第二十話 塩おにぎりとウィンナーと卵焼き
目が覚めたら目の前にデン! とスイの寝顔があって、布団の中には俺一人だった。はぁ~~と思わず安堵のため息が出たよ。
腕にはハナちゃんの蔓が巻きついたままになってる。……な、なんか寝る前より上まで蔓が来てないか? 何はともあれこれで無理にならずに済む。
ぶっちゃけ生殺しなのは継続中なんですけどね!
まあそれはそれ、これはこれというか……。俺が健康的な成人男性のこととハナちゃんは無関係だからね。性欲を持て余す。トホホ。
気を取り直して、まずは飯だな。
スイとハナちゃんを起こして、中庭で朝食にするぞ。
皆には肉メインで用意したけど、ドラゴン肉に屈して肉食になったハナちゃん、魚も野菜も普通にすきって言ってたし。
どうせなら今までの分も色々食べさせてあげたいよなぁ。
ってことでまたハナちゃんにリクエストを聞いてみたんだけど、聞いたら俺も食べたくなっちまった。
『えと、なんと言いますか……ザ・朝ごはん! って感じじゃないですか?』
わかるわかる。
だって塩おにぎりとウィンナーと卵焼きだよ? 無性に食べたくなる魅惑の組み合わせだよな。
ネットスーパーで買うのは、海苔と卵とウィンナーだけ。ウィンナーは折角だから、ちょっとお高いけど定番中の定番所の粗挽きウィンナーソーセージにした。焼いても絶対美味いけどこの粗挽きウィンナーソーセージに関しては俺は断然ボイル派だ。
さてさて、早速作っていくとしようかね。
フライパンは多目に油を敷いて温め、鍋ではお湯を沸かしていく。
その間に卵をボウルに割って混ぜる。甘いのとしょっぱいのとどっちが好きか聞いたら『……ど……どっちも……!?』って頭抱えるから笑っちまったよ。
今回は間を取って万能調味料ことめんつゆで味付けしていく。あまじょっぱい卵焼きも美味いよね。大葉とかチーズ入れて巻いても絶対美味いけど、今回は素朴なメニューだからあえてシンプルに。
そうこうしてるうちにお湯が沸いたから弱火にして、ウィンナーソーセージを茹でる。3分間待ってやる。茹でておいたら何にでも使えるし、袋丸ごと全部入れたった。
『む、異世界の肉ではないか。我にもよこせ』
『えーっ、美味いやつだろそれ! 俺も食いたいっ』
『あるじとハナちゃんだけずるいー』
……まあそうなるよな。
追加で3袋買って茹でました。
おっと、卵も焼かなきゃな。久々だから上手く巻けるかちょっと不安。
しっかり熱したフライパンに、卵液を3分の1くらい流し込んで広げてっと。固まり切る前に手前に巻いて……や、破れた。ま、まあどうせ巻くから最初は雑でもいいよね。
ぐしゃっとなった1回目の卵を奥に寄せて、手前側にキッチンペーパーで油をさっと引く。
空いたところにまた卵液を半分くらい流し込む。この時1回目の卵を箸で持ち上げて、下にも卵液を流し込んどくのがポイントだ。半熟から少し固まってきたタイミングで巻いてっと。よし、今度は上手くいった。もう1回巻いたら取り出して、食べやすい大きさに切って完成。
あとは炊いておいた米で塩おにぎりを作る。海苔を巻く前にフォークとかで穴を開けとくと食べやすいんだよな。ザクザクッと。ウィンナーと卵焼きがあるから、あえて具無しの塩おにぎりってのがいいねぇ。どうせなら米があるだけ全部握っとこうと思ったら、ハナちゃんも手伝ってくれたよ。
『おにぎり握るのすっっっっっごく久しぶりです……!!』
ハナちゃんも楽しそうで何よりだ。聞けば社畜時代は自炊する元気もなかったそうで、コンビニ飯の記憶しかないどころか、最後に何を食べたかすら覚えてないらしい。名前も忘れるくらいだからそりゃそうなんだけど、つ、辛い。いっぱいお食べ……。
最後にインスタントのわかめスープも添えて出来上がり。
「はい、召し上がれ」
『ありがとうございます……! いただきます』
「いただきます」
俺も手を合わせた。
まずはウィンナーから。あ~、これだよこれこれ。この噛んだ時のパキャッていう小気味いい音。じゅわっと溢れてくる肉汁。文句無しに美味い。卵焼きもふっくら焼けてるし、塩おにぎりが進む進む。パリッとした海苔も美味いけど、時間が経ってしんなりした海苔も美味いよねぇ。ウィンナー、塩おにぎり、卵、塩おにぎり、またウィンナーとループが止まらん。
『おいしいです!』
ハナちゃんもいい食べっぷりだ。日光と水だけでも平気らしいって言ってたけど、食べられる体でよかったよ本当。
もしかしたら神様の粋な計らいだったりしてな。ハナちゃんの種族『一応アルラウネ』だし。一応って何?
そうだ、アルラウネと言えば。
「ハナちゃん、ハナちゃんの体って火は大丈夫なの?」
『ふぁい?(もぐもぐもぐもぐ、ごくん)…………し、失礼しました。火、ですか?』
食べてるとこ邪魔してごめんね。俺が料理してるのを見てる分には大丈夫そうだったけど、ハナちゃんの本体植物なんだよな。木属性や草タイプが火属性や炎タイプに弱いのは当然として、ハナちゃんが火を扱えるのか気になった。
何かあってからだと危ないしね。
『どうでしょう? 耐性はなさそうですけど……』
ハナちゃんは手に持ってた分のおにぎりを食べると、俺が出しっぱなしにしてた魔道コンロに蔓を伸ばした。べ、便利だな。
『……? えっと、このボタンを押せばいいんですか?』
「あぁ、火を点ける時だけ少し魔力を流さなきゃいけないんだ。最初は難しいかもしれないけど――」
『あっ出来ましたっ。わー! すごい、こうやって使うんですね!!』
嘘でしょハナちゃん。俺、体に魔力巡らすにも結構時間かかったんですけど。
『実は……こっそり練習してました。向田さんがフェル様に教わっていたのを見てたので……』
そ、そうか、その頃にはもうハナちゃん背後霊だったわ。ハナちゃんが恥ずかしそうに笑うけど、俺も恥ずかしい。だって初めて出したしょぼいファイアーボールも見られてるってことで……くそう、どっかで良いとこ見せたい。
ハナちゃんは器用にも蔓でコンロの摘みを調整した。火力を強くすると、ビュン! とすごい速さで蔓が戻ってくる。は、速い。あれだ、お笑いでコテコテのゴムパッチンみたいな。
『び、びっくりした……』
ってハナちゃんも驚いてるよ。え? ハナちゃんがやったんじゃないの?
『勝手に戻っちゃいました』
ハナちゃんより先に蔓が反応してるってことか。うーん、元々擬態し切れてない部分だし、とくにアルラウネの特性が出やすいのかもしれない。寝てる間も無意識に動くぐらいだから、本能に従って動いてるっぽいな。
色々検証した結果、見てる分には平気で、ハナちゃんが火に当たる分にも大丈夫。
ただ火に一定距離まで近付くと蔓が仰け反って、ハナちゃん自身もそれに引っ張られて勝手に遠ざかってしまうのがわかった。多分アルラウネの防衛本能なんだろう。
勝手に蔓が動いても危ないし、火の扱いはなるべく控えてもらうことにしたよ。
料理が出来ないのを残念がってたけど、火を使わないことなら是非お手伝いさせて欲しいって逆にお願いされた。いい子だなぁ。
べ、別にハナちゃんの手料理が食べられなくて残念とか思ってないなんて嘘です。実を言うとかなり食べたかった。そりゃ作るのは好きだけどさ、いつも作ってばっかりだし、たまには人の手料理が食べたくなるのは仕方なくない?
『向田さん、ごちそうさまでした! おいしかったです!!』
……まあ、こんなに嬉しそうな笑顔が見れるんだからいいか。ハナちゃんが作ってくれた塩おにぎり、美味しいしね。
さてさて、食後のデザートが済んだら冒険者ギルド……の前に、今日こそハナちゃんの服を買いに行くぞ。