第十一話 ハナちゃんの生い立ち(前編)
『私が……やりました……』ハナちゃんは
これは取調室のカツ丼じゃありません。
うん、だいぶ取り乱してるな。人が慌ててるのを見ると逆に冷静になるって言うけど、あれって本当だわ。ペットボトルのお茶を2本買って、ハナちゃんにも渡した。
「とりあえず落ち着こうか? 冷めないうちに食べてみてよ。これが美味いんだ、ドラゴン肉」
『うう……はい……いただきます』
「いただきます」
俺もハナちゃんに倣って手を合わせる。
……う、ウンメェェッ。地竜の焼肉丼、絶対美味いだろってわかってたけど、これはヤバい。美味すぎる。
『?! なんですかこれ!? お、おいしい……!!』
ふふふ、そうだろうそうだろう。ハナちゃんも手が止まらないみたいだ。これはいっきに食いたくなるよな。途中でフェルとスイに何度もおかわりを出してる間、ハナちゃんは感激しながら完食した。
『ごちそうさまでした』
「お粗末さまでした」
『……今まで食べてきた中で、一番おいしいお肉でした……くっ、私も肉食になります……!』
は、ハナちゃんがドラゴン肉に屈した……。気持ちはわかる。美味いもんなあ。ってそうじゃなくて。
「えーと、落ち着いた?」
『はっ……! おかげさまで……』
ごほんと咳ばらいをして、ハナちゃんは姿勢を正した。みんな満足するまで食ったのか、グースカ寝てるしちょうどいい。
ハナちゃんは渡したペットボトルを膝の上でぎゅっと握る。……ちょっと震えてる?
「む、無理に話さなくてもいいんだよ」
『……どこから話したらいいのか、わからなくて。長くなるんですが、それでも、』
「……俺に聞いて欲しい?」
ダンジョンで聞いた言葉を思い出しながら言うと、こくこくとハナちゃんが頷く。
『はい』
まずは、ハナちゃんの『異世界からの転生者』について。
俺はてっきり転生モノでお馴染み、トラックに轢かれたり駅のホームから転落したりして、神様からのスキル付与、気がついたら異世界に……ってパターンだと思ってたんだけど、『私も勇者召喚の儀式でこっちに来ました』って言うから驚いちまった。
「でもあの時、俺含めて4人しかいなかったぞ?」
『私の時も4人でした……』
ゲ、あんな儀式する国が他にもあるのかよ。
ハナちゃんが言うには、そのアスなんとか国(覚えられなかったらしい)はこのままだと隣国に滅ぼされてしまう云々お助け下さいパターンだったと。国民が苦しんでると訴えるくせに豪華な城内と王族ということには、召喚されたうちの1人がめちゃめちゃ渋い顔をしてたから気付けたそうだ。
『気付いてみれば確かに、無茶な仕事を振りに振られ拘束時間は長過ぎるし仕事のミスは押し付けられてパワハラセクハラは当たり前の安月給で働かされるブラック企業と同じ臭いがしました……』
すぐに気付けなかったのは、ハナちゃん自身が状況把握に必死でそれどころじゃなかったからで。
なんとハナちゃんが召喚された時、既に固有スキルのステルスが発動していたらしく、儀式をした人たちはおろか一緒に召喚された人たちにも気付いてもらえなかった……って、う、嘘だろ……? つ、辛すぎる……。
というかさっきからハナちゃんの目が死んでる。え、まさか今のブラック企業の話って実体験? 実体験なの?
ハナちゃんがワッと突っ伏した。
『だじがに上司に面倒ごと押し付けられたくなくてなるべくひっそり生きてまじだげどよりにもよってぞれがズキルにならなくてもいいじゃないでずが……』
泣いていい……泣いていいぞハナちゃん……
俺はすうっと流れるような動きでプレミアムなビールを買ってハナちゃんに献上した。飲めるか聞かなかったけど、サビ残帰りにコンビニで缶ビールを買うハナちゃんの姿が俺には見えたよ……。
べそべそするハナちゃんは小さくお礼を言ってから、プルタブに手をかけた。やっぱり飲めるよね。しかもいい飲みっぷり。
俺の会社はブラックまでは行かなったけど、飲まなきゃやってられない日だってたくさんあった。さっき言ってたのがまんまハナちゃんの会社だと思うと……心中お察しします。
突然異世界に呼び出されるわ、誰も自分に気付かないわで、とにかくハナちゃんは混乱したんだって。そりゃそうだわな。ブラック臭に気付いて身震いしてたらステータスの確認が始まって、ハナちゃんも見よう見まねでやってみたら、職業には『巻き込まれた異世界人』……勇者じゃない4人目ってことか。俺と全く一緒じゃんか。
『そこでようやく自分のスキルで、私の姿が見えなくなってるってのはわかったんですけど……』
「勝手に発動してたから、解除の仕方がわからなかったのか」
こくりとハナちゃんが頷く。解除出来たら出来たで、いきなり現れたら絶対に怪しまれるだろうしな。
『ひとまずその場から離れてなんとか解除は出来たんですけど、見張りの兵士に見つかっちゃって』
「あちゃー、それでどうしたの?」
『びっくりしてお城から落ちちゃいまして、気がついたら幽霊になってました』
「そっかー…………へ? ハナちゃん今なんて言った?」
『? あ、えっと、移動した先がテラスみたいなとこで、そこから』
いやいやいやいやそこの詳しい説明はいいから。
「つ、つつつまり、え? じゃあハナちゃんて勇者召喚で呼び出されてそのまま?」
『? そのまま(こくり)』
ま、マジか……。
まとめるとだぞ?
巻き込まれて召喚されたあげく、社畜としてこき使われた結果付与された固有スキルで存在を認知されず、そのまま人知れず命を……。
「………………ハナちゃん、まだ飲めるよね? 俺も飲むからさ」
『!? ほんとうですか!? わあい! じゃあ乾杯しましょう!!』
缶同士がぶつかってもいい音なんかしなかったけど、えへへと妙に嬉しそうにハナちゃんがはにかんだ。ペースが早かったからか、ビール1本で既にハナちゃんはご機嫌だ。俺は思いつくままに片っ端から美味そうなビールを購入して並べてく。
……背後霊って言ってたから、そりゃあ、死因はあるにしたってさ。
少しカッコつけて言うと、ハナちゃんの物語は、始まる前に終わっちまったんだよな。
そんなのちょっとシラフじゃ辛すぎるぜ、ハナちゃん。
『えっと、それで幽霊になっちゃって、最初のうちは幽霊らしく?? 王様に取り憑いてみたりしたんですが、風邪を引かせるくらいしか出来なくて……頭にチョップするとこう、どぅるんて手刀がすり抜けるんですけど、そうすると何故かくしゃみするんですよ、チョップされた人が。まあそれしか出来なかったんですが……激弱ザコ幽霊だったんです、私』
激弱ザコ幽霊。さ、酒のせいか? しんみりしてる俺とは逆に、なんかハナちゃん饒舌になってないか?
『ワンチャン転生とかあるかなーなんて待ってても兆しもなんにもなくって、それどころか成仏する気配すらなくって、めちゃくちゃ暇で……暇で……暇で……いっぱい寝ました!!』
「寝たの!?」
『今まで寝れなかった分いっぱい寝ました!!(キリッ)』
そ、そんなのあり??