「飲みすぎです」
「はぁい……」
「うちだからいいですけどね、というかお父さんもお母さんも飲ませすぎです! 私が止める間もなく! まあ他所で失敗するよりは自分の許容量を知っていた方がいいってのはわかりますけどペースも早いしちゃんとこれからはゆっく少しずつ飲みなさいあと同量の水も小まめにきちんと飲みなさい、いいですね?」
「はぁい……」
 兄様の早口が昨日のお酒といっしょにぐるぐる頭をまわった。お小言の割りに眉を寄せた、心配してくださってる顔が、わたしの顔を覗き込んでいる。昨日のお夕飯は、二人が揃って帰省するのが久々だったのもあって、ちょっと良いお寿司を取ってくれて。お酒も、ちょっと良いのを出してくれて。結果はご覧のとおり、帰省二日目二日酔い。
「あの……兄様もわたしと同じくらい飲んでませんでした……?」
「私は強いので大丈夫です」
「わあ……兄様つよおい……」
「酔っ払ってたらお前を護れないでしょう?」
「わあ……兄様かっこういい……」
 二十歳になったばかりでもちろん同い年でいらっしゃるのに、そのわき上がる自信はどこから、と思わなくもない。思わなくもないけど、でも、兄様だもの、とも思う。だって兄様だもの。お酒も強いに決まってる。流石兄様。
「もうちょっとゆっくりしていきましょう、急ぎではないですしね」
「……はい」
 お酒が残っている感覚はあるけれど、枕元にお水、冷やしたタオル、兄様と三段構えで看病されるほどではなかった。心配し過ぎと両親が呆れるのも頷ける。兄様は心配性。普通に歩けるし、ちょっとだけ頭が重だるいだけで、こんなに大人しく寝ている必要はなかった。
 でも。
 昨日のうち(もちろんお酒が入る前)にまとめた荷物は、隅の方に箱詰めして置いてある二人分の冬服とか、細々とした日用品、それから実家からの物資。すぐ使うものは直接持ち返り、小さな物は宅配便で送ってもらう。ちょっと大きめの家具や、今寝ている布団なんかは、入居日に引っ越し屋さんが運んでくれる手筈となっていた。
 それで、少しだけ小ざっぱりした部屋の真ん中に、わたし分のお布団だけが敷かれてる。他の部屋は、荷物でいっぱいになってしまってるから。
 ここは、昔むかし、二人で一緒に寝ていた部屋。
「兄様」
 ぽんぽん、と布団の隣を叩いて催促した。我添い寝を所望します、の意。
「あれっきりって言ったじゃないですか!!」
「だって、兄様のこれっきりはそれっきりじゃないですもの」
 一昨日を思い出して、しれっと言い返す。
「ね、兄様いいでしょ、ちょっとお昼寝しませんか。急ぎではないんでしょう?」
 可愛い妹の頼みを、断るわけないですものね?
 だいたいそんな意味を込めて笑うと、ほら、やっぱり、笑ってくれる。
「酒の入った妹は甘えたですねえ」
「うふふ」
 わたしの隣、布団の上に横たわるかたちで、兄様は折れてくれた。近づいたお顔はいつものようにやさしい。でもでもだってが多くって、そのうちに、ほんとうに呆れられてしまうかしら。
 でも、でも、だって、わたしだけこの部屋に、一人で寝ているなんて。
「なつかしいですねえ」
「なつかしいですねえ」
 見上げた天井は見飽きたくらい知っている。いつからだろう、中学に上がった頃だろうか、高校に入った頃だろうか、一人一部屋になったのは。
 二人で寝ていたこのこども部屋は、今はもう、物置になっていた。
「ねえ兄様、新居は2LDKですっけ」
「ええ、はい。一人一部屋使えますね」
「一部屋、畳を敷きませんか?」
「おや、いいですね。やはり日本人は畳ですよね」
 そこにお布団を二組敷いて、一緒に寝ましょうね。
 そう言ったら、どんな顔するかしら。
「うふふ」
「……なんですかもう、寝ちゃいなさい、お昼寝したら帰りますよ? 明日月曜日なんですからね」
「ふふふ、はあい」
 ああわたしまだ、酔ってるのかもしれない。
 少しだけ身じろぎして、兄様に近づいてから目を閉じた。

Oct.20Oct.22