一部だった物なのに美味そうって思った上に口に運ぶのはちょっと気が引けると言いますか……。
アイテムボックスに入れとけばずっと枯れないし、ちゃ、ちゃんとしまっとこ。
あれ、この薔薇こんな色だったか? 濃いめのオレンジ通り越してこれはもう赤だ。さっきは確かにオレンジだったと思ったんだが。
そう言えば赤い薔薇って確か……
つい頭に過ぎった花言葉が恥ずかしすぎて俺は急いで薔薇をアイテムボックスにしまった。
い、いやハナちゃんにそういう意図はないだろうけどっっ。
なんでこんな時に思い出しちまったんだ俺。
落ち着いたらネイホフの街に戻って討伐の報告に行かないといけないんだが、しばらくソワソワした心地でした。