第七話 一応アルラウネのハナちゃん
色々聞きたいことや言いたいことがお互いあるだろうけど、とりあえず地上に戻ってからゆっくり時間を取ることにした。……まあ、主にハナちゃんの職業について話したいんだけどさ。
流石に皆の前じゃ話せない。
ハナちゃんにも伝えたら察してくれて、何回もこくこくと頷いてた。喋れないから頷くのが癖みたいになってるな。
ここがダンジョンの最下層なことと、ボスは昨日倒したことと、これから地上に戻ることも一緒に伝えたよ。
「何はともあれ、まずは朝飯にするか」
『ご飯ー!』
『ヒャッホー!』
『やったー!』
『我は
はいはい、みんな元気だね。……んん? やったー、ってもしかしてハナちゃん?
俺の視線に気付いたハナちゃんがハッとして照れたように笑った。
『す、すみません……わたし、向田さんのご飯がずーーーっと食べてみたかったんです……』
妙に力のこもった言い方ですね。料理してる時も植木鉢出してたりしたもんな。だからか?
そういや転生者って言うけど、アルラウネとしての記憶はどっからあるんだろ。スイとは既に打ち解けてるし、水やりされてた記憶もありそうだ。
あれ? そもそもアルラウネって飯食えるのか?
『食べ……られます!! たぶん……!!』
多分かあ。握り拳を作るハナちゃんから気合いを感じる。
それじゃあ張り切って作りますか。みんなと俺はドラゴンステーキ丼にするけど、折角だからハナちゃんにはリクエストを聞いてみたよ。
『えっ!? いいんですか?』
「うん、ほら初めて食べるご飯だし」
『……ありがとうございます、向田さん』
そ、そんなに感激されると照れるっていうか、「向田さん」呼びになんかニヤニヤしちまう。
『えっと、うーん、どうしよう……、……生姜焼き……?』
い、意外と朝からガッツリなメニューだな。もしかしてこの子も肉食なのか?
「わかった、生姜焼きだね」
『えっ私声に出てましたか!?』
出てましたとも。生姜焼きなら確か……あったあった、ダンジョン入る前に仕込んだやつ。
全部食べたかと思ったけど、ハナちゃん一人分ならかろうじて残ってた。キャベツの千切りとご飯、それからインスタントだけど味噌汁もつけてあげた。日本人ならやっぱり味噌汁でしょ。
「はいどうぞ、召し上がれ」
『わあ……! ありがとうございます! いただきます』
きちんと手を合わせたいただきます、なんて久々に見たよ。あー、なんか、いいもんだな。召喚物は散々読んだから、定説通り元の世界には帰れないだろうしって、早々に選択肢から外したけど。
こうして日々に根付いた習慣みたいなのを見ちゃうと、懐かしさがわいてくる。
「あ、味はどう? って言っても生姜焼きの素使ってるから、大丈夫だろうけど」
みんなは異世界の味付けだから喜んでるけど、ハナちゃんにとっては別になんてことない、普通の生姜焼きなんだよな。別に凝った料理でもないし。
『……おいひい、です』
ゆっくりと噛み締めながら、ハナちゃんはまたボロボロ泣いてた。
「ハナちゃん……?」
『あー! あるじハナちゃん泣かせてるー!』
「えっ」
ハナちゃんいじめちゃだめー! とスイがハナちゃんの前に立ちはだかる。って言ってもスイは小さいから、全然立ちはだかれてないんだけど。
ハナちゃんはスイの行動に驚いたのか、目をぱちくりさせて微笑んだ。するっと大きな涙の粒が落ちていくのを見てしまって、妙にドギマギする。
『ありがとう、スイちゃん。でも大丈夫だよ、いじめられてなんかないよ』
『ほんとー?』
『ほんと。だってスイちゃんのあるじがいつも優しいこと、スイちゃんも知ってるでしょ?』
『……うん、いっぱいいっぱい知ってるよ。あるじー、ごめんね』
「いいよスイ、気にしてないからな」
プルプル震えるスイを撫でてやった。
『おかわり』
『俺もー!』
そんでいつもと変わらないのね君たち。
おかわりを作りながらハナちゃんの涙が頭から離れなかった。スイに言い聞かせた言葉も。
『スイちゃんも知ってるでしょ?』
……なんだか、ものすごく優しい口調だったな。
食後の休憩を取ってから出ることにして、ハナちゃんに話しかけようか迷ってたら、あっちから声をかけて来てくれた。
『向田さん』
改まった様子に、俺も居住まいを正す。
『ごちそうさまでした。すっごく美味しかったです』
「あはは、お粗末さまでした。……ええと、」
なんて言ったらいいか。
ハナちゃんが泣くのは2回目だ。
最初に動き回った時と、朝飯を食べた時。
鑑定持ちって気付いた後は、自分が魔物になってることとか、職業がアレなこととかに対して泣いたのかと思ってた。そりゃ泣きたくもなるよね。
でも、今さっきのを見てたら……そうじゃない気がする。
だとしても、どんな理由か俺が聞いてもいいのか?
『いいんですよ』
「え? ……俺、声に出てた?」
ハナちゃんはくすくす笑ってる。
『向田さんに、聞いてほしいんです。……だめですか?』
真剣な表情に思わずドキッとする。ふう、落ち着け俺。
「俺でよければ、聞かせてよ。上に戻ってからゆっくりね」
意を決して答えると、ハナちゃんは最初に見た時みたいに、ふにゃっと笑った。