第八十五話 昇格しました

 街に戻り、朝預けた諸々とさっき皆が狩ってきた諸々のため冒険者ギルドに寄ってから俺達は借家の方に帰ってきた。
『腹が減った』
『ごはーん』
『飯減ったー』
 はいはい、まずは飯ね。
 街の門が閉まる前に戻らないといけなかったから森で食う時間がなかったんだよな。
 こういう疲れてる時にパッと出すためにも料理の作り置きって大事。
 出来たてを保ったままにしてくれるアイテムボックス様々です、ってことで今日の夕飯は森で揚げたフライを出すことにした。
『お、お疲れ様でした……』
「ハナちゃんもお疲れ……あと、おめでとう?」
『あ、ありがとうございます! ……向田さんも、おめでとうございます?』
「あははありがと……マルクスさん、頭抱えてたね……」
『あはは……』
「『はあ……』」
 同時にため息をつくことになった俺とハナちゃんは顔を見上げて見合わせて、それからちょっと笑った。
「……とりあえず食べよっか、はいお醤油」
『! ありがとうございます!』
 何はともあれまずは飯だ。
 ハナちゃんはタルタル派とウスターソース派に加わる第三勢力、醤油派……と言いつつ結局全部美味しいって食べるので派閥争いは起こりません。
 ストックしてある千切りキャベツと一緒に色んなフライを腹いっぱい食べたよ。
 全員食べ終わって皆の腹も落ち着いた頃、改めて赤竜レッドドラゴンについて聞いた。
 話は大体予想通りで、最初は普通に狩りをしてたが強い気配がして辿ったら赤竜だった、だから狩ったとのこと。
 ドラちゃんが先陣を切って誘導、スイが酸で翼を、ハナちゃんが水魔法で眼を狙って落とし、トドメはフェルの雷魔法だってさ。
 ……皆すごいことやってるよ、やってるけど……ハナちゃん??
『スイがねー、ハナちゃんに教えてあげたのー』
『教えてくれてありがとねぇ、スイちゃん』
『威力はスイ程ではないがな』
『が、頑張ります……!』
『まあでも良い狙いだったんじゃねーか? ちゃんと当たってたしよ』
『え、あれドラくん見えてたの!? すごい……!!』
 はい、俺の従魔達が仲良し。じゃなくて。
 え? 飛んでる赤竜の眼をスイに教わったウォーターカッターで狙い撃ち??
 こ、これマルクスさんに話してたら更に頭を抱えてただろうな……。
 と言うのも、俺とハナちゃん、それぞれ冒険者ギルドのランクがA→SとD→Cになりました。さっき祝い合ってたのはこれのこと。
 何でってそりゃあ赤竜のせいですよ。
 皆が狩った赤竜、実はちょうど目撃情報が上がっていた個体だったらしい。(ちゃんとフェルに確認取った。他に強い気配はなかったらしいから間違いないとのこと)
 冒険者ギルドに立ち寄った時には、まさに警戒体制を敷かれる真っ只中だった。
 俺はただ今朝渡したサーベルタイガーの依頼報酬やオークの肉(と肉以外の買取代金)を受け取りたかっただけなのに、流石に報告しない訳にはいかず……。
 赤竜を出したらマルクスさんもその場にいた職員の人達も呆然としてたっけ。
 俺としては変に騒がれたくないから手元に赤竜があることも討伐したことも内密にして欲しかったんだが、どうもそうはいかないらしく。
 なんでも飛べない地竜アースドラゴンならまだしも、行動範囲が広い赤竜は大陸全土の脅威になり得るらしい。
 脅威の対抗手段(フェル達のこと)を情報共有しないでどうするんだ、とのこと……。
 で、「赤竜を討伐出来るとんでもない魔獣を従魔にしてるんだからもうSランクでいいだろ」って理由で俺も問答無用で昇格させられた。
 その代わりじゃないけれど「一般の職員さんや冒険者には知られないように出来ますか」ってお願いしたら、その情報共有とやらは副ギルドマスター以上の人だけにして貰えたよ。騒ぎの元になりたくないからな。
 そして話が纏まりそうなところでフェルが『赤竜の狩りにはハナも参加しておったぞ。我の指南の元な』なんてドヤ顔で一言追加したもんだからさ……。
 マルクスさんは頭を抱えて悩みに悩んで、最終的にハナちゃんはCランクに昇格したって訳だ。
 俺もハナちゃんも「おめでとう?」『おめでとうございます?』って歯切れが悪かったのはつまり望んだ昇格じゃなかったから。
 ハナちゃんには『色々ご配慮して頂いてのDランクだったのに……』とマルクスさんを悩ませてしまった申し訳なさもあるみたいだ。
 本来Dランクスタートだって異例だろうに、たった数日で更に上がるなんてなぁ。
 俺もFランクになりたかっただけなのに一気にCランクに引き上げられたこともあったっけ。
 代わりに高ランクの依頼を引き受ける約束をして今に至るんだが。
 その時も「他の冒険者達から変な茶々を入れさせない」って各ギルドに通達して貰ったし、今回も「(主にハナちゃんに対して)変な噂を立たせない」って厳重に通達してくれるらしい。そこ大事ですからね。
「それでドラゴンのことなんだけど……」
 俺は本題を切り出した。
 ハナちゃんも懸念してくれたように、ドラゴンを獲って来られると正直色々と困る。解体を頼めるのは今の所エルランドさんだけだし、皆がドラゴン肉を食べたがるようなら一々ドランの街まで戻らなくちゃいけなくなる。素材は高価すぎて全部買取はして貰えないし、なんなら地竜の素材だって持て余しているからな。
 だから今後は「無用なドラゴンは狩らない」「攻撃されない限りは手出ししない」って皆にお願いして、それそれ不満げ(仕方あるまい)・あっさり(わかったー)・渋々(しゃーねーな)・重々しく(肝に銘じます……)承知して貰ったよ。
 それと赤竜を狩ったことについてハナちゃんが謝りたそうにしてたんで、しっかりフォローしておいた。
 仮にハナちゃん一人でフェルとスイとドラちゃんを止めようとしたって……まあ無理だろうな。
 結果は変わらなかったはずだからあんまり気にしないでって伝えたよ。
「あ、あと極小とは言えヴァハグン様の加護もあることだし、狩猟本能? がより増してる状態だったと思うし……」
『うぅ、ありがとうございます向田さん……(相変わらずやさしいなあ……)』
 よしよし、謝罪回避。ハナちゃんからの『ごめんなさい』は必要最低限でしか聞きたくないし、今は不必要な時だからな。ハナちゃんだけ責任を感じる必要もないもんね。
『ハナは何を小さくなっておるのだ? 今日の経験を次のダンジョンで活かすのだぞ』
『は、はいっ。本日もご指導ありがとうございました、フェル様』
『そういやハナは初めてのダンジョンだっけか』
『うん、そうだよ。楽しみ!』
『楽しみだね~。ダンジョン、ダンジョン!』
 もうすぐ出発だからか皆やる気満々だ。
 俺もダンジョンで少しは頑張る予定だし、事前の情報収集をしっかりしとかないとな。もちろん旅の準備もね。
 明日は朝市で最後の仕入れ、空いてる時間は全部飯作り。あ、街から出る前に神様ズへの貢ぎ物もしないと。  

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