第二十五話 ダメ、絶対

『我は寝るぞ』
 はいはい。宿に戻るなりフェルが宣言したからいつも通り獣舎の中に布団を敷いてやった。ドラちゃんの布団もついでに敷いたけど、本人にはまだ寝ないようにお願いした。
『また風呂か? 別にすきだからいいぜー、付き合ってやるよ』
『あ、ありがとうドラくん』
 そう、ドラちゃんにはハナちゃんと一緒にもう一度風呂に入って貰う。
 何故ならステルスで姿を消したハナちゃんが入浴するのは簡単だけど、傍から見たら風呂にお湯を張っただけの光景になってしまうからだ。怪しすぎるでしょそんなの。だったらまだ従魔のために風呂を用意した主人ですよ~って図式にしといた方がいい……よな?
 多分そんなテイマーも滅多にいないだろうけど、何も入ってない風呂桶よりかはいいだろ、うん。
 相変わらず中庭に人気がなくて助かったわ。
 ……いや待てよ、もしかしてフェルとドラちゃんのせいか? そりゃ伝説の魔獣と小さくてもドラゴンが寝てる獣舎の真ん前の中庭、よっぽどの物好きじゃなきゃ寄り付かないわな。ま、まあ結果オーライってことで。
 すっかり日が暮れてしまったので、適当に転がっていた樽の上に懐中電灯を置く。街中でストーンウォールを使うわけにもいかないから、なるべく通りから離れた場所に風呂を設置して、っと。
 寝てるスイたんを起こすのは忍びないから人力で井戸から水を運んだよ。水を一緒に運んでくれながら、ハナちゃんが遠慮がちに話しかけてくる。
『あの、向田さん、やっぱり私今日でなくても……』
 ほらそうやってまた自分を後回しにするー。
 ハナちゃんの悪い癖だな。全然遠慮しなくていいのに。
『皆入ったしさ、ハナちゃんだって今日初めて実戦してきたんだろ?』
『ほ、埃っぽいですか私!?』
『そ、そんなことはないけど!?』
 むしろ花のいい香りしかしません、じゃなくて。
『湯舟浸かると一日の疲れが癒されるよ、やっぱり日本人は風呂だって。ほら、あの水嫌いのフェルですら体洗ったんだし』
『何か言ったか』
 寝てないんかい。
『ふふ、そうですね。じゃあお言葉に甘えて……あははっ』
 おっ、フェルを出しにした甲斐があったぞ。俺は見てたんだぜ、渋々洗われてるフェルの嫌そうな顔にツボって笑いを堪えているハナちゃんの姿を……。
 ハナちゃん、フェルのこと敬ってるっぽいから我慢しようとするけど、人間笑っちゃいけないと思うほど笑えてくるもんなんだよな~。すっかり思い出し笑いしちゃってるよ。
 本日2回目だからかファイヤーボールの調節も上手くいった。湯沸かしのプロになれそうだぜ。湯かき棒でかき混ぜて、よし、適温だな。今日俺たちも使った炭酸ガスの入浴剤も入れる。しっかりバスマットも敷いてっと。
『はいどうぞ、ごゆっくり』
『ありがとうございます……!!』
『あ~、何回入っても風呂はいいぜぇ』
 オマケのドラちゃんのが先に入ってるよ。まあいっか、わざわざ付き合ってくれてるんだし。
 さて、スキルで見えてないからって女の子の入浴中なんだから、俺はこの場にいるべきじゃないよなって宿に戻ろうとしたら何もない空間から衣服が出現するところを目撃してしまった俺の心境を50文字以内で表しなさい。(配点・20点)
 懐中電灯を置いた樽の近くの木箱の上に、やや時間を空けながら、次々と畳まれた服が重なっていく。
 あ、あ、あれ、もしかしなくてもハナちゃんの服だよなっっ?
 そ、そりゃそうか身に着けてる物はスキルの効果範囲だけど脱いだらその限りではないっていうか。
 今まさに見えてないけどハナちゃんがゆっくり服を一枚ずつ…………ぬ、脱いで…………、
 ダメだ。
 考えたらダメなやつだ。
 見ててもダメなやつだ。
 俺はなるべく心を無にしようと努めながらネットスーパーでラタンのバスケットを高速で購入した。
『このバスケットよかったら使っていやあのほんとにゆっくり入ってていいからね! ドラちゃんなんかあったらよろしくなっ!! じゃっ!!』
 俺はギュルンッと半ターンをキメて風呂に背を向けるとそそくさとその場を後にした。
 いや、これ、想像するなって方が無茶だろーっっ!?
 何ってそりゃ、は、裸だよ俺の馬鹿っっ。
 人間ってやつは何だって考えちゃいけないって思えば思うほど考えちゃうんだっっ?

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

『なんだぁ? 慌ただしい主人だな』
『バスケット……?? わあ可愛い』
『その服入れろってことなんじゃね? すげーよな、いきなり服が出てきたからちょっと面白かったぜ』
『あっ!? えっ!? あれっ、見えてるの!?』
『おいおい、ずっと消えてるからって麻痺したかー? ハナのスキルはハナを丸ごと見えなくしてるだけだろ。そりゃ脱いで置いたら見えるって』
『そ、そっか……ひゃあ……。……し、下着脱ぐ前でよかった……』
『人間てさー、脱いだ服見られても恥ずかしいのか? 服着なくても恥ずかしいんだろ?』
『う、うん……』
『不便だな……』
『わ、私もそう思う……うう、恥ずかしい……』
『あー、いいからさっさと脱いで早く風呂入れよな! その籠に入れるの手伝ってやるから!』
『うぅ……はぁい……ありがとうドラくん……』

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

『む、向田さん、お風呂ありがとうございました! とりあえずアイテムボックスに仕舞ってあります、後でスイちゃんにお願いしてきれいにしてもらいますね』
「は、早かったね?! い、いえいえどういたしまして。そうだね、スイが起きてからお願いしよっか」
『……』
「……」
『あ、あの、バスケットもありがとうございました。助かりました』
「う、うん。せっかく買ったばっかの服なんだし、汚れたらもったいないもんね……」
『……』
「……」
『きょ、今日はもう寝ましょうか……』
「そ、そうしよっか。はは……」
 ぎくしゃくしながら布団を敷いていく。目が泳いでハナちゃんを直視出来ない。は、裸を想像しちまった手前どんな顔すればいいか全然わからん。
 心なしかハナちゃんも気まずそうだ。ドラちゃんも見てたから教えて貰ったんだろうな……つまり気付かずどんどん脱いでったってことだよな……ハナちゃんや……うっかりし過ぎでは……? あのまま見てたら危なかったマジで。いやだって流石に下着の現物を拝むのはどう考えたってマズいでしょ色んな意味でっっ。
 布団に潜り込んで部屋を暗くすると対面しなくて済むしいくらかほっとした。
 まあ、結局ベッド使わないで床で寝ることになったからハナちゃんとの距離ちっっっっかいんだけどね。
『……お、お邪魔します』
「は、はいどうぞ」
 ぎこちなくハナちゃんの蔓が俺の腕に絡んで来た。こ、これはあくまでハナちゃんとの添い寝フラグを回避する為だ。蔓もあったまったのか、いつもよりほかほかしてる。
 ていうかさっきから気付かないフリしてたけどダメです。
 湯上りのハナちゃん、普段の5億倍いい匂いする。
 なんなの?
 意味がわからん……女の子怖い……。健康な成人男性には毒過ぎるぜ……。
『おやすみなさい』
「おやすみ」
 結局ハナちゃんのステータスまだ確認出来てないな。明日にしよう、今日はもう無理です寝ます。

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