「ううう」
「そのうー言うのやめなさい」
 私の頭を、兄様がぽんぽんとたたきます。あやすような手つきはいつも同じで変わらない、子供にするそれ。いつにも増してそう感じるのは、まさに私が、子供そのものだからでした。
「出ません」
「まあ簡単には出ないでしょうねぇ」
 のんびりとした口調には余裕すら感じられて、思わず頬がふくれますが、おそらく兄のことですから、どうせ「ふくれる妹可愛い」とでも思っていらっしゃるに違いなく、むしろふくれる妹を見たくてわざとのんびり言っているような節さえありますし、そう考えると毎度毎度悔しいやら恥ずかしいやらうれしいやらで複雑にもほどがあるので、ふくんだ空気はそのまま飲み込むことにしました。ごくり。
 次の講義は人気がないのか、教室はがらがらで私達以外誰もいません。だから机の上に身体半分投げ出して、突っ伏すように腕を伸ばした、ややお行儀の悪い姿勢でいましたが、とくに窘めらることもなく、なんというか、ただ兄様に見守られていました。ついでにもう一度頭をぽんぽんとたたかれました。うう。
 回せるガチャはもうあと一回。
 流行ごとにはとりあえず手を出すタイプのオタクゆえ、今手にしている携帯の画面に表示されているゲームも、その一つでありました。あれです、キャラクターのカードを集めて強化するあれですとも、ちなみにジャンルは学園アイドル。始めたばかりでしたが、それでも欲が出るのが人間というものでしょう?
 レア度はやや高め、ハイレアじゃないことだけ唯一の救い。あの子がほしい、あの子じゃわからん、相談しましょそうしましょ!
「で、なんで私が回すんですか」
「ぶ、物欲センサー対策です……」
 携帯を兄様に渡して、両手を合わせて拝みました。兄神様何卒。
「仕方ないですね、どの子が目当てなんです?」
「この黒髪の……兄様に似てて可愛い子……」
「お前……そんな理由で……!?」
「もちろんです……!!」
「全く仕方ない子です……今度コスしてあげますね……!!」
「兄神様……!!」
 茶番入ります。はしっと手と手を握り合う。こういうことなら照れもせず出来てしまう兄妹でした。
「あ。」
「え? ……えっ!?」
 短く呟かれてすぐに察した、だって手と手を握り合うってだって今兄様に携帯を? 渡した?? ばっかりで???
「回しちゃいましたか」
「回しちゃいましたね」
「け……結果は……?」
「お前の手で見えませんねえ」
 またのんびりとした口調で兄様が言いました。ううう。見たくない気持ちと、手を離したくない気持ちがせめぎ合います。だってこういうことなら照れもせず出来てしまう兄妹でしたが、さすがに常日頃、手を繋ぐ機会はあるといえばそりゃあありますけど、それはそれとして、なんというか、なんでしょう、名残惜しいとでも言いましょうか。ほんとうは、手なら、いつでも繋ぎたい。だけどもう子供じゃない。
 でも、だから、私を子供扱いする兄様は、繋いでと言えば、いつも繋いでくださるんでしょう。
「はいはい、ほら教授来ましたよ」
「ううう」
「そのうー言うのやめなさい」
  私の頭を、兄様がぽんぽんとたたきます。あやすような手つきはいつも同じで変わらない、子供にするそれ。
 ガチャの結果はお察しください。

Oct.08Oct.10