第八十六話 海の街もあとわずか

 滞在延長一日目は朝市で最後の仕入れ、最後の屋台巡り。ちょっとだけ冒険者ギルドに寄って、あとはひたすら飯作り。
 最後だと思うと名残惜しくなっちまって、週一魚介を食っても三ヶ月は楽しめるくらいには買い込んだ。もちろん最後の屋台巡りもここぞとばかりに食い倒したよ。
 滞在延長二日目は引き続きひたすら飯作り。神様ズへ貢ぎ物ついでに情報収集をして、なんと『神の聖刻印』というマジックアイテムをゲット。
 ケーキや化粧品や酒を捧げた後に次のダンジョンについて聞いてみたら、流石に神様なだけあって色々教えて貰った。
 なんでもアンデッドが出てくる階層があり、『神の聖刻印』を使えば攻撃が通るようになる……というか消滅させることが出来るらしい。神自作のマジックアイテム強すぎ。これを渡すんだから次のテナントが解放されるまで頑張れと念押しされたわ。
 そして今日は滞在延長三日目。
 飯作りも落ち着いたし、天気も良いから午前中に洗濯・午後には挨拶をしに冒険者ギルドへ行く予定だ。
 まったり朝食後の休憩を取りつつ、まずは昨夜の情報を皆と共有することにした。
 食後の飲み物は俺がカフェオレ、ハナちゃんがミルクティー、フェルとスイとドラちゃんがサイダー。
 違う飲み物が気になったスイが俺のカフェオレとハナちゃんのミルクティーを飲みに来て『ちょっとにがーい』『ちょっとしぶーい』って言うから笑っちまった。スイたんは可愛いねぇ。あとで加糖してあげようねぇ。
「昨日さ、神様達からエイヴリングのダンジョンのこと聞いたんだけど……」
 ……神様達って言っても答えてくれたのはヘファイトス様とヴァハグン様の男神様で、女神様達はさっさと帰ったみたいですが。
 整理しながら皆に伝える。
 ちなみにハナちゃんも初耳だ。神様にお供え物をする時は(色んなネットスーパーのページを見る時は)大体一緒だし昨日もそうだったけど、俺への神託はハナちゃんには聞こえてないから『二度手間になっても大変ですし、明日みんなと一緒に聞きますね』って言ってくれたんだよ。ありがたや。
 神の聖刻印だけは軽く説明したけどね。ちょっと待たされた上に祭壇にしてた段ボールの上に光り輝きながら神の聖刻印が出現したからな、
「ダンジョンは現在27階層まで。四方が石壁で囲まれている古典的なダンジョンで、ドランとは違いフィールド型の階層はないそうだ。ドランより攻略難易度は少し低いはずなんだけど……アンデッドが出る階層が3層くらいあるんだって」
『ぬぅ……』
『ゲーッ!!』
『あんでっどー?』
『アンデッド……(私ってつまり元アンデッド……?)』
 フェルとドラちゃんは戦ったことがあるんだな、思いっきり嫌そうな顔~。ドラちゃんなんて『俺アンデッド大っ嫌いなんだよ』だって。そ、そんなに?
 スイはピンと来てないのか不思議そうにぷるぷる揺れている。ハナちゃんは『私ってつまり元アンデッド……?』って思ってそうな顔だわこれ。元背後霊だもんなぁ。
『あるじー、あんでっどって何ー?』
「良い質問だなスイ~」
 俺はスイにも分かりやすいよう言葉を選びながら説明しようとする。
「一度死んで蘇ったような魔物達をまとめてアンデッドって呼んでる……って認識で合ってるか? フェル。骨だけのスケルトンとか、動く死体のゾンビとか……」
『うむ、大体その認識で良かろう。そして既に死んでいるが故に攻撃があまり通らんのだ。スケルトンやゾンビなど実体があるアンデッドなら頭を潰せば倒せるが、レイスなど実体がないアンデッドは何をしても倒せん。聖魔法があれば話は別だがな。きりがないので無視をするのが一番だ』
『だよなぁ。あいつらなかなか死なないし、何度倒しても立ち上がってくるんだぜ? 気持ち悪いのなんのってよ』
 フェルもドラちゃんもよっぽど嫌みたいだ。狩っても楽しくないって感じか?
『じったいがないー?』
『ええとね、スイちゃんのお水も酸の攻撃もすり抜けちゃうってことだよ』
『えー! うーん、倒すのが大変ってことはわかったよー』
 ハナちゃんも補足してくれてスイもなんとなく理解出来たみたいだ。
 アンデッドには聖魔法が有効、しかし聖魔法は伝説の魔獣とやらのフェルですら持ってないレア中のレア。
『なるほど、だからあのアイテムを授かったんですね!』
「そうなんだよ。流石に聖魔法のスキルを付けるのは創造神様にバレるとか何とか……」
『それって……アイテムなら許されるんでしょうか……?』
「ま、まあまあまあ……いつも酒を貢いでるから……セーフ……?」
『(アウト寄りでは……?)お、怒られないといいんですが……ヘファイトス様とヴァハグン様……』
 アウト寄りではって顔された気がする。ゴホンと咳払いで誤魔化しつつ、俺はアイテムボックスから鍛冶神と戦神から授かりし神の聖刻印を取り出した。
 見た目はシーリングスタンプそっくり。シーリングスタンプって名称、ハナちゃんに教えて貰いました。相変わらず不思議な記憶の引き出し。
 神の聖刻印の使い方は簡単だ。魔力を注ぎながら押すと、魔力で出来た聖刻印が押される。効果は一度で丸一日。
 そして聖刻印を押したもので攻撃すればアンデッドは消滅するとのこと。
 つまり。
「これを皆に押せばアンデッドに皆の攻撃が通る……っていうか消滅させられるんじゃないか?」
 アンデッドがいないから試しようがないけど、なんてったって神様自作のマジックアイテムだ。
 ほぼほぼ確信を持って俺が話すと嬉しそうな歓声が上がった。
『フスン、ますますダンジョンが楽しみになったな』
『ダンジョン、楽しみだね~。あんでっどもいっぱい倒すー!』
『アンデッドをバンバン倒せるなんて最高じゃねえか!』
『スタンプ、押すなら手の甲でしょうか? 楽しみです……!(テーマパークみたい……!!)』
 そ、そこ? 今日もハナちゃんが楽しそうで何よりです。
 皆やる気満々で、当然のようにダンジョン踏破するつもりだ。俺もレベリングするつもりだし、頑張るぜ。神様達に『わざわざそれを授けたんだから』『テナント解放のレベル40まで』って念押しされたのは癪だけどな。
「あ、あと一応ルバノフ教の話もしておくね」
 主にハナちゃんに。
 フェルもスイもドラちゃんも人間の宗教になんか興味ないし。
『ルバノフ教、ですか? だいぶ前にですが聞いたことあります……よね?』
 そうそう。俺が巻き込まれた勇者召喚を行ったレイセヘル王国も、ルバノフ教を信じる国だって冒険者に教えて貰ったっけ。あの時「この世界は優しくない」って思ったんだよな。
 次のダンジョン都市エイヴリングにはルバノフ教の教会があって、聖印と呼ばれる印を武器に付与しているんだそう。
 もちろんアンデッドは消滅するらしいんだが、効果はたったの約10回、なのにかなり高額。
 聖印を付与出来るのも別にルバノフ教に神聖な力があるんじゃなくって、大昔にダンジョンから持ち帰ったアイテムを使っているだけなんだって。エイヴリングの聖印は複製品だから効果も中途半端、らしい。
 ルバノフ教は簡単に言えば人間以外の獣人・エルフ・ドワーフ達を迫害するような人間至上主義で、ルバノフ教を信じない者は滅びる運命だと喚きちらす宗教だ。昨日も神様達に『エセ宗教』なんて言われてた。
「というわけで、今後もルバノフ教にもその総本山があるルバノフ神聖王国にも一切関わらない方針とさせて頂きたく……」
『異存ございません……! お話、ありがとうございました』
「いえいえ、共有大事だからね」
 全部話し終わって、そのままもう少しのんびりした。飲み物もおかわりしたよ。加糖したカフェオレとミルクティーは『甘くておいしー』ってスイちゃんに喜ばれました。
 ちょっとゆっくりして洗濯して、冒険者ギルドに挨拶したら明日にはもう出発だ。  

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