第三十二話 加護、欲しいけどねぇ

「というわけで昨日大量に作ったひき肉を使って今日はミートローフにします」
『みーとろーふ』
 宣言したらハナちゃんに復唱された。何そのひらがな発音。
 さてはピンと来てないな?
『いやあの、名前は聞いたことがあるんですが、上手く頭の中でこれ! っていうのが思い浮かばなくて……??』
 ハナちゃんの中にミートローフが不在の件。割とポピュラーなひき肉料理だと思ったんだが、まあ食べる機会はそこまで多くもないか?
 確かローフがパンって意味で、そこから転じて肉を長方形の食パン型に焼いたやつをミートローフって呼ぶようになったんだったか。
 要は型を使って四角く焼いたハンバーグみたいなものだよって説明したら、
『そう……(向田さんの中ではミートローフが当たり前にレパートリーとして存在してる上にそんな予備知識まで備わっている……)なんですね……なるほど……』
 ってしみじみ頷かれた。なんとなく思い出せたからミートローフに合わせてサラダは洋風にするってさ。やったぜ。
 それにしてもハナちゃんの記憶って、生姜焼きとか「いただきます」とか日常のことは大体覚えてるのに、名前や年齢とか自分に関することはすっぽり抜け落ちてるんだよな。うーん、話してる感じだと俺より少し年下か?
 なんにせよ本人は気にしてないみたいだから、俺も気にしないことにするよ。ブラック企業のトラウマだけ忘れてないのはちょっと心配だけどね。
 もちろんもしハナちゃんが記憶を取り戻したいって言うなら喜んで協力するぜ。
 そんなことを考えながらせっせとミートローフの種を作って型に流し込んでいった。
 焼き上がりを待つ間にハナちゃんが作ってくれたサラダを一緒に食べる。今日のサラダはオーソドックスなレタスときゅうりとプチトマトのサラダでした。ありがたや。ご馳走様です。
 やっぱりと言うか、サラダに興味を示してくれたのはスイだけだった。
 そのスイも『あるじとハナちゃん何食べてるのー?』って食欲より好奇心の方が強かったし、『この丸くて赤いの甘酸っぱくておいしーね』って言いながら一口しか食べなかったし。いいけどね。今後もハナちゃんのサラダは俺が独り占めさせて頂きます。
 ミートローフは我ながらイイ出来だったし、フェルがミックスベジタブルに文句言ってたけど食い付きは上々だったし、ハナちゃんも『く、クリスマスとかに出てくるご馳走のやつ……!!』って喜んでくれたよ。
 食後のデザートを出して肉そぼろの仕込みを終えたところで、ふとお世話になったウゴールさんのことを思い出した。
「というわけでウゴールさんにお礼としてパウンドケーキを焼こうと思います」
『パウンドケーキ……??』
 それでハナちゃんに思い付きを言ってみたらまたぽかんとされちまった。
 え、もしかしてパウンドケーキも不在なの?
『ぱ、パウンドケーキはいますっ!』
 いたわ。
 ハナちゃんてツッコミも律儀でちょっと面白い。
 取り繕うようにハナちゃんはゴホンと咳払いをすると、呆気に取られた理由を教えてくれた。
『向田さんが色々作れるのは知ってましたが、お菓子までとは思い至ってなくてびっくりしちゃって……すごいですね……!』
 そ、そんなに凄くないです。
 なんていうかハナちゃんて、純粋に俺のこと凄い! って思ってくれてるのが一目でわかるような表情するんだよな。
 見てよこのお目目キラッキラ。て、照れる。
「色んな飲食店でバイトしてたってだけなんだけどね。おかげでレパートリーだけは沢山あるよ」
『しっかり経験が活きてますね! パウンドケーキはどこで覚えたんですか?(ケーキ屋さんかな? ケーキ屋さんでバイトする向田さん、ちょっとかなりかわいいなぁ)』
「いや、喫茶店バイトの時だよ。コーヒーが美味いって評判の店でさ、ケーキセットが人気だったんだよね」
『そっっっっ……、……ソウナンデスネ!!(喫茶店で……バイト……してる……向田さん……!?)』
「ちょうどパウンドケーキの型もあるし、ちょっとしたお礼にはやっぱり菓子類かなって」
『(白シャツ……エプロン……、エプロン……!?)とっっても良いと思います!!』
 な、なんか力強く同意頂けた。
 火も使わないしハナちゃんもやってみたいって言うんで一緒に作ったよ。
 途中『バターも砂糖もこんなに入れるんですね……』って愕然としてたのは笑った。ま、まあ一人分じゃないし。どっかの駄女神様みたいに一人でバクバク食ったらそれこそ太るけどな。
 あ、駄女神様で思い出したわ。そろそろまた貢ぎ物を渡さないとそろそろ神託で急かされそうだな。最後に送ったのはダンジョン出てからすぐ、ハナちゃんの生い立ちを聞いた後だったっけ。
 あの時ハナちゃんは酔っ払って寝ちゃったから、今度は先に話しておくか。
 パウンドケーキを作り終えて宿屋の部屋に戻った後、寝支度を済ませてからハナちゃんに伝えた。
「ハナちゃん、明日の夜辺りに女神様たちに貢ぎ物するからちょっとうるさくするかも。ごめんね」
『わかりました。……背後霊の時から思ってたんですが、大変ですよね……が、頑張ってください……!』
 は、励まされちまった。女神様たちの声が聞こえなくても俺が苦労してるって伝わってるんだな。
『加護はとっても有難いものですし、向田さんを守ってくれてるので、女神様たちには感謝してます……が……これ以上向田さんの負担が増えないか、正直心配です』
 やだ……めっちゃいい子……。フェルは『女神様のおっしゃる通りにしろ』ってスタンスだから俺に対する労いが一切ないし。ハナちゃんの気持ちが染み渡るぜ。
 そういや女神様たちってハナちゃんに言及してこないよな。
 職業がアレなんで正直助かる。
 ……あ、創造神様とやらのおかげか?
 ハナちゃんは転生する時に直接お世話になってるから、そっち経由で諸々が創造神様にバレるとマズいのかも。
「ハナちゃんには創造神様から神託とかってないの?」
『……球根時代にならちょっとだけ……と言っても世間話というか、相槌されただけというか……』
 相槌してくる神様って何?
 ハナちゃん曰く、転生って球根からなんですか? って質問したら普通に返事してくれたんだって。お、思ったより気さくだな。
 でも最初のそれっきりで、球根の時も一応アルラウネになった今も特別声を聞いたりはしてないらしい。
『今度の私の人生がよき旅路でありますように、って祈ってくださいました』
「……そっか。よかったね」
『はい!』
 今日もハナちゃんが笑顔で何よりです。
 創造神様、流石一番のお偉いさんなだけはある。神託でリクエストしてくるどっかの誰かさんとは比べるまでもなかったわ。
 しかし貢ぎ物目当てに神様ズがバンバン俺と従魔の皆に加護を授けてるって知ったら、さぞかし創造神様は怒るだろうなぁ。
 折角ならハナちゃんにも加護欲しいけど、流石に無理だよね。

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