「今日は一日降ってそうですね」
 昨日はきれいに晴れた夕焼けだったのにと、恨みがましく窓の外を見てしまう。白っぽい昼間の曇り空と、さあさあと降りしきる雨。最近日中はずっとあたたかかったから、寒暖の差がつらい。にも関わらず、寒さにふるえる心配はなかった。何故なら、今朝会うなり膝掛けと、ほっかいろを渡されたから。
「寒くないですか? ほっかいろ足します?」
「大丈夫ですよ、ありがとうございます。あったかいです」
 ……何個持ってらっしゃるんだろう。足すって。
 一連の流れが自然すぎて感覚が鈍ってくるけれど、甘やかされている自覚はちゃんとある、はず。でも何が兄妹として普通なんだろうか。貼るタイプと貼らないタイプと両方渡してくるあたり、抜かりないなあさすが兄様だなあとにっこりしてしまったのだけど。あと膝掛けはこれ、コンビニとかでやってる一番くじで当てたものみたいで私がちょっと欲しかったやつ。さすが以下略。
「冬服も忘れずに持ってこないといけませんね」
  隣で鞄を何やら漁る兄様が何気なく言う、ご自分のも含めていいはずなのに、ニュアンスが完全に私の冬服のことしか指してない。兄様の冬服も間違いなく持ち出そう、と心に決めた。
 今週末は一旦帰省して荷物をまとめることになっている。今借りてるマンスリーマンションには、家具家電が備え付けのことと、一月しか過ごさないこともあって、だいたいの日用品と、なんとか着回せる程度の服しか持ち込んでいなかった。びっくりするほど身軽すぎる新生活の始まりだったので、だからやっぱり引っ越しという大イベントは、まだ果たされていなかった。
 どん、と机の上に置かれたのは大きな水筒。きゅるきゅると蓋兼カップが見ている間にはずされて、ほこほことあたたかな湯気が立つ。
「お茶です」
 ……ほっかいろ、膝掛け、お茶(New!!)。
「兄様って、……兄様って……」
 言葉を濁すつもりはなかったけれど、二の句が継げないとはまさにこのことだと思い知る。すると兄様が、
「私って? ……かっこいいって? なるほど」
 なるほど。なるほど? なるほど!?
 納得されてしまったので納得するしかなかった。確かにその通りなんですけど!
「おやなんですかお裾分けですかふふふ」
 釈然としない気持ちと共に、膝掛けを開いて兄様の膝にも掛けた。ほんとう兄様って、兄様。

Oct.16Oct.18