第三十三話 主人補整

 俺たちは雑貨屋に立ち寄った。昨日お礼に作ったパウンドケーキを入れるバスケットが欲しいんだよね。
 俺たちって言ってもフェルは図体がデカいので入れなかったし、興味のないドラちゃんも入らなかったし、スイちゃんは鞄の中で既にお眠なんだけどさ。
 しっかりたっぷり朝飯食ってからの更に串焼きだったからなぁ、そりゃ寝るよね。というか街中で暇するとすぐ寝るよ俺の従魔たち。ハナちゃん以外。
 ちなみにそのハナちゃんは『さ、流石に遠慮しておきます……!』って言ってたけど結局炭火のいい匂いに負けて俺の串から1個だけ食べました。フフ、炭火焼の肉は美味いからな。
 念話で雑談しながら目当てのバスケット探しだ。
『やっぱり炭火焼っていいよね。バーベキューコンロがあればなぁ』
『バーベキュー、いいですね! あっ、次の目的地って海沿いでしたっけ……!?』
『そうそう。肉もいいけどさ……バーベキューコンロがあれば、海鮮バーベキューが出来る……!』
『か、海鮮バーベキュー……!』
 言葉にしなくても俺とハナちゃんが思い浮かべている情景は一致したはずだ。
 青い海、青い空、焦げ付いた炭の香り。焼き目のついたイカや魚、口を開いた貝にちょっと醤油を垂らしてみたりして。
 そしてキンキンに冷えた生ビール……
「『ごくり……』」
 ちょ、唾を飲み込むタイミングが一緒なんですけど?
 思わず笑っちまったけどもちろんハナちゃんはステルスで消えてるんで傍から見たら1人で笑ってる不審者状態だよ。咳払いで誤魔化しました。そんな俺にハナちゃんが堪え切れないようにくすくす笑う。くそう、可愛いから許す。
『ふふふっ……あ、向田さん、蓋付きのバスケットありましたよ』
 くいっと蔓で引っ張られた方向にバスケットが積んであった。お、サイズも良さそうだな。ハナちゃんにお礼を言って無事にバスケットGETだぜ。
 案の定ちょっとうたた寝しそうになってたフェルとドラちゃんに声をかけて冒険者ギルドに向かう。
 今日は買取代金の受取だけだからそんなに時間はかかるまい、そう思った俺が間違いでした。
 ウゴールさん激おこ再びだよ。
 エルランドさんていらんこと言ってウゴールさんをブチ切れさせる天才なの??
 まあこんな人でもお世話になったし、うちのハナちゃんも怒声にびくびくしてるから助け舟としてバスケットを出したよ。
 思った以上に喜んでもらえてよかったよかった。
 少し空気が和んだところでそう言えば……ってウゴールさんがこの前渡したサシェの感想を小声で教えてくれた。
「ムコーダ様、この前頂いた香り袋ですが、とても素晴らしいですな。よく眠れただけではなく、何やら胃痛や肩凝りまで緩和した気がしますぞ。どうぞ宜しくお伝え下さい」(ぼそぼそ)
「それはそれは何よりです。知人も喜ぶと思いますので、伝えておきますね」(ぼそぼそ)
『ご自愛下さい、ウゴールさん……』(ぼそぼそ)
 念話だからハナちゃんは小声じゃなくても大丈夫なんだけど、突っ込まなくていっか。俺も和みました。
 話の流れで出た鍛冶工房のことを聞くと、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
『ウゴールさん、すごく喜んでくれたし、効果もバッチリだったね』
『はい! わたしもすごく嬉しいです!』
 うんうん、よかったねぇ。俺としてもハナちゃんが心配して作った物なんだから、やっぱりしっかり使って欲しいって気持ちが強かった。あの様子なら愛用してもらえそうだな。
 しかし枕元に置いて寝るだけで胃痛と肩凝りが良くなるってすごくない? 安眠も出来るし。
 実は昨日俺もまた枕元に置いて寝たんだけど、寝付きも寝起きもスッキリって感じ。肩や腰が軽くなったのは気のせいじゃなかったわ。俺も愛用コースかも。
 ただ不思議なのは、ハナちゃんのアロマテラピーは俺に効かないのにアロマテラピーサシェは明らかに効果が出てる点。なんでだ?
 直接のスキルとスキル付与した物体じゃ前者の方が力は強いはずなのにさ。き、昨日の魅了チャームも俺には効かなかったし。
 理由を考えるならやっぱり俺が主人だから、かなぁ。むしろそれくらいしかないよね。
 ……ちょっと照れるがハナちゃんはこんな俺を心から慕ってくれてるみたいだし、それが転生の切っ掛けになってるわけで。
 ハナちゃんのスキルはハナちゃんの気持ちや気分で勝手に発動するけど、『主人の俺』には危害が及ばないようになってるのかな、なんて。ちょ、ちょっと自惚れが強いか?
 香り袋はハナちゃんのスキルが付与されているが、ハナちゃんの意志からは切り離されているというか?
 あ、スキルと言えばあのフェルでさえステルスを使われたら一切感知出来なくなるのに何故か俺だけ匂いがわかるんだよな。これも主人だからか? ……な、なんでだ??
 うむ、わからん。
【注・全部ハナちゃんがムコーダさんのことをすきだからです】
『バーベキューコンロ、作ってもらえるといいですねっ』
 うきうき弾んでるハナちゃんの念話の声に、俺はそうだねと返しながら一旦思考を打ち切った。ハナちゃんのスキルについてはまだまだ検証し甲斐がありそうだけどね。
 今は鍛冶工房が集まる区画に行ってバーベキューコンロを作ってくれる工房を探しに行くぞ。

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