第二話 速攻でスイにバレた
「やっぱり今日やるかぁ……」カレーリナの街を出発して、もう夜中だ。女神たちのリクエストに疲れて眠ろうかと思ったけど、やっぱり気になって仕方ない。
俺はこそこそと布団から抜け出した。といっても、寝床の中からは出ないけどね。いやだって夜中だよ。結界あっても怖くない?
なるべく静かにアイテムボックスから植木鉢を取り出した。
「鉢はオマケにしとくよ」ってセダムさんがくれたけど、ううん、デカい。植木鉢っていうよりも高さのあるタライみたいだ。球根がデカいから仕方ないけど。
それから必要そうなものを片っ端から購入する。
初めて園芸用品コーナーを覗く理由がこれか……と一瞬我に返りかけたが、もう後戻りは出来ない。
挿すタイプの肥料も買ったよ。あと、じょうろもね。ぞうさんじょうろが売ってたから、思わず懐かしくて買っちまった。小学生の頃、夏休みの宿題でアサガオ育てたなあ。
それが今や大人の玩具を収穫するために使うなんて、昨日までの俺も思わなかったよ。くそう、ぞうさんじょうろ買わなきゃよかったか? 後悔先に立たず。
気を取り直して植え付けだ。
まず植木鉢の底の穴部分に、鉢底ネットを敷いて穴を塞ぐ。ええと何々、深さの1/5から1/4くらいまで鉢底石を入れる? ざらざらっとな。肥料や土のパッケージ裏面の説明書き、すごく助かる。何なら育て方のアドバイスまで載っていた。有難い。
石を軽く均したら、土を入れていく。よくわからなかったから、園芸用培養土とかいう土にした。なんとなく良さそうだろ。途中で肥料の層も作って、と。球根を真ん中に置いて、上から土を被せていく。ちょっとだけ土を平らにして、出来上がりだ。
ええと、あとは水……あれ、ペットボトルの水でいいのか? ミネラルウォーターは植物にあんまりよくないって聞いたことがあるぞ。というか水やり、今じゃないよな。夜中だし。でも折角植えたのに、あげないってのもなあ。
悩んだけど、とりあえず様子見で水をあげてみることにした。今晩はミネラルウォーターで我慢してくれよ。明日はスイに頼んで、水やり用の水をペットボトルに溜めてもらおう。
最後にぷすっとスポイト式の肥料を挿した。
ふう、終わった。
ちらっと後ろを振り返ると、うん、フェルもスイも寝てる。よしよし。
ここでアイテムボックスに戻したいところだけど、それだと時間経過しないんだよな。
つまり、いつまで経っても芽が出ない。
……早起きして、こっそり仕舞うしか思いつかない。トホホ。
寝起きにさっと仕舞えるように枕元に移動させて、今度こそ俺は眠りについた。
『あるじーなにそれー』
翌朝、速攻でスイにバレた。
いや俺は起きた、誰よりも早く起きたよ。
そしたらさ、植えたばっかの植木鉢からもう芽が出てたんだって。
あれから数時間しか経ってないよ? びっくりじゃない?
ごめんなスイたん、そりゃあ同じ布団で寝てるもんな、早朝に「よっっっしゃ」とかガッツポーズしたら、誰だって起きちゃうよな。
「こ、これはカレーリナの街を出る時に商人さんに貰ったんだよ」
俺はアイテムボックスに植木鉢を仕舞いながら、こっそりフェルを伺う。うん、寝てる。伝説の魔獣さん、ぐっすり寝てる。よかった……フェルは鑑定持ちだから、鑑定されたらこれが何か一発でバレる。絶対バレたくない。
『それっておいしいのー?』
「食べ物じゃないよ。……き、きれいな花が咲くらしいから育ててるんだ」
『へー! きれいなお花ー!!』
うう、心が痛いぜ。きらきらしたスイの目が眩しいくらいに刺さる。
って待ってなんできらきらしてるの?
『あるじー、スイも育てたーい!』
スイちゃんや……。
スイちゃんや……。
あのね……これはね……俺の……ダッチワ〇フ(予定)なんだよ……。
「だ、ダメダメ! 育てるの難しいんだぞ、水なんかあげすぎたら根腐れしちゃうし、そういうのスイにはわからないだろ?」
つい必死になって強い口調で言うと、布団の中のスイがブルブル震えた。
『スイもでぎるもん、ズイもぞだでるもんん』
「わーっ、スイ、しーっ! しーっ!」
泣かないでぇ! フェルが起きる!
……結局俺は根負けして、時々スイにも水やりをしてもらう羽目になったのでした。
「スイ、フェルには内緒な」
『どーしてー?』
「フェルも育てたがったら困るだろ? さっきも言ったけど水は上げ過ぎてもよくないんだ。皆で水やりしたら、すぐに枯れちゃうぞ」
『うんっ、わかったー! フェルおじちゃんには内緒ー』
姑息な言い訳だけど、ま、まあ嘘は言ってないし。
『あるじー、お花の名前はなんていうのー?』
「え? 名前?」
『んっとね、スイはあるじに名前もらって嬉しかったよ』
「そっかあーーーー」
スイたんや……。
スイたんや……。
だからそれはね……俺の……ダッチワイ〇(予定)なんだよ……。
「じゃ……じゃあ……そうだな……ハナちゃん(仮名)……かな……」
『わーい! ハナちゃんー!』
これで俺はダッチワイフを育てる男から、従魔に自分のダッチ〇イフを育てさせる男を飛び越え、未来のダッチワ〇フに名前を付けている男に成り果ててしまった。
俺の心は複雑骨折だよ。