第六話 (仮名)が外れました

 布団は畳んで仕舞った。ボス部屋のど真ん中に俺たちは居座っている。
 ハナちゃん(仮名)を地べたに座らせるのが申し訳なさすぎてネットスーパーで買える限り一番高級なクッションを贈呈させて頂いたよ。
 そうだよな。
 勇者召喚があるなら、異世界転生があっても可笑しくないよな。
 可笑しくないけどさ。
 よりにもよってなんで転生先が俺の育ててたダッチワイフだって言うんだよ!?
 あんまりだろ!!
 この子が不憫すぎるでしょっっ!!
『……あるじー、ハナちゃんがね、あんまり気にしないでーって言ってるみたい』
 俺が頭を抱えて悶絶してると、スイがとんでもないことを言い出した。
「へ? い、言ってることがわかるのかっ?」
『んーとね、わかんないけど、なんとなくわかるの。ねーハナちゃん?』
 こくこくと何度もハナちゃん(仮名)が頷いた。
 な、なんでだ? ずっとお世話してたから? いやでもそれは俺も同じだし……。
『ふむ。異種族だが、スイとこやつの波長が合うのかもしれん』
『ふーん、そういうこともあるんだな。ってことはこいつには俺の声だけ聞こえてないのか』
 ドラちゃんがハナちゃん(仮名)の周りをゆっくり旋回する。フェルはフンフン匂いを嗅いでるし。
 ちょ、ちょっと今はそっとしといた方が……と思ったけどハナちゃん(仮名)は囲まれても物怖じすることなく、興味深そうに皆を眺めている。
『お? なんだ?』
 目の前に来たドラちゃんに、ハナちゃん(仮名)がそっと指を出す。あれだ、有名なSF映画の宇宙人がやるワンシーンみたいな感じ。
『えっとね、ハナちゃんがよろしくだってー』
『握手ってやつか。仕方ねぇな、特別だぜー?』
 ドラちゃんの小さな手がきゅっとハナちゃん(仮名)の指を掴む。
『フェルおじちゃんにもよろしくって言ってるみたい』
『殊勝な心掛けだ。今は人ではないとは言え我と対峙して臆さない人間は久しく見るぞ、転生者よ』
 伝説の魔獣らしく振舞うフェルにハナちゃん(仮名)は深々と頭を下げた。
 何この和やかな雰囲気。
 え、俺だけ?
 この状況に焦ってるの俺だけなの?
『あるじー、ハナちゃんがあるじに言いたいことあるみたいなんだけどね、全部はむずかしくてわかんないの……』
 複雑な思考までは読み取れないってことか?
 スイとハナちゃん(仮名)にはどうやら、感覚のテレパシーがあるみたいだ。
 ハナちゃん(仮名)はぱくぱく口を動かすけど、声は出ない。話せないってわかってるのに口が動いちゃうみたいだ。
 ……そりゃそうだよな、元は人間なんだからさ。
 フェル曰く見た目は似ているけど、人間とアルラウネじゃ体の構造が違うらしい。
『アルラウネは人語に似た鳴き声を発する。訓練は必要かもしれんが、直に話せるようになるだろう』
『!』
 ハナちゃん(仮名)は嬉しそうにこくこくと頷いている。
 多分これフェルに「ありがとう」って言ってるな。何回もお辞儀してるし。フェルも鼻をフンスと鳴らして満更でもなさそうだ。
 でもやっぱり、今すぐには無理か。
「俺だって聞きたいことがたくさんあるんだけどさ……」
『ならば従魔契約を結べばよかろう。転生者とは言え、アルラウネなら可能だ』
 う。
 確かに念話なら喋れなくても大丈夫だけど……。
『そうだな、こいつだけ話せないのも可哀想じゃんか』
『あるじースイもハナちゃんとお話ししたいよー』
 うう。
 でもさ、元人間でばっちり記憶もある転生者なのに、従魔として契約されるなんて嫌じゃないか?
 いや、絶対嫌でしょ!!
 しかもこの職業……お、俺がダッチワ〇フになりますように~って育てた結果だし……。
 ていうか転生したと思ったら人外になってて知らん男のダッチワイ〇になってたらそりゃ泣きたくなるよ……うううう。
 俺が腕を組んで唸ってると、服の裾を引っ張られた。
 てっきりスイの触手かと思ったら……蔓?
 見れば、ハナちゃん(仮名)の髪の毛の中から、二房の蔓が伸びていた。それ、動かせるんだ。スキルの触手ってこれのことか。
 ってハナちゃん(仮名)、なんでもじもじしてんの?
『鈍感だなお前、いいってことだろ』
『うむ。どうやらこやつは契約しても良いようだぞ』
『なになに、ハナちゃんも仲間になるのー?』
 ええーーーーー!?
 正気!? 
『わーい! ハナちゃんよろしくねー』
 スイも触手を伸ばすと、ハナちゃん(仮名)も蔓を伸ばして握手(?)をした。か、可愛い~。ってそうじゃなくて。
 そりゃあ俺だってこんな可愛い女の子が従魔なら嬉しいけどさ……。
 いやでも……職業がなあ……うう。申し訳なさすぎる。
『……えっと、よよよろしくお願いします!!』
「はいはいよろしく…………って、あれ? 今の声まさか……」
『わ、私です……』
 ちょっと申し訳なさそうに手と蔓の触手で小さく挙手された。
 ま、マジか……確かにいいかもって思っちゃったけど!
 相変わらずこの世界の従魔契約、定義が緩すぎだろー!!
『おー! 聞こえる聞こえる! よろしくな、俺はドラ』
『ドラちゃんはドラちゃんでしょー。あのね、スイはスイっていうの。スイ、ずっとハナちゃんとお話したかったんだー!』
『待てスイ、こやつを鑑定した限りだとその名は仮のものなのだ。何故かはわからんが、早く正式な名前を付けてやれ』
 せ、正式な名前って言われてもな。すっかり馴染んじゃったけど、ぶっちゃけスイに聞かれて苦し紛れに付けた名前だし。
 というか、転生者なら元の名前があるんじゃないか?
『あ、あの、向田さん』
「は、はいっ?!」
 び、びっくりして声が裏返っちまった。
 当たり前だけど、この世界に来てから初めて正しい発音で呼ばれた。なんか照れるぜ。ってことはこの子も日本から呼ばれたっぽい。
 というか俺の名前もう知ってるのね。
『向田さんさえよければ、その』
「あ、名前? そ、そうだよね、やっぱり自分の名前が……」
『ち、違います! よ、よければこれからもハナちゃんて呼んで欲しくって……!!』
 へ? いいの?
『ほらー! やっぱりハナちゃんはハナちゃんだよ』
『えー、折角だからもっと良い名前にしてもらえばいいのに』
『全くだ。まあポチとかコロとかよりは幾分はマシだがな』
 フェルさんそれ根に持ちますね。
「じゃあ、その……よろしくね、ハナちゃん」
『……! はいっ、よろしくお願いします、向田さん!』
 名前を呼んでみたらぱあっと笑顔になってくれた。ま、眩しい。
 俺が付けた名前、もしかして気に入ってくれてたのかな。そうだとしたらちょっと、いやかなり嬉しいぞ。

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