第八話 それはあかんやつだ
魔法陣で地上に転移する前に、おずおずとハナちゃんが申し出た。『あの、私このまま外に出ても大丈夫ですか……?』
ん、どういうことだ?
『えと、向田さんのパーティーってその……ものすごーーく目立つじゃないですか。伝説の魔獣のフェル様に、従魔には珍しいスライムのスイちゃんと、ピクシードラゴンのドラくん』
そうだね、それは俺も嫌になるほどよーく知ってる。
ってスイちゃんはともかく、フェル様にドラくんだって?
『同じ従魔になっても我に様を付けるか。その慇懃な態度気に入った。ハナとやら、その呼び方を許そう』
『わあ! お許し頂き感謝します、フェル様』
『俺もー! くーっ、いい響きだなドラくん! ドラちゃんよりよっぽどマシ! ハナ、どんどん呼んでいいぜっ!!』
『あ、ありがとうドラくん。ちゃん付けはどうしても某ネコ型ロボットが過ぎっちゃって……うん……』
『ねこがた……? ろぼ……?』
『ねーねーハナちゃん、スイはスイちゃんなのー?』
『そうだよスイちゃん。私とおそろいだね』
『おそろいー!』
『なあ、ねこがたろぼっとってなんだ?』
うん、俺の従魔たちが仲良し。
あとドラちゃんや、そこは突っ込まないで。
話が逸れたがハナちゃんが言うには、ただでさえ目立つ俺たちがダンジョン踏破したってなったら、絶対に騒ぎになるだろうということ。
その時に自分がいたら、誰? って余計に場が混乱するんじゃないかっていう心配だった。
うーん、確かに。1人増えたら何があった? ってなるだろうしね。でもダンジョン内でパーティー分散、どっかと合流して再編成、なんてこともよくありそうだし、そこは大丈夫だと思うけど。
『あ、あと……』
「あと?」
『やっぱりあの……ちょっと恥ずかしいので……』
ほとんど袖から出てない手で服をつまんで、ハナちゃんが顔を赤らめた。俺のシャツは大きいし、ズボンもぶかぶかで今にもストンと落ちてきそうだ。
そ、そうだよね。確かに恥ずかしいよね。
『ハナちゃん、あるじにお洋服もらったのに恥ずかしいのー?』
『なんか元人間って難儀だなぁ』
『そう言ってやるな。人間、それも雌には色々事情があると昔から相場が決まっておる』
なんだよフェル、わかったような口聞きやがって。
……ん? 色々事情が……?
あーーーーっ!!
い、今気付いた!!
もしかしなくても今ハナちゃんて……の、ノーパンノーブラじゃないか!!
とりあえずって服渡したけどまさか俺が女性用の下着持ってるわけないし持ってたら変態だよっ。
そ、そりゃ恥ずかしいに決まってる。俺の馬鹿。
俺がまた悶絶してるとハナちゃんが慌てて声を張り上げる。
『おおおおおお気になさらず! 私消えられますからっ!!』
え、どういうこと!?
驚く俺を前にして、ハナちゃんは『えいっ』と掛け声と共に姿を消した。
……はい?
『ハナちゃん、どこー?』
『すげーっ、全然わかんねぇ!!』
『むむ……我にも知覚出来ん。完全に気配も無くなっているな』
す、すごい。フェルからも身を隠せるのか。
感心しきっているともう一度ハナちゃんが姿を現した。
『私の固有スキル、ステルスがこれです。発動したらまず誰にも気付かれないと思います』
眉毛を八の字にして、困ったような笑顔でハナちゃんが説明する。
……なんでちょっと寂しそうなんだろ。これもあとで聞いてみよう。
「じゃあ、ひとまず宿に戻るまでステルスで着いてきてもらおうかな。あ、ずっと発動してられる?」
『はい、大丈夫です。発動している方が正しいようなスキルなので……』
んん。ハナちゃんに聞くことが増えてくな。
「フェル、ハナちゃんも背中に乗るけどいいよな?」
『無論だ』
『ありがとうございます、フェル様』
両腕でスイをしっかり抱っこする俺の頭にドラちゃんが抱き着く。
で、その俺がフェルに跨って、俺の後ろにハナちゃん、という布陣だ。
ハナちゃんは既にスキルを発動していて、ほんとに後ろにいるんだよな? ってぐらい、完全に気配も消えている。
フェルが言うには姿や気配だけじゃなくて、魔力や匂い、音もわからなくなったらしい。隠密行動向きなスキルだなあ。
あれ、でも俺には花のいい匂いがするんだけど。気のせいか?
「ハナちゃん、初めての転移で怖いかもしれないけど、すぐ終わるからね。しっかり掴まってて」
何も見えないけどそこにいるだろうハナちゃんに振り向いて声をかける。今なんとなく頷いた気がしたと思ったら、背中にむぎゅっと抱き着いてくる感触が……
ハナちゃん。
それはあかんやつだ。
『そうか、ハナは初めてだったな。触れ合った者しか転移出来ない仕組みなのだ。よく掴まっておけ』
『は、はいっっ』
フェルがそう言うと腰に手が回ってきて、ガッチリ抱き着かれて密着した状態に。
ハナちゃん……。
それは……あかんやつだよ……。
俺は静かに目を閉じてぐっと唇を噛み締め、心の中で叫んだ。
ありがとうございます!!