第十九話 ハナちゃんは可愛い
『ほんとうに……申し訳ございませんでした……』「は、ハナちゃん頭上げて!?」
無理になった俺の声に飛び起きてくれたハナちゃん、すぐ俺に巻きついてた蔓を解いてくれたのはよかったんだけど、ずっとこんな調子だよ。布団の上で土下座決め込んでくる。心なしか頭に咲いてる花が萎びてるような。だ、大丈夫なのか?
『うう……無意識だったとは言え勝手に人様を布団に引きずり込むなんて……しかも……しかも二回も……にかっ二回も……!?』
実は今朝も……って話も咄嗟に口走っちまった。だ、だってこれ以上続いても俺だってハナちゃんだって困るだろっっ。
「うん、だからさ、その、気にしすぎなんじゃないか? ダッ……職業のこと」
言いかけてなんとなく濁した。いやシチュエーションがさ、夜でさ、薄暗くて、オマケに布団の上だよ。しかも、ぱ、パジャマ姿だし。
そう、今日の買い物で衣料品コーナーのレディースランジェリーに動揺した結果うっかり買いそびれたハナちゃんのパジャマは布団に入る前に急いで購入させて頂きました。
初日は酔っ払って寝ちゃったからそれどころじゃなかったし。あんまり種類もなかったからどこにでもあるシンプルなチェック柄のパジャマなんだけどさ、こう、なんか、逆にグッと来てしまうと言うか……。俺の馬鹿。
万が一『お詫びとしてやっぱりダッチワ〇フとして責任取ります!!』とか言いだ出されたら……ゴクリ。
それはマジでヤバイ。
「職業なんか気にしないで、ハナちゃんには転生人生を思いっきり楽しんでほしいんだ。働いてた時も幽霊の時も大変だったんだしね」
『向田さん……』
やっと顔を上げてくれたハナちゃんは涙目で俺を見上げてくる。ぐう、上目遣い可愛い。
そう、可愛いんだよ。
俺なんかをこんなに慕ってくれてダッチワイ〇になってでも一緒に旅がしたいって転生してきてちょっと頑固だけど真面目でだいぶうっかり屋さんで自分より俺や皆を優先する優しい女の子が可愛くないわけがないんだよ。可愛い。
だからこそ困るっていうか。
だってそんなの、す、好きになっちゃうだろっ。ただでさえ女っ気のない生活を送ってる独身男性の元にこんな子が突然やってきたら好きになっちゃうだろ!?
あーホント俺の単純さに嫌気がさすよ。はいはいダメダメ。
いくらハナちゃんが好意的だからって変に勘違いするんじゃないぞ俺。そもそも主人と従魔の関係だしな。
これからずっと旅してくんだし、言わばハナちゃんはそう、身内!!
俺が育てたんだし!! そういう目で見ないし、そういうこともしない!!
うん、これでよし!!
『……ありがとうございます。でも、ダッ……ごほん、職業は関係ないと思います』
「え? じゃあなんで??」
『私、ずっと向田さんに触りたかったんです』
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
『あっ!? へへへへ変な意味じゃなくてですね?! その、あの、違くって!! 幽霊だった時は何も触れなくて、すり抜けちゃったので!! たぶん、それの!! それの反動で!!』
い、一瞬意識どっかいってたわ……。
ハナちゃん、俺の決意をすぐ消し炭にするような発言得意だな……。
『えっと、最初も私、向田さんのお布団に……も、潜り込んでたじゃないですか……』
ごにょごにょと小声でハナちゃんが謝るハナちゃん。そういえばそうだったな。いきなり全裸の女の子と添い寝とか絶対夢だと思ったのに、夢だけど夢じゃなかった。
『この体になった直後、私すごくぼんやりしてたみたいでして……なんかわかんないけどフェル様に触れる! もふもふ! スイちゃんぷにぷに! ドラくんつるつる! って……す、すごくいい夢だなぁって……』
ゆ、夢だけど夢じゃなかった。ハナちゃんもか~。
まあでも幽霊生活からの球根生活だもんな。いきなり実体化したらそりゃ夢だと思うわ。
『幽霊ってすり抜けるだけじゃなくて、暑さとか寒さも感じなかったんです。だから……む、向田さんがあったかくて……つい……お布団の中に……』
「そ、そっか……」
『なので、蔓が勝手に動いちゃったのも……職業っていうか……全面的に……私のせいだと思います……』
最後の方は消え去りそうに小さな声だった。
スイが寝てるので本当にわずかなランプだけ点いてる薄暗い部屋の中でもわかる。
ハナちゃん、耳まで真っ赤なんですけど。
「カッッッッッッ」
『!?』
「か、かーーー関係なくてよかったけど職業が!! で、でもどうしようか!?」
『そ、そうですね?!』
いかん、危うく可愛いって叫ぶとこだった。思わず誤魔化すのに倒置法使っちまった。いやこれは紛うことなき可愛さでしょ。スイみたいにプルプル振るえてるし。恥ずかしいのにわざわざ順序立てて一から話してくれたのか? いい子か? いい子だったわ。
なんにせよハナちゃんがダッチワ〇フとして思い詰めてるんじゃなくてよかったよ……。
よかったけど、どうしようマジで。
幽霊の時の反動か~。数百年単位であらゆる物がすり抜けて来たんだし、何かに触れてたいってのはわかる気がする。あと、ハナちゃんの体温結構低かったし、人間だった時のギャップもありそう。まだアルラウネの体に慣れてないんじゃないか? 湯たんぽとか、抱き枕とかいいかもしれん。
腕を組んで考えてると、その腕にちょんと何かが触れてきた。
もちろんハナちゃんの蔓だった。
『……あのっ、つ……つ、繋いでても、いいですかっ!?』
「へ?」
『勝手に動く前に触れてたら、大丈夫かなと……思いまして……』
な、なるほど、一理ある……のか?
ハナちゃん曰く蔓にも触覚があって、体温も感じることが出来るらしい。とりあえずもう夜も遅いしそれで試してみようってことになった。
俺としては蔓くらいなら別に構わないっていうか、引きずり込まれて無理にならなければ何でもいいっていうか。
布団に入り直してから暫くすると、少し躊躇いがちにおずおずと蔓が俺の手に絡んできた。うーん、寝てる時と全然動きが違うな。無意識恐るべし。
「えっとじゃあ、おやすみハナちゃん」
『……おやすみなさい、向田さん』
見えないけど、ハナちゃんが笑ったのがわかった。多分、あのへにゃっとした顔で笑ってるんだろうな。
ふわぁ、流石に眠いわ。
朝起きたら無理になってませんように。
俺は若干祈りを捧げながら寝た。