「金曜日ですね!」
「金曜日ですよ!」
「お休みですね!」
「お休みですよ!」
なんて頭のわるい会話かしら。少しだけ調べ物をした帰り、構内の人はまばら。誰も聞いていないことをいいことに、はしゃぎながら帰路に着く。はしゃいだついでに、手を繋ぐ。しょうがないですねえと兄様が許してくれるので、繋いだ手をぶんぶんと大きく振った。こどもみたい、と二人して笑った。
すっかり紅葉して、黄色く染まる街路樹のど真ん中を、贅沢に、我が物顔で歩いていく。一番星と二番星が並んで光る、夕暮れの秋空が晴れ晴れときれいだった。もう少しで吐いた息が白くなる気配がする。
「明日は何時の電車ですか?」
「そうですねぇ、お昼前には着いてたいところですが」
兄様はすぐさま携帯で調べて、検索結果を見せてくれた。やっぱり少し早起きすることになりそうだ。起こしてあげますから、と先読みした兄様がわたしに言う。いつもいつもありがとうございます……。
「モーニングコールしますね、なんなら迎えに行きますよ」
「……うふふふ」
「なんですかその怪しい笑い方は可愛い」
「怪しいのか可愛いのかどっちかにしてください」
「可愛い」
「ありがとうございます!! じゃなくて!!!」
即答する兄様に赤面しながら(日常茶飯事ではあるにしてもいつまでたっても嬉しくて恥ずかしい)、一度こほんとわざとらしく咳をして取り繕う。わざとらしく咳をして取り繕う妹も可愛い、という視線で見られたけれど、気づかないふりをして耐えた。
「今日はこれから兄様のお家にお泊りに行きます!」
「……はい?」
快調に歩いていた兄の足がぴたっと泊まり、一歩先に出てしまった。わたしはそのまま振り返り、うふふふ、と怪しく笑う。
「お泊りと明日の準備してきましたー」
「確かに今日荷物多いなと思いましたけど!!」
今朝はいつものかばんに加えて、大きめのボストンバッグにお泊り道具を詰めてきた。服はどのみち実家にあるし、そもそも土日はそれを取りに帰るのだし。
「だって、兄様と一緒に帰るの、久々なんですもの。たのしみで」
久々に、揃って家に帰るなら、最初から一緒の方がいい。
「……それとも、だめでした?」
だめじゃないと知りながら、わざわざわたしはそんな風に言う。「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜」と兄様は眉間に手をあてて、それから空を見上げて、「私の妹可愛すぎか〜〜〜〜〜〜〜?」たっぷり葛藤(あるいはシスコンという持病による発作)してから、いつもの涼しい顔になる。いや兄様全部声に出てます。
「あれっきりって言ったでしょう」
「うふふ、ごめんなさい」
忘れもしない九月九日、合格発表の日に言われたことを、兄様は言っている。終電を逃して、結局お泊りになったこと。狭い狭いアパートで、一つしかないお布団で眠ったこと。でも、わたしは知っている。兄様のこれっきりは、それっきりじゃないってこと。
「……しょうがないですねえ」
ね、ほら、やっぱり。
それからひょいと流れるようにボストンバッグを奪われてしまった。おやさしい。
「ありがとうございます! …あと何回遊びに行けるかな」
当たり前だけど、引っ越したら兄様の家に遊びに行く、なんてことは出来なくなる。今だけ出来るお泊りは、なんだかとてもとくべつで、名残惜しい気持ちにもなるけれど。
「私は早くお前と暮らしたいですけどね」
「わたしもです」
おんなじ気持ちを兄様が言うので、笑うしかなかった。
いつもおんなじ、いつも一緒、それがいい。それがよかった。
「あっそうだすみません、兄様パジャマ貸してください」
「だぶだぶパジャマありがとうございます〜〜〜〜(ほんとお前って子はしょうがないですねえ)」
「ほ、本音と建前〜〜〜〜!!!」
Oct.18|Oct.20
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