第三十一話 ギルド登録と新スキル

 話の流れでポテトを揚げることになっちまった。商人ギルドの受付前で大勢に囲まれながらの揚げ物、絵面がシュール。
 フェルもスイもドラちゃんもとっくに飽きてぐーすか寝てるから、さっきまで話し合いに使ってた部屋に置いてきたったわ。
 ハナちゃんはずっと起きてたしこれからギルド登録もしなきゃいけないから、遅くなってごめんねって念話で謝ったら『いえそんな、気にしないでください! 向田さんが謝ることじゃありません、というか、向田さんは人が好すぎです……!!(そういうところもすきなんですが……!!)』な、なんか力説されたんだが。
 人が好いって別にそんなことないけどな~。ハナちゃんて俺のことやたら好意的に解釈してくれるよね。ありがたや。
 まあ最初買取料金を安めに見積もられたこととか、俺も商人ギルド側に思うところがないわけじゃないよ。でも結局は金額も大幅に引き上げてくれたんだし、料理を教えるくらいなら全然苦でも何でもないからね。
『向田さんが納得してるならいいですが……むん……(今回はウゴールさんがいてくれたからよかったけど、向田さんがいいように利用される、みたいなことにはなって欲しくないなぁ……。……既に女神様からの扱いが……アレですが……でも加護は有難いものですし……うぅ……)』
 む、むん……? 俺よりハナちゃんの方が憤ってるってか、心配してくれてんのか? 他人に慮られるって嬉しいもんだよな。
 唸ってるハナちゃんに揚げたてをこっそり渡して、俺も一個だけ食べたよ。アチチ。
 後片付けをしたらやっとハナちゃんのギルド登録だ。
 ハナちゃんには一旦外に出てもらって人気のないところでステルスを解除してから、改めて入口から入って来てもらうよ。
 その間に俺が新規の入会希望者がいることと、ハナちゃんの事情を話しておいた。
 今朝二人であーでもないこーでもないと意見を交換し合って、なんとか固まった表向きの設定はこうだ。
 ハナちゃんは前からしてみたかった商いをするため、故郷を出た。
 しかし道中魔物から『沈黙』の状態異常を受けてしまい、一時的に話せない状態に。
 治療中なので直に治るのだが、何かと不便な思いをしていた時に偶然同郷の俺と再会。
 ここで会ったのも何かの縁、しばらく一緒に旅をすることになった、という筋書だ。
 全力で捏造したぜ。
 一応フェルにも確認したが『沈黙』攻撃をしてくる魔物は本当にいるらしく、名前もそのまんまでサイレントバット。そこら辺の洞窟にも普通に棲息している蝙蝠だってよ。見たことも攻撃されたこともないが、サイレントバットには罪を被ってもらった。
 ちなみにハナちゃんは『じゃあ私は、旅の途中にうっかり蝙蝠にやられた向田さんと同郷の商人志望者、ですね!』って楽しそうだったよ。
「……という事情がありまして、私が付き添いたいのですがよろしいですか?」
「もちろんです、ムコーダ様のご紹介とあれば喜んで」
 って、アドリアーノさんが担当してくれんの? 絶対ギルドマスターがする仕事じゃないと思うんだが。
「治療中とのことでしたが、もし追加で薬が必要ならばご用意出来ますのでお申し付け下さい」
「あ、ありがとうございます」
 ははあ、さてはあわよくば恩を売りたいって魂胆ですか。薬、効かないんですけどね。
 それとなく聞いてみたら『沈黙』の回復薬は飲み薬タイプとうがい薬タイプがあって、効き目に個人差があるらしい。回復魔法の方が手っ取り早いんだが、だからこそ治療費をぼったくる人間もいるんだってさ。人の弱みに漬け込む輩はどこにでもいるんだな。
 タイミングを見計らってハナちゃんがやって来たので、アドリアーノさんに紹介する。
「(ぺこり)」
「彼女が私と同郷のハナ、です。よろしくお願いいたします」
「……!(呼び捨て……!!)」
 手続きはあっという間だった。担当してくれたのがギルドマスターのアドリアーノさんだったってのと、ハナちゃんが最初から仕組みやランクを理解してたからスムーズに終わったよ。背後霊の時のハナちゃん、ホントによく見てたんだな。もちろんハナちゃんも俺と同じアイアンランクだ。
 念願のギルドカードを手に入れたハナちゃんは、大事そうにカードを抱き締めながら何度もお辞儀してた。喋れないと感情表現がどうしても身振り手振りになるよね。でも言葉にしなくても全部顔ってか全身から嬉しさが出てたんで、俺もアドリアーノさんもうんうんよかったね~って微笑ましげに見守っちまったぜ。
 これで次の街からハナちゃんは堂々とギルドカードを提示出来るようになった。それまでに話せるようになってなかったら、引き続き街中だけこっそりステルスを使っていく予定だ。
 皆を叩き起して、アドリアーノさんに挨拶した。
「お世話になりました。それじゃ、私はこれで」
「(ぺこ)」
「いいえ、こちらこそ。ありがとうございました」
 さーて、帰って飯にするとしますかね。
『ふわぁ、よく寝たぜ。あー退屈だった』
『うむ、これだけ待たされたのだ。肉だぞ肉、わかっておるな』
 そう言われると俄然野菜が食べたくなってくるんだなこれが。何にすっかな~、昨日大量に作ったひき肉使うとするか。
『あれー? ハナちゃんが見えるー』
『うん、見えるよー。今日はちょっと手続きしたから、とくべつー』
『そっかー、とくべつー!』
 ハナちゃんてスイに話しかけられるとスイの口調を真似して返すこと多いよな。それでスイもなんか嬉しそうだし。うん、可愛い×可愛いは以下略。
 言われてみればステルスを使ってないハナちゃんとこうやって街中を歩くのは初めてだ。
 横目で隣のハナちゃんをチラ見したら……え? めちゃくちゃニコニコしてる。
『なんだよハナ、随分ご機嫌じゃんか』
『ふふふ。だって、こうして一緒に歩くのが……夢だったから』
 そこで何故かハナちゃんとばっちり目が合った。ぽっと照れながら微笑まれて、さっと目線を外される。
 な、なんでそんな反応するのっ? 一緒に歩けて嬉しいって俺だけに言ってるわけじゃないのに、盛大に勘違いしそうになるんですがっ。
 落ち着け俺。目の前の和やかな景色に意識を集中させるんだ。
 ドラちゃん、すっかりハナちゃんの頭で寛ぐことが多くなったな~ハハハ和む~~。
『ふーん、なんか頭に咲いてる花もいつもより元気だぜ』
『そ、そうなの? いつもより元気……??』
 ドラちゃんや、いつもより元気ってなんぞ。
 あ、もしかして咲き具合や香りの強弱に本人の喜怒哀楽が影響するのかも。この前布団の上で土下座してた時はちょっと萎びてた気がするし。
 その時ちょうど風が吹いて、ふわんと花のいい香りが……んん?
 なんか、いつもの匂いと違くない?
『……む? ハナよ、またスキルが発動しておるぞ』
 一足先に鑑定したらしいフェルが言う。
『アルラウネの魅了チャームか。我らには効かんが、人間の雄には効いておるな』
「ブフォッ」
『えええええっ!?』
 ふ、噴き出しちまった。い、今の発言てちゃんと念話だったよな? ハナちゃんが一応アルラウネってことはお口チャックなんだからな!
 てか魅了チャームて。そ、そりゃ元々人間を誘惑するような種族なんだろうけど街中でそれはマズいです。
 ……よく見たらハナちゃん、結構、いや大分注目を集めてるぞ。頭にドラゴン乗せてるからってだけじゃない、何人も振り返っててあからさまにハナちゃんを見てる、っていうかフェルの言う通り明らかに野郎の視線が多いんですが? は?
 振り返って見惚れる輩はすぐ隣のフェルにビビって顔を青くするまでがセットで、実際に声をかけてくるまでには至らなかったからよかったものの、フェルがいなかったらナンパして来そうな奴がちらほらと……。
『……』
『……』
 こくりと顔を見合わせて頷くと、俺たちは少し狭い路地裏に入る。フェルの巨体で隠すようにして、ハナちゃんにステルスを使ってもらった。
 俺にはやっぱりほのかに香るけど、俺以外にはこれで匂いは届かなくなった。
『ご迷惑を……おかけしました……』
『い、いやいや流石にびっくりしたけどまだ迷惑かけられてないからね!? 気にしないで!』
 しかし、なんで急に??
 アロマテラピーの時はハナちゃんの「ダリルとイーリスを落ち着かせたい」って気持ちにアルラウネの体が応えた形でスキルになってたよな。でも今は帰り道にただ歩いてただけだし、やたらご機嫌だったせいか?
『ヒン……ありがとうございます…………(……魅了って……何……? 念願叶って向田さんの隣を歩けてすっごくうれしいからって、なんでそこで、魅了……!? そりゃあちょっと意識しちゃったというかむしろ女の子として意識してもらえたらいいなって思っちゃったけど……魅了……さ、誘ってるみたいに思われたらどうしよう……!? 穴があったら入りたい……消えたい……もう消えてた……うぅ……)』
 姿は見えないのに何故だがハナちゃんの様々な葛藤を感じるぞ。
 結局ハナちゃんと一緒に歩けたのは一瞬でした。
 実はちょっと残念というか……魅了なんか使わなくたってハナちゃんは可愛い女の子に違いないんだし、もうちょいこう、隣を浸りたかったというか……。
 ……いや、今まで女っ気が無さすぎたからってそんな風にハナちゃんを見るのは失礼だよな。さよなら邪念。ハナちゃんは身内ハナちゃんは身内。ヨシ。

 この後ハナちゃんは街中でステルスを使っていく方針に、自分の体とスキルを制御出来るようになるまで、を付け加えてました。

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