第二十四話 ほっぺたつつかれた
『この小童どうしたのだ?』『な、何かあったんですかっ?』
思った通りすぐフェルとハナちゃんは帰ってきたけど、タイミングが悪かった。
オークに襲われてた男の子と女の子を、スイとドラちゃんが助けたまではよかったよ。で、怖かったからか大泣きしちまったまさに今、って時に帰ってくるんだもんなあ。
10歳前後くらいの子供たちだし、俺だってオークに追いかけられたら絶対怖い。そんな時に大人の目から見ても巨大なフェルがやって来たら、そりゃあねぇ。
「大丈夫、フェルたちは俺の従魔だから何にもしないよ! ほ、ほら背中にお姉さんも乗せてるだろっ?」
「ひっく……ひっく……ほんとだ……」
「グス……こわくない……?」
『こ、怖くないよ大丈夫だよー! ……あっ聞こえないんだった、うう……喋りたい……』
おお、効果覿面。パッと見で危険じゃないって理解出来たみたいだな。ハナちゃんも安心させるように、にこっと笑いかけてくれた。よかったよかった、子供の泣き声はシンプルに心が痛くなるぜ。
『向田さん、この子たちは?』
『たったさっきなんだけど、オークに襲われてて。スイとドラちゃんが助けたとこ』
『ああ、それで泣いちゃってたんですね』
子供たちがいる手前ハナちゃんの念話に念話で返した。
フェルの背中から危な気なくスタッと降りたハナちゃんは、屈んで二人と目線を合わせた。それからエプロンのポケットからハンカチを取り出して、女の子を庇うように立ってる男の子の方に手渡した。
「……ありがとう、おねえさん」
「おねえちゃん、ありがと」
「……(こくこく)」
どういたしましての代わりにハナちゃんが頷く。きちんとお礼が言えるいい子たちや。お兄ちゃんと妹なのか? ハンカチを受け取った男の子は、先に女の子の涙を拭いてやった。こんなに小さいのにしっかりしてるよ。
二人はすっかり泣き止んでくれて「お花のいいにおい……」なんてほっと息をついてる。うんうん、ハナちゃんの頭の花っていい匂いだよな。でもいつもと匂いが違うような……?
『ハナー、お前これ何かスキル使ってね? 体の力が抜けちまう……』
『えぇっ!? ごめんドラくん、大丈夫?』
『嫌な感じじゃねえからいいけどよー』
飛び回ってたドラちゃんはハナちゃんの頭に着地して、言ってる通りにぺしょんと脱力してる。ハナちゃん、そんなスキル持ってたっけ?
『フスン、我の指南で共に狩りを行ったのだ。スキルの一つや二つ増えていても当然であろう』
『……あ、確かに増えてます! ありがとうございました、フェル様』
『うむ。だが勝手に発動するなど、アルラウネの体を御しきれておらぬ。精進あるのみだな』
『は、はい……! 頑張ります!!』
得意気なのがなんとなくムカつくけど、フェルも完全に伏せの体勢でリラックスしてるし。
『うふふーハナちゃんいいにおーい』
そんでもってスイちゃんはほぼ液状っていうね。で、でろんでろんじゃないか。
アロマ的な、鎮静効果があるスキルか? 色々と使えそうなスキルだな。レベルも上がってるだろうし、後でステータス確認させてもらおっと。
それにしても、俺だけ効果の実感がないんですが。いつもと違う匂いなのはわかるけど、ぐにゃぐにゃでろでろしてないし俺。いい匂いなんだけどさ。うーん、これも後で確認しよう。
まあとにかく落ち着いたみたいだし、子供たちから話を聞きましょうかね。
……結論から先に言うと、話を聞いた俺とハナちゃんは号泣しました。グスッ。
暗くなる前にドランの街に帰って、ダリルとイーリスを見送った。
家は壁の近くって言ってたから、問題なく家に帰れるだろう。……家の立地と貧富の差が密接なのは、ファンタジー的にも歴史的にも知ってるしわかる。今現在戦争がなくたってただでさえこの世界は魔物が存在してるし、有事の際には真っ先に危険な区域だ。
俺がやったのは飯を食わせて薬を持たせただけで、根本的な貧困の解決にはならないし、やっぱり偽善って言われるかもしれない。
でも、自分が出来る範囲で、助けられるんなら助けてやりたいって思った。
街からあんなに離れてたのにああして出会えたのも何かの縁だしさ。……オークに襲われたところに出くわしてほんとによかったわマジで。
偽善って言われたって、少しでもあの子たちの負担を減らす手伝いが出来たんだから良しとしよう。お母さんの病気は確実に治るだろうから、スイには感謝だな。スイ特製エリクサー(劣化版)に関しては鑑定のお墨付きだからね。
きっとダリルなら約束を果たしてくれるって俺は信じてるぞ。
いかん、さっきの決意表明を思い出してまた涙腺が……。
「おわっ?」
『す、すみません』
へ、変な声出しちまった。びっくりした、ハナちゃんの蔓か~。感触ですぐわかるけど、いきなり来られると流石にビビる。街中だからステルスで消えてるし。
ちなみにさっきはフェルの巨体に隠れてステルスを使うっていう荒業で、なんとかダリルとイーリスと門番の目を誤魔化した。正直焦ったわ……イーリスなんて別れ際にはすっかりハナちゃんに懐いてて、すぐ「あれ? おねえちゃんは?」って言い出したし。危ねぇぇ。なのでさっきからハナちゃんは消えたり出てきたり消えたりして忙しい。
俺たちだけだったら直前に人目がないところでステルス使えばいいだけだからさ、出先で誰かと合流して一緒に帰る、って早々ないから焦ったわ……。
あとハナちゃんが『これって私脱税になりませんか……?』って青い顔で気にしてたから、近いうちにどうにかしなくちゃな。
んで、そのハナちゃんの蔓が俺のほっぺたをモチモチしてるんですが??
『えっとその、……ご、ゴミがついてたので』
「…………ゴミじゃあ仕方ないよね」
『はい、ゴミですから仕方ないです』
散々フェルたちに向かって「泣いてねぇよ」「目にゴミが入っただけ」と言った手前、俺はそう答えるしかありませんでした。涙を拭うように優しく触られてるのが見えなくてもわかる。き、気恥ずかしいぞこれ。
ハナちゃんはハナちゃんでめちゃめちゃ泣いてたのに、声を聞く限りどことなく嬉しげだ。
『流石ですね、向田さん。ダリルくんとイーリスちゃんのお母さん、きっとよくなります』
『そうだね。劣化版て言ったってエリクサー作れちゃうんだから、スイはすごいよなあ』
疲れて眠ってるスイを鞄越しにぽんとなでる。
『(……私が流石って言ったのは向田さんのことなんだけど全然伝わってない……? もちろんスイちゃんはすごいけど、目の前の人を助けることが当たり前に出来る向田さんがほんとうにすごいのに……? すごくやさしいのに……? もっとご自身を誇ってもいいくらいなのに……? 全然そんな風に考えてないっていうか全然すごいことやっただなんて思ってない……? いやでもそんなところがすきなんですけど……!? ……もう! 全くもう!)………………そうですね!』
な、なんかやたら間があったぞ。不思議に思ってると、『えい』という掛け声でハナちゃんの蔓にほっぺたをつつかれた。
『は、ハナちゃん??』
『……スイちゃんはもちろんすごかったですけど……む、向田さんだって、すごいんですからね!』
えぇ……何その抗議の仕方……。
今日の疲れが一瞬で癒されたわ。
『ははは、ありがと』
『ちゃ、ちゃんと聞いてますかそれ!?』
『聞いてる聞いてる』
声を張り上げるハナちゃんにうんうん頷きながら宿に帰った。
夕飯にはちょっと早かったけど、照り焼きバーガーしこたま食ったし今日はこのまま就寝コースかな。
「あっ」
『?』
……ハナちゃんだけ風呂、入れてない、よな……?