「はいどうぞ、今日のお弁当です」
「ありがとうございます、今日もおいしそうですね。いただきます!」
二限目が終わり、待ちに待ったお昼ごはん。わたしの衣食住の食は、現在ほぼ兄様に頼り切っていると言っても過言ではありませんでした。もっと言えば、マンスリーマンションを(おそらく推察するに半ば無理やり強制的に値切って)借りてきてくれたのは兄様なので、住も司っていらっしゃった。そして兄様が衣を司るとわたしの年齢にしては少々少女趣味なお洋服ばかりラインナップするであろう未来が目に見えているので少しだけ遠慮したい。少しだけ。ええ兄様好みに着飾られるのはもちろん嫌いじゃありませんがそれはそれこれはこれというものでして。はい。
「今日のたまご焼きは明太子入りですよ」
「おいしいです!」
お昼はだいたい、空いてる教室か、ロビーで食べている。学食の食堂はいつも混み合っていて、兄様の美味しいお弁当もあることだし、在学中に利用する日が来るかどうか、あやしいところでした。
「おや、飲み物なかったですね、ちょっと行ってきます」
「あっ待って待って! 兄様わたしが行きます!」
勢いよく立ち上がると兄様がぷっと噴出して笑いました、可愛い、そして恥ずかしい。だっていつも兄様飲み物とか買ってきてくださるんですもの。あと美味しいお弁当。飲み物くらいわたしが買いに行かねば、釣り合いがとれるかは別として……。
「じゃあ、お願いしましょうかね。ふふ」
「はい、お願いされました。兄様お茶?」
「お前と同じものでいいですよ」
「はあい」
じゃあちょっと行ってきます、と一言そえて、お財布だけ持って自販機を目指しました。お昼時のロビーはそれなりに混んでいて、同じくお昼を食べている人、外に食べに行く人、外で買って来た人と、そこそこ激しい往来です。自販機も少し並んでいて、三番目に回ってきたくらいでした。
「ほうじ茶にしようかな」
同じものを二本買って、元の席に戻ります。
それにしても、あの狭い台所で、どうやってあんな品数の充実したお弁当を作ってらっしゃるんでしょうか……流石兄様……。
そんな風に、考えていたわたしは。
遠くから、兄様を見る。
雑踏の間、行き交う人々の間、少し離れたところから、兄様を見る。
途端に顔が上がる。
目が合う。
「――、」
遠くでも、名前を呼ばれたのが、わかりました。
ああ。
ああ――この人は、ほんとうに。
「おかえりなさい、だいぶ混んでましたね、大丈夫でしたか?」
「ええ、はい、大丈夫ですよ。ほうじ茶にしました」
「いいですね、ありがとうございます」
今更のことでした。
けれども、時々、泣きたくなるくらい、胸がいっぱいになってしまう。
「じゃあ改めて、いただきます!」
「二回目のいただきます頂きました、はいどうぞ、召し上がれ」
この人の目には、わたししか、映っていない。
(わたしの目には、あなたしか、映っていないのと同じように)
Oct.22|Oct.24
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