第三十六話 欲しいとは言ったけどさ
『……、……? ……?? ……???』ハナちゃんは目を白黒させてる、そりゃそうだよ俺だって何が何だかさっぱりだよっ、と、とりあえず鑑定っっ。
【 名 前 】 ハナちゃん
【 年 齢 】 5日
【 種 族 】 一応アルラウネ(元人間)
【 職 業 】 ダッチワイフ
異世界からの転生者
【 レベル 】 8
【 体 力 】 539
【 魔 力 】 487
【 攻撃力 】 382
【 防御力 】 455
【 俊敏性 】 312
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス 風魔法
触手 アロマテラピー
【固有スキル】 ステルス 擬態
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護(極小)
火の女神アグニの加護(極小)
土の女神キシャールの加護(極小)
水の女神ルサールカの加護(極小)
戦神ヴァハグンの加護(極小)
鍛冶神ヘファイストスの加護(極小)
ほ、本当に加護がついてる……。
えっ? し、しかも全員分じゃないかっ?
そりゃ加護貰えるならハナちゃんにも欲しいとは思ったけど、急にどういうこと? 他の神様はともかくスイの時に「みんなと違って何の考えもなしに加護を次々に与えてない」って言ってたルカ様まで……。
『……特別の特別。それに、
『寄せ集めでも合わせたら小から通常くらいにはなると思うわぁ』
あ、ホントだ小じゃなくて極小……いや極小だからって納得出来ませんけど。
『むむむむ向田さん……? 私どうなっちゃったんですか……?』
混乱して泣きそうなハナちゃんを必死に宥めた。
「だ、大丈夫ハナちゃん! 神様たちがハナちゃんに加護を授けてくれたんだって!!」
『か、加護……??』
ハナちゃんがおろおろしているうちに発光は収まっていった。
「ちょっとみなさん、一体どういうことですかっ?」
『わ、妾は反対したんじゃが……流石に……のう……?』
『お、おう……』
『(こくこく)』
『まあ……その……なぁ?』
『のう……?』
歯切れ悪すぎだろ。
『ホントは私たちとしても創造神様の手前、転生者ちゃんにはなるべく触れない方針だったんだけど……流石に……ねぇ……』
流石にって何? ハナちゃんに何があったの??
代表を名乗るキシャール様が説明してくれるが説明になってないし。
『でも直接神託してないし、加護も極小ならまあギリギリ大丈夫でしょうってことになって』
ガバガバ過ぎるだろ神様ズ判断。
『異世界より来たりて魂巡りし転生者に幸多からんことを……』
神っぽいこと言われても誤魔化されませんから。
だって全員から加護を授かるなんてそれ相応の理由がなくちゃ不自然だろ。
ましてや供え物目当ての加護はもう既に俺とかフェルとかスイとかドラちゃんが授かり済みなんだし、このタイミングで新たにハナちゃんに授ける意味がわからない。
今更ハナちゃんの壮絶な生い立ちに情けをかけたわけじゃないだろうし、一体何があったっていうんだっ?
『極小とは言え加護は加護なんだし、創造神様には色々と内緒にしてくれると嬉しいわぁ。それと私が使ったことのないシャンプーやトリートメントを転生者ちゃんが使うことがあれば、是非使用感が知りたいわねぇ♪じゃあ異世界人クン、転生者ちゃんによろしく伝えておいてね~』
「ちょ、ちょっとちょっとキシャール様っ?」
何が代表だよ最後とかちゃっかりただの要望だし結局説明になってないんですけどーーーーっっ。
しん、と静まりかえる部屋にスイの安らかな寝息だけ響く。
今度こそ何も聞こえなくなった。
どちらともなく自然とお互い見つめ合う。
そして、しっかり同時に頷いた。
「……寝よっか……!」
『……はいっ……!』
俺たちは考えるのを放棄して、ひとまず就寝することにした。おやすみなさい現実。
――時間は少し遡る。
神界にて。
声が異世界人に聴こえないように切り替えたのは、配慮からではなく呆れからだった。
「……しっかし気付かないもんだな、鍛冶神の。転生者、ありゃ完全に異世界人にホの字だろ?」
心底不思議そうな戦神ヴァハグン様に、鍛冶神ファイストス様も思わず言葉を返す。
「そうじゃのう戦神の……あれで転生者が隠してるつもりなのも驚きじゃが、気付かない異世界人も相当じゃ」
「カーッ、ヘタレと奥手ってやつか? まどろっこしいぜ。ま、別にどうでもいいけどさ」
火の女神アグニ様は暇潰しとばかりに話には乗るが、興味なさげなご様子。
「……異世界人、鈍いし低い」(こくこく)
「「「……低い?」」」
だが水の女神ルサールカ様の不思議な指摘には、揃って首を傾げるしかなかった。
「何を話しておるのじゃ? はぁ、キシャールは時間かけすぎなのじゃ……不三家ッ! 早く不三家のケーキが食べたいのじゃーッ!!」
風の女神ニンリル様がバタつきながら声を荒らげても、返事は淡々と冷静だった。
「暇潰し。ステータス見てた。異世界人の恋愛運、酷い」
その言葉に、暇を持て余した神々は――
「どれどれ……、……のう戦神の。儂の見間違いか? 一桁に見えるんじゃが……」
「……安心しろ、鍛冶神の。俺にも一桁に見えるぞ」
「な、な、なんなのじゃこの恋愛運は? ひ、低いッ! 低過ぎるのじゃッ!!」
「うわっマジかよ、何かの呪いか?」
「酷い」(こくこく)
――その惨さを知ることとなった。
それはやっと決め終わった土の女神キシャール様からも「あらあらホント酷いわねぇ……可哀想だわぁ……」と憐れみを頂戴する程であった。
こんなにも恋愛運が低い人間を今まで見たことがあっただろうか?
いやない。
反語である。
恋愛運は低い=モテないという単純なものではなかった。例えば意中の相手が出来たとしても、途中で邪魔が入ったり、実は既に決まった恋人がいたりして、散々な結果で終わっても可笑しくはない。
そして仮に万が一にでも好意を向けられたとしても、邪魔が入ったり、そもそも気付けなかったり、散々な結果で終わっても可笑しくはないのだ。
「可哀想」(こくり)
「うむむむむ……そうじゃの……」
「まあ……なぁ……」
つまり。
異世界人はこの先、転生者とフラグが立とうとも気付かずにバッキバキに折り続ける。
そして転生者はこの先、異世界人と何度フラグを立ててもバッキバキに折られ続ける。
「こんな恋愛運の異世界人クンを好きになるなんて……」
そう。
神々が憐れんだのは、異世界人に非ず。
「「「「「「……流石に不憫過ぎる(のじゃ)(わ)(ぜ)(だろ)(こくこく)……」」」」」」
――神々の心が、図らずも一つになった瞬間であった。
(……流石にホントのことは可哀想過ぎて言えないものねぇ……)
慈悲深い