問一、どこの馬の骨とも知れない輩が妹に声をかけているのを目撃した場合、兄として適切な言動は何か。
 答え、死ね。
「何か御用でしたら私が代わりに承りますが?」
 しかし妹がいる手前ストレートな二文字を引っ込めてやったのだから、床に這いつくばって泣いて感謝してほしい。まあ実際床に這いつくばって泣いて感謝されてもうわ気持ちわる、という感想しか浮かばないだろうけど。
「何ですか失礼な奴ですね、人の顔見るなり走って逃げるなんて」
「……顔というより、木刀では……?」
 とんとん、と担いだ木刀で肩を叩いた。急に袋から取り出してその感触を確かめたくなっただけであって、別に深い意味もなかったというのに。やれやれ。人がトイレに行ってる間にふてえ野郎だ。
 構内の自販機の近くにはだいたいベンチが設置してある。彼女が座って待っていたのもそれだったので、何か飲みますかと声をかけた。立とうとするのをやんわりと抑えて、リクエストだけ聞く。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
 ココアを手渡して、熱いですから気をつけなさい、と言ってやれば、素直にはあいと返って来る。可愛い。自分の分のコンポタを振ってからプルタブを開けた。今日の講義は全部終わって、しかも金曜日だから、もう今から休みみたいなものだ。明日の予定は彼女の家にお邪魔する予定になっている。先月までは毎日のように働いていたが、今はほとんどシフトを入れていない。引っ越しもすることだし、何より妹との時間もつくりたい。家電量販店から、何か違うバイトも考えている。
「飲んだら行きましょうか」
 なんとなく立ったままでいる。急かすつもりはなかったし、彼女の隣に座ってもよかったのに。
 とんとん、と缶の底を叩いてコーンを食べる。
「なんて?」
「さあ?」
 さあと言うからには、そうなんだろう。小さく彼女がうふふと笑った。
「追っ払っちゃうんですもの」
「ほんとに用があったら逃げないでしょ」
 しれっと言ってのけると、八の字に曲がる眉毛が可愛い。空になった缶を受け取って、ゴミ箱に捨ててやる。
「明日、何が食べたいですか? なんでも作ってあげますよ」
 まだ座ったままの彼女の頭を、これ幸いとばかりに撫でた。もう一度、うふふ。さっきから彼女はずうっと笑顔だ。だから木刀を出したことは、やっぱり間違いじゃない。

Oct.11Oct.13