第三十四話 ミスリルのお猪口
しかしまあ断られるんだわこれが。何がってバーベキューコンロだよ。武器じゃない上にちょっと見たことない調理器具の依頼だからってそんな怒ることなくない?ウゴールさんに引き続きハナちゃんの精神衛生上よろしくない怒声が続いてます。
「外で待っててもいいんだよ」って言ってみたんだが、ハナちゃんの中ではすっかり俺の後ろから見てるのが普通になってるみたいで『お、お邪魔じゃなければご一緒させてください』だって。お邪魔じゃないです。
『怒鳴られるタイミングがわかってきたので耳を塞ぐタイミングもばっちりです!』
な、涙ぐましい。工房見学やイメージ通りのドワーフに会えて楽しそうではあるんだけどねぇ。
なんでハナちゃんが消えてるのにわかるかって、繋いでる蔓が嬉しそうにゆらゆら揺れたり『わー! イメージ通りのドワーフ……!!』って盛大に独り言零してるからです。多分背後霊の時もこんな風に俺の後ろでキャッキャしてたんだろうな~って容易に想像ついて笑っちまったよ。楽しそうで何よりです。
そうは言ってもこれ以上ハナちゃんを怒声に晒すわけにはいかん。
対ドワーフ用秘密兵器として酒を思いついた俺は人目のない路地裏でいくつか注文することにした。
「クフフ、次は見てろよ」
『(ああっ向田さんが珍しく悪い顔してる……!!)』
酒は効果覿面でした。
6件目にしてようやくバーベキューコンロを作ってもらえそうで一安心だ。
これで炭火が楽しめるし次の街で海鮮バーベキューも出来るぞ。ひゃっほう!
『さっきの親方、自分で温和って言うだけあったね』
『最後まで説明も聞いてくださいましたし、呆れはしても怒らなかったですね』
酒の力がなくちゃ依頼は受けてくれなかっただろうけど、説明の途中でブチ切れなかったのは最後の親方だけだったもんな。案外いい人、いやいいドワーフに出会えたのかも。完成の3日後が楽しみだぜ。
帰り道にそれまでの3日間は作り置きに専念しようかなって話をしたよ。旅の準備はしっかりしておかないとね。
バーベキューコンロの完成を目処にドランの街をぼちぼち出発する予定だ。
『ならば出発前にもう1回ダンジョンに行くのはどうだ』
ダメです。
『おっそれいいな、昨日も今日も寝てばっかで退屈だよなー』
ダメです。
『スイもまたダンジョンでビュッビュッてしていっぱい敵倒したーい』
ダメです。
『ちょっと興味はありますが……日程的にだめですよね』
だ、ダメです。
『ふむ、ハナだけダンジョンに潜ってないのは不公平じゃないのか?』
『ハナもダンジョン行きたいよなー?』
『ハナちゃんも一緒にいっぱいいっぱい敵倒したいよねー?』
『ま、また今度で! ダンジョン初チャレンジはまた今度で大丈夫なのでー!!』
ハナちゃんが慌てて念話で叫んだ。こ、ここぞとばかりに結束しやがって。ハナちゃんのためってより自分たちが行きたいだけだろ、全く。
1回踏破したんだし何日かかるかわからないし、ダンジョン2周目は行きません。ハナちゃんには悪いけど……
『ダンジョンは次の楽しみにとっておきますね!』
そこで楽しみって言い切れちゃうのがハナちゃんだよね。
俺は出来ればダンジョンとか避けて通りたいけど、この面子ならまた近いうちに行くことになりそうだな。いいけどさ。
俺の従魔たち、血の気が多い。
宿に帰ったらすぐ飯にした。今日はピラフ入りの簡単丸ごとローストチキン。サラダはアボカドとトマトでした。チーズ入りで美味かったぜ。
完成品を見たハナちゃんは1.5メートルのローストチキンっていう大きさがツボに入ったみたいでしばらく笑ってた。
『だ、だって、冗談みたいに大きいんですもん!』
すっかり慣れちまったけど改めて見たらそりゃあ超デカいよね。
しかも今回は丸ごとだから余計大きさが際立つっていうか、俺まで可笑しくなってきたんですが。人が笑ってると移るよね。
クソデカローストチキンにくすくす笑う俺たちをフェルとスイとドラちゃんが不思議そうに見てたよ。
食後は通例になりつつあるデザートを出して、スイに頼んでミスリルであれこれ作ってもらった。
全く熱を通さないとか流石のレアメタル。だからフライパンは失敗だったんだが、コップには最適だったぜ。
失敗したフライパンはコップ1つと深皿3つ分に作り直してちょうどの量だったから、追加でハナちゃんの分も作るよ。
アイテムボックスから追加のミスリル鉱石を取り出すと、結構大きい。
「ハナちゃん、コップ以外に何か欲しいものある? スイが作れそうなものなら一緒に作ってもらおうよ」
『え、いいんですか? ありがとうございます、楽しそうだなって思ってたんです……!』
折角だしと勧めてみたら、思ったより喜んでもらえたぜ。
『じゃあスイちゃん、よろしくお願いします(ぺこり)』
『よろしくされたー(ぺこり)』
うむ、今日も可愛い×可愛いは超可愛いだったわ。
『今作ったコップを、このくらいちっちゃくしたものが2つ欲しいんだけど、どうかな?』
『小さくすればいいの? やってみるね、えーっとこうしてこうして……出来たー』
『ありがとうスイちゃん!』
身振り手振りでハナちゃんがスイに説明して出来たのは……お猪口か? 構造が複雑じゃないから実物がなくても作れたんだな。
ミスリル製独特の青白い光沢を放つお猪口は見た目も綺麗だ。
『れ、冷酒にいいかなと思いまして……』
少し照れくさそうにハナちゃんが言う。お酒、呑める口だもんね。キンキンに冷やした酒が最後まで冷え冷えなのは嬉しいよな~。
お猪口の後にコップも作ってもらったハナちゃんはニコニコしながら『はい、向田さん』ってお猪口の1つを俺に渡してくれた。
お礼を言って受け取ったけど、ハナちゃん、当たり前のように俺の分も作ったな??
一緒に飲みたいってことなんだろうけどさ、な、なんか嬉しいやら照れくさいやらでむず痒いぞ。
『それにしても……ミスリルのミンサーにミスリルのフライパン、ミスリルのコップ、ミスリルのお猪口……ふふふっ』
あ、またツボってる。フェルにも言われたけど貴重なミスリルを調理器具や食器に使うのはまあきっと俺くらいだろうな。
お猪口は明日にでも使ってみようって約束したよ。フェルに氷を作ってもらってキンキンに冷やして……いいねぇ~。
本当だったらこのままハナちゃんと早速一杯やりたいとこなんだけど、残念ながら女神様たちへの貢ぎ物タイムだ。
はぁ~、余計に面倒になってきた。