第二十一話 いい感じの服屋で試着

『朝から活気があって、にぎやかですねぇ』
 ステルスで見えなくてもにこにこしてるのがわかるぞハナちゃん。
 ご機嫌だなぁ。
 だって蔓と繋いだ俺の手がブンブン振り回されてるし。絶対自分じゃ気付いてないでしょ。
 傍から見たら俺、片手だけブンブン振り回してる人になってるんですが。
『わっ、こんな建物と建物の間にお花屋さんが……ちっちゃくてかわいい……!!』
『あっ向田さん見て下さいあの冒険者の方自分の背丈と同じくらい大きな剣を背負ってます! わーーっっすごい……!!』
 さっきからこんな調子でハナちゃんがはしゃいでるから水を差せないよね。いや差すまい。ダンジョンから地上に転移した後はすぐエルランドさんに連行されたし、文字通り生まれて初めて街をゆっくり見てるんだもんな。俺が若干変な目で見られるくらいどうってことないよ。うんうん、存分に楽しんでおくれ。
 もう片手も大きく振ることでなんとか釣り合いを取りつつ、俺たちは大通りに出た。
 流石ダンジョン都市、武器屋と防具屋が幅を利かせてたけど、それでも立派な店構えの服屋を何軒か見つけた。
 あ、ちなみにフェルたちは一旦獣舎に置いてきたよ。目的は買物だし、一緒に入れる服屋があるかわからないからな。
 中をちらちら伺いながら店の前を通る。
 話せるようになるまではなるべくステルスを使ってくっていう方針だからな。試着室がある所試着室がある所……
「お、試着室があるぞ」
 飾ってある服は女物だし、建物も綺麗で華やかそうだな。
 ハナちゃんにここでいいか聞いてから店に入る。
 扉を開けると上についてたベルが鳴って、カランコロンと良い音がした。
 すぐ店員がやってくる。
「いらっしゃいませ。どなたかにプレゼントでございますか?」
 俺が着られる服はないってことね。レディース専門の服屋だったのか。ちょっと気恥ずかしいけどかえって好都合だ。
「そ、そうです。ええと、そちらの彼女に」
 あらかじめ打ち合わせしておいた通り、ハナちゃんには試着室に先に滑り込んでから(俺には見えないけど)、ステルスを解除してもらう。
 試着室のカーテンをちょっとだけめくって、ハナちゃんがお辞儀した。
 店員さんは一瞬「いつの間に?」と怪訝そうな顔をしたが、すぐにっこりと営業スマイルを浮かべた。
 ……ちょっと強引だったか? ま、まあこれくらいなら大丈夫だろ。
「少し恥ずかしがり屋で無口の子でして……」
「(ぺこり)」
 ハナちゃんが試着室から出てきて、改めて頭を下げた。
「それでは、本日はどのような物をお求めでしょう?」
「実は、彼女は最近こちらに出てきたばかりなんです。旅支度一式を揃えたいのですが、何かオススメはありませんか?」
「(こくこく)」
「なるほど、かしこまりました。でしたらこちらの生地の商品はいかがでしょうか。丈夫ですし、肌触りもいいですよ」
 一つ前に立ち寄ったクレールの街が紡績の街だったから、見劣りしちゃうかと思ったけど、品質は問題なさそうだ。大きな街だからきっと流通が良いんだろうな。聞けば実際にクレールの街から取寄せてる物もあるらしい。この店当たりかも。
 店員さんが何着か見せてくれる。
 まずは上から。形がそれぞれ違うブラウスは白、アイボリー、ベージュの三色。シャツ系は生糸そのままの色なのが主流だってこの前聞いたな。定番の三色ってことね。
 袖がぽわんと膨らんでるやつ可愛いな。なんだっけ、パフスリーブだっけ? うんうん、ハナちゃん似合いそう。二着目はハイネックのブラウスで、縁が少しフリルっぽくなってて可愛い。これも似合いそうだ。三着目は丈が短めで襟ぐりのやたら深いやつ。
 え? これ普通のやつ? ホントに??
「どれも定番で人気ですよ」
 マジか。店員さん、にっこり笑顔だよ。そう言えば、酒場のお姉さんとかこういうの着てたっけ。動きやすくていいのか? でも胸元のガード緩すぎない?
 そこ大事なんですけど俺的には。
「こちらと合わせると可愛らしいですし、一緒にお買い上げされる方がほとんどですね。そしてなんと言ってもうちは刺繍に力を入れてまして、これ程の刺繍は他では滅多に見られませんよ!」
 流石店員さん、話が上手い。そう言われると買いたくなるぜ。
 見せてくれたのは……なんだこれ? 見たことはあるぞ、名前が出てこない。上着なのはわかる。丈が短いベストみたいな形をしてて、袖がない前開き。前は紐で締められるみたいだ。これもやたらと襟ぐりが深い。
『あ、これ、ボディス? ……ドディス……? ボ……? ド……? …………ボディス、ですね!』
 随分迷ったねハナちゃん。
『一年に一回あるかないか、奇跡的に早く帰れた日に立ち寄ったオクトーバーフェストがすっっっっっごくよくて……思い出せました。店員さんのディアンドルがかわいかったので、色々聞いちゃったんです。ドイツビールとカリーヴルストの味は忘れちゃいましたが……』
 しゅん、と残念そうにハナちゃんが言う。待ってハナちゃん、オクトーバーフェストの記憶>>越えられない壁>>ドイツビールとカリーヴルスト=自分の名前の公式になってるよハナちゃん。
 って、ディアンドルだって? それなら俺もわかるぞ、ドイツの民族衣装だよな。
 あれってワンピースにエプロン付けてるんだと思ってた。
『最近だとワンピースを着てる方も多いみたいですよ。わ、私の最近はだいぶ前ですが』
 か、悲しい。……あれ? ハナちゃんが勇者召喚されてから数百年くらい経ってるっぽいけど、俺とは全然話が合うし、もしかして時間の経過があっちとこっちで違うのか?
 ……まあいいか、後でまた考えよ。今はハナちゃんの服が最優先事項だ。
 店員さんが持ってきてくれたボディスはオリーブ色、濃い茶色、紺色、黒と濃いめの色が多い。汚れが目立ちにくいからね。スカートもそれぞれ揃いの色と生地になってるから、一緒に着たらそりゃワンピースに見えるよな。
 よく見ると少しずつデザインが違ってて、前で縛る部分が革紐だったり、リボンだったりする。なかなか凝ってるぞ。
 刺繍に力を入れていると言うだけあって、草花や民族っぽい模様が華やかだ。うーん、確かに他じゃあんまり見れないかもしれん。刺繍されてる範囲はごく一部分だけど、あるとないとじゃ印象が全然違う。この世界の服、基本的に無地だし。……柄の入った生地卸したらバカ売れしそうだな。
「エプロンはいくつかご用意がございますが、一つだけ取っておきが。今は亡き染色職人が手掛けた物でして、素晴らしい色でしょう?」
 そう言って出してくれたのは、鮮やかな赤のエプロンだ。深みのある上品な色で、他が地味だから際立って見える。
 これ、黒とか紺色のセットと合わせたら絶対合うやつだよな。
 み、見たい。ハナちゃんが着てるとこ是非とも見たいぞ。
「どちらをご試着されますか?」
「全部お願いします」
『えっ!?』

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