「あっすごい、真っ赤ですよ兄様!」
そう言って駆け出す背中に、すぐさま「転ばないでくださいね」と声をかけました。これは兄としての反射のようなもので、ついと流れるように口からこぼれる決まり文句のようなもので。決して、くるりと振り返った彼女が子供扱いにむくれている様を、楽しむためだけに言っているわけではないのです。ええ、決して。
「もう、兄様もはやく!」
そう急かされてしまっては、「はいはい」と笑いを噛み殺しながらついて行く他ありません。今日も私の妹が世界で一番可愛いです。
講義が終わってから、図書室で少し自習した帰りでした。日が暮れるのがめっきり早くなりましたから、たとえば人通りが少なくて節電している廊下なんて、けっこう暗かったりするわけです。歩みを進める度、橙の光に近づいていきます。扉は開け放たれていて、一足先に飛び出た妹が、はやくはやくと手招きをしています。その、お目当ての夕焼けの中で。
燃えるような赤い空と、沈みゆく太陽を背に、彼女の影は黒く、けれど、こがねいろに縁取られていました。
足が勝手に立ち止まるのは、仕方ないことだと思いませんか。
「はい、良い顔して」
「ええー」
取り出した携帯に不服そうな声が上がったものの、すぐさま笑顔にシャッターボタンを押しました。夕暮れと妹、素晴らしい。逆光など私の敵ではありません。
ようやっと追いつくと、隣に並んでやったのが嬉しいのか、彼女がこちらを少し見上げてはにかみました。今日も今日とて、とてもまぶしい。
「すごい夕焼けですねぇ、きれい!」
「ちょっと美味しそうじゃないですか? 半熟卵みたいで」
茶化したつもりはなかったんですが、夕焼け綺麗さに飛び出した彼女にとっては、何か思うところがあったらしく、
「…………確かに」
でも結局同意した顔の、絶妙な微妙さ。とりあえずもう一枚。何撮ってるんですかもう、と一声上がるので、さらに一枚。可愛い。
「兄様のせいで半熟卵食べたくなりました……」
「いいですね、今日食べて帰ります? ラーメンとか」
提案してやれば案の定目をきらきらとさせるので、思わず手を伸ばして頭を撫でてやりました。これも兄としての反射です。嬉しそうに目を細める彼女のそれも、きっと妹としての反射なんでしょう。燃えるような赤い空、沈みゆく太陽、こがねいろに縁取られたふたり。
「夕焼けよりラーメン?」
「そんな花より団子みたいな!」
今度はしっかりと茶化してやりました。だってさすがにこの景色はちょっと綺麗過ぎて、ねぇ?
Oct.15|Oct.17
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