「これが落ちなかったら、私は――、」
 言い切る前に小さな火の玉はぽたりと落ちた。思わずふき出して笑った妹の手元からも。
「あーっ! もう、やめてください急にフラグ立てようとするの」
「修行が足りませんね」
「おまいう」
「おまいう」
 二本目を出してやると嬉しそうに受け取って、次こそはと意気込む様子が可愛らしい。立てたろうそくのか細い火が彼女の顔を照らしてくれている。水を張ったバケツの中には、燃えカスがたくさん入っていた。やっぱり、最後と言えば線香花火。
 自分が住んでるボロアパートの後ろ、狭い中庭――といえるほど大したものではない、ただコンクリートで舗装されていない部分――のすみっこで、ひっそりと楽しんだ。大家さんに許可をとったら、「また時期はずれだね」と笑われたが、問い詰めたい。「そう言えば夏らしいこと出来なかったなあ」と、なんとなしに呟いた彼女の目線の先に、売れ残りの花火があったとして、買わないでいられる兄がこの世に存在するのか? と小一時間問い詰めたい。
 陽が沈むのを待ってから、十月の花火を粛々と遊んだ。弧を描く。中空に文字を書く。しゃがんで、眺める。隣から火を貰う。それから、
「えい」
「こら」
 互いの線香花火の火の玉を、くっつける。大きくする。火花がぱちぱちと爆ぜ、次第にじじじ、と鈍い音を立てて消えていった。火の玉は、落ちなかった。
「取り合いっこしましたよね」
「しましたねえ。今も変わらないじゃないないですか」
「ふふふ」
 上手く行けば相手の火の玉を奪うことが出来る。逆に取られてしまうこともあるけれど。取られたら負け、落としても負け。そうやって昔から、一番楽しかったのは、この最後を飾る線香花火だったように思う。
「ありがとう、兄様」
 今日何回目かのお礼を妹が言った。付き合ってくれて、花火を買ってくれて、大家さんに許可をとってくれて、バケツを用意してくれて、とか。たぶんにそういうことに対して言ってるんだろう。それでも自分にとっては、どうにもお礼を述べるのはこちらの方な気がしている。だって妹と、花火ができたのだから。
「どういたしまして、こんなことくらいならいつでも」
 だけど妹がありがとうと言うなら、返す言葉は決まってる。
「いつでも?」
 将来は庭付き一戸建てに住もう。その時彼女はきっと自分と住んじゃあいないだろうけど、敷地外の火気扱いは大体どこも厳しいから、庭はあった方がいい。
「ええ、いつでも」
 力強く頷くと、可笑しそうにくすくすと笑われた。笑顔が見れるなら、真冬でも構わない。

Oct.09Oct.11