「もう一週間ですか、早いですねえ」
編入学した日、十月一日がちょうど月曜日だったため、彼女にとって二回目の月曜日。
「あと三週間ですか、長いですねえ」
彼女の言葉をもじって言えば、一度きょとんとして、それからわかったように、「もう」と彼女がはにかみました。今日も朝日と笑顔がまぶしい。十一月まであと三週間、一日千秋の思いとはまさにこのことでしょう、ちょうど秋だし。
自然と、大学の最寄り駅で待ち合わせするようになっていました。開札を抜けてすぐ左側、柱の前あたり、そこがいつもの場所となりつつあります。もちろん当然のように毎朝迎えに行くつもりではありましたが、「遠回りになってしまうので」と心やさしい天使がそう言うので。この世界に舞い降りてくれた事実への感謝が深まるばかりです。
大学までの通学路はそう長くはありません。学生街にありがちな、乱立するコンビニやファストフード店なんかの前を通り過ぎて、構内へ入ります。
「昨日はよく眠れましたか、さすがに夜更かしはしなかったと思いますけど、新しく始まった深夜のあれは録画したDVDを借りれることになってますから安心なさい。それと、今朝はちゃんと食べましたか? だめですよ、きちんと食べないと」
歩きながら、ついそんなことばかり口につきました。私の言葉一つ一つに答えながら、妹が笑っています。可笑しいんでしょう。今まで何回でも何十回でもやりとりしてきたようなメールの内容を、そっくりそのまま飽きもせず会話にしていること、それを隣で交わせることが。あと、兄様はあいかわらず心配性ですね、なんて意味も笑顔からわかる。ふふふ。今日も私の妹が可愛い。満足げに頷いてみせると、また少しはにかまれて、今日も以下略。
つまりは、何が可笑しい、何が可愛い、そういう些細な考えは、なんとなくわかるしわかられている。込み込みで笑いあう。
双子という生き物はそういう風に出来ていました。
「わあ、」
何気なく見上げた妹が、ちいさく歓声をあげました。気持ちのよい秋晴れの下、構内の街路樹が、きいろとみどりのグラデーションに染まっていた。
正直に言うと、銀杏の街路樹というのは、始末が悪い。ぎんなんはすきですけど。その熟れた実は落ちた時にはじけて、そうでないものも誰かに踏みつけられたりして、地面はひどく汚れますし、何より臭いし。単純な感想です。
でも彼女が、色付く葉に心を奪われている。
「もう一週間もしないで見頃でしょうね」
だから何気なく言ってやると、
「でしょうね、たのしみです!」
今日も朝日と笑顔がまぶしい。
紅葉したら――満遍なく黄色く色付いたそれを、また、うれしそうに見上げるんでしょう。大きく目を見開いて、視界いっぱいに、おさめようとして。もう一度、「わあ、」と呟くかもしれない。それからきっと、いいえ絶対に、「兄様」って振り向いて。「きれいですね」なんて、笑う姿。
「今すぐ紅葉しやがりください」
「兄様」
何故咎められるんでしょうかね、ありありと思い浮かんだ情景の素晴らしさに銀杏に向かって中指を立てただけなのに。
やっぱり、彼女が見る景色、彼女がいる景色、それ以外に何も必要なものなどありはしないのです。
この世界に舞い降りてくれた事実への感謝が、また深まるばかりでした。
Oct.07|Oct.09
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