chapter:石神千空
〈year 2019〉
体が、動かない。声も出せない。なんにも見えない。わかるよ、わたしもあのツバメと一緒になっちゃったんだ。それなら、大丈夫だってこともわかる。熱心に調べてたから。きっと今も考えてる。いつだって、どんな時だって、思考する。
千空なら。
きっと。
蝙蝠の棲う洞窟が、天然の硝酸を生む。岩の天井からぽつる、ぽつると落ちてくるそれを溜めるにも時間がかかる。いっぱいになった土器と空っぽの土器を入れ替えて、外に出た。
辺りには検証材料が大量に転がっている。途中で腕が折れているもの、逆に腕だけのもの、首だけのもの、砕けて粉々になっているもの。原因は落下、地震、動物その他諸々の外的要因――五体満足のものは、見える範囲では五分五分といったところだ。それらに集めた硝酸を、片っ端からかけまくる。試しまくる。濡れた石像に変化はない。
作業の傍ら、石像の顔を覗き込むことに大した意味はなかった。大方、決壊したダムの激流が、校舎ごと穿いたのだろう。デカブツが埋もれていたのは、その土砂のせいか。全てではないにしろ、見知った顔は多くいた。五分五分といったところか。同じ場所から同じように流されたと考えれば、必然だった。たとえば地中深くに埋まっていたり、遠くに流されていたり、判別不明なほど壊れていたら、それまでの話。
「……なんだ、いねーのか」
声が少しだけ震えて、それきりにした。残念そうにも、安心したようにも聞こえて、そんな自分が可笑しかった。