何か言いかけてやめた顔、
すぐにわかる。
言葉の代わりに差し出されたのはなれ親しんだ手のひらだった。
「なんですか、子供ですか」
手を繋ぐのは、実はあまり本意ではない。両手は常に空いていた方が勝手がいい、妹に何かあった時のためにも。
「いいでしょう?」
「いいでしょう」
けれど片手が塞がっていたとして、その程度で彼女を護り切れないなんて、ちゃんちゃらおかしい話だった。へそで茶がわかせる。そんな自分はこの世にいてはならない。仮に今ここにトラックが突っ込んできてもどうにかする気概でいる、いつも。
「楽しかったですねぇ」
横顔から、上機嫌な様子と、名残惜しそうな気持ちが伝わってくる。めいっぱい遊んだ日はとくにそう、帰る家が違うなら尚更だ。今更だが、ほんとうに今更だが、どうして帰る家が違うのか理解できない。もちろんこのまま、送っていくつもりだった。今日も不動産屋に呪詛を吐く。絶許。
「来週の土日は実家に帰って、お前の荷物でもまとめますか」
「あ、ありがとうございます。兄様あんまり帰省してなかったですし、一緒に帰りましょ」
ぷらぷらと、繋いた手が揺らされる。彼女が手を繋いでとせがむのは、何も珍しいことじゃない。そりゃあ頻繁とも言えないけれど、まあ、そう、普通のこと。物心がついてから、しっかりた成長した男女の双子にとって、普通のこと。さすがに恥ずかしいのか、 意識してるのかしてないのか、こうした人気のない場所でせがまれることが多いように思う。
「可愛い」
「可愛い」
時折すれ違う、夕方のお散歩中のお犬さまにいちいち賛辞を送りながら、ゆっくりと、ふたりで帰路を辿る。歩いたことのない道を歩きたいと、道を選んだのは彼女で、これがまた当たりだった。彼女が選ぶ道を、外れとすることもなかったが。
閑静な住宅街の、素朴な遊歩道、といった感じ。大げさじゃないところがいい。ちゃんと街灯がついていて、土手にはすすきが沢山生えていて、季節の木には、手書きのプレート付き。風が強かったからか、緑の紅葉を何度も踏みしめた。
「明日月曜日かあ」
「ちゃんと目覚ましかけるんですよ」
「はあい」
言ってるうちに短い遊歩道が終わって、また入り組んだ住宅街に入っていく。駅の位置はだいたい分かっていた、道案内は自分の役目。
するりと自然に手が離れた。
ああ、とわかる。何を言いたかったのかも。家々に阻まれて、秋空はすっかり見えなくなった。
私が隣にいるんでは、迂闊に月も愛でられない。
Oct.13|Oct.15
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