第三十八話 洗濯日和です

 昨日から引き続きの作り置き作業中『そう言えばムコーダさん、お洗濯ってどうされてますか?』って質問されたんで一時中断、日が高いうちに洗濯することになりました。旅に出る前だからタイミングもちょうどいいし、天気もいいしね。
 風呂入ったり体拭いたりする時についでに洗ったりしてるけどストックがあるからって結構溜めちゃうんだよな。
 てか今まで石鹸とかでざぶざぶ洗ってたんだが、女の子の衣服を洗うにはなんか申し訳ない気がするぞ。お、おしゃれ着洗剤とか買うべき?
 悩む俺とは裏腹にハナちゃんは何故かご機嫌というか、キリッと得意げな感じだ。
『ふふふ、向田さん! 私、今なら洗濯機になれると思うんです!』
 どういうこと?
 それドヤ顔で言うこと??
 フンスフンスしてるハナちゃんが面白可笑しくて笑いを堪えるのに必死だよ。
 話を聞いてみたら、ハナちゃんの風魔法とスイの水魔法を組み合わせたらいっぺんに洗濯出来るんじゃないか、だって。おお、確かにな。
「だ、だから洗濯機?」
『はいっ!』
 そんな自信満々に頷かれたら笑っちゃうんですが。まあハナちゃんが楽しそうだからいっか。
 一旦部屋に戻って洗剤と柔軟剤と洗濯ネットとその他諸々を購入。
 洗剤は特大詰替用を買ったった。使い切りじゃなくて蓋も出来る便利なタイプ。二人で見てたらこれが一番お得! ってなって。あと別におしゃれ着洗剤じゃなくていいってさ。
 柔軟剤は無香料を選んだよ。フェルなんかは鼻が効くし、あんまり香りが強いのはやめといた方がいいよな。
 大中小といくつかセットになってる洗濯ネットは色違いでそれぞれ購入。ネット自体はどっちも白で、俺はファスナー部分が薄い緑の方、ハナちゃんは淡い桃色の方。
 何日分でも分けて入れられるように大量に買いました。
 なんでこんなに洗濯ネットを買ったかって、よくよく話を聞いていくとどうも俺の洗濯物とハナちゃんの洗濯物をまとめて洗おうとしてるんだよね……。
 いや、いいのか? お、俺が意識してるだけ??
 は、ハナちゃんがいいならいいんだけど……。
 はあ、落ち着け俺。
 まずはパックやボトルが人目に付くとマズいんで、いつも通り瓶に移し替える。リンスインシャンプーとシャンプーとコンディショナーを入れてる瓶と同じだと紛らわしいから、それより二回りくらい大きいものにした。洗剤はパックが大きかったんでハナちゃんに瓶を押さえてもらったよ。
 それから洗濯物を洗濯ネットに入れてっと。
 肌着や靴下なんかはともかくハナちゃんに俺の下着をお見せするわけにはいかないんでそこはコソコソやりました。
 ハナちゃんも合間合間にパパッとステルスを使いながら入れてたよ。俺もハナちゃんの下着類を見るわけにはいかないので助かりますありがとうございます。
 でもそういう恥じらいはあるのに一緒に洗濯することには一切抵抗ないのはなんで?? お、乙女心がわからん。
 一通り準備は出来た。
 いつも作業させてもらってる獣舎の前にまた移動する。すっかり俺達が占領しててちょっと申し訳ないが、もう直に出て行くんで……。
『スイちゃん、これからお洗濯するんだけど、お手伝いしてもらってもいいかな?』
『いいよー!』
『ありがとー! じゃあ、これくらいお水出してくれる?』
『はーい』
 うむ、今日も可愛い×可愛いは以下略。
 ハナちゃんが両腕を広げると、スイがそれくらい大きな水の球を作る。
 あ、そうだ。俺は思い立って小さめのファイアーボールを出して、ふよふよ宙に浮いてる水の球にそっと入れる。じゅわっと音がしてすぐ消えた。熱湯までいくと逆に衣類を傷めちゃうけど、少し水温が高い方が汚れは落ちやすいもんね。
 それからハナちゃんが風魔法を使って、水の球はあっという間に目の前で渦になった。す、すげえ。
『ハナちゃんすごーい!』
『うむ、我の教えが良いからな』
『おー、この中飛び込んだら面白そうだな』
 ドラちゃんや、洗濯されちゃうよ。
 でもドラちゃんやスイのサイズならこう、小さな流れるプールみたいになるか? 暑い季節によさそうだな。
『むむむむ……むん……』
 むん……風魔法に集中してるハナちゃんの呻きと共に、見上げる高さでぐるぐるしてた水の位置がゆっくり下がってきた。助かる~。
 俺は渦に向かってまず洗剤を入れた。詰め替えして不要になった柔軟剤のボトルキャップが計量カップ代わりだ。プラスチックだけど小さいしこれくらいなら外で使ってもいいよね。計量ったって水量と洗濯物の量がわからないんで結局目分量になるけども。
 洗剤が行き渡るようにしばらく待って、洗濯ネットに入れた洗濯物を渦にぽいぽい投げていく。
『んじゃ行くぞー』
『せーの!』
『ドラくんスイちゃんありがとう……!』
 風魔法を使っている最中は流石に他のことが出来ないようで、あらかじめ洗濯カゴに入れてあったハナちゃんの洗濯物はスイとドラちゃんが投げてくれました。た、助かる~~~。
 洗濯ネットに入ってて多少不鮮明だとしても俺が見るのも触るのもアウトだと思います。
 しかしどれくらい回したらいいのやら。あんまり長時間だとハナちゃんも大変だろうし。
 ……都合良く鑑定したらわかったりしないか? 鑑定っと。


【 洗濯渦潮 】
 水魔法と火魔法と風魔法と異世界の洗剤の複合体。頑固な汚れも瞬時にすっかり落とします。


「……ハナちゃん、あんまり回さなくても汚れ落ちるっぽい」
『えっ、ほんとですか?』
 瞬時にすっかり落とします、ってあるから多分大丈夫なはず。てか洗濯渦潮て。そのまんますぎる。
 気を取り直して次はすすぎだ。スイにお願いして渦の隣にまた同じくらいの水を出してもらう。
 洗剤のパッケージにすすぎ1回でOKってあったからとりあえずそれで。柔軟剤はすすぎの最後に入れるんだっけか?
 ハナちゃんは上手く風魔法をコントロールして、一旦離れた場所に排水。水の滴る洗濯物を地面に落とすことなく、新しい水の中に運んでいく。うーん、器用だな。
『スイちゃん、今度はこの渦にね、ちょっとずつお水を足してってくれるかな?』
『いいよー。これは何してるところー?』
『えっと……最初はスイちゃんのお水に洗剤と洗濯物を一緒に入れて、ぐるぐるして汚れを落としました』
『ましたー』
『汚れは落ちたけど、今度は洗濯物にまだ洗剤がついてるの。だからちょっとずつお水を入れ替えて、きれいにしてるところだよ』
『わかったー、スイお手伝いするね』
『ありがとう、スイちゃん』
「うふふー、どういたしまして」
 この和やかさよ。ハナちゃんの花の匂いも相まってスイとハナちゃんの周りにお花が飛んでるのが見える気がする。
『俺も手伝ったんだし今日のプリン増やしてくれてもいいんだぜっ』
『何!? おい、我も手伝うぞ』
 そんで現金よね君達。
 すすぎが終わったあとは脱水なんだが、今までと同じように回したら水が飛び散りそうなんだよな。
『風で乾かせばよいではないか』
 いやいや、ネットに入ってるし。そのまま乾かしたら皺になっちゃうから。
『こう、ぎゅっ! と水だけ絞りたいんですが……』
『フンッ、それならば簡単だ。風魔法を使わずとも、この前狩りでやったように蔓を伸ばして直接絞めればよい・・・・・・
『ああ、なるほど! 流石ですフェル様!』
 し、絞める? しぼるじゃなくてっ?
 フェルの言葉にハナちゃんは早速行動に移した。
『えいっ』
 気合いを入れたかけ声と共にすごい勢いで蔓が伸びていく。
 えーっ、そんなに伸びるの!?
 あっという間に風魔法で浮いてた複数の洗濯ネットが、ハナちゃんの蔓にぐるぐる巻きにされて見えなくなった。
『ええと、加減しないと……これくらい……?』
 ハナちゃんが首を傾げると、結構な勢いでジャーッと水が地面に落ちていった。
 脱水完了です。
 ……ちょっと待って、あの中ってハナちゃんのブr……下着も入ってるんだよな? そ、その、扱いが少し雑じゃないかっ?
 ハナちゃんは社畜時代色んな物に気を配れないような生活を送ってただろうから仕方ないと思うし、お、俺が気にするのも変なんですがっ、こういう時に限って姉由来の知識が思い出されると言いますかっ。
 他の衣服はその脱水方法で全然いいとして。
 何がとは言わないが、ワイヤー入りの物はその、か、型崩れしませんか? 何がとは言わないがっ。
「そ、その……ハナちゃん、それはその……だ、大丈夫? か、型崩れとか……」
『え? あ、ごめんなさいっ、力加減には気をつけたので、干す時にしっかり皺を伸ばせば大丈夫だと思いますが……』
 そうじゃなくて、いやそうなんだけどっ。
 脱水が終わった洗濯物の塊を風魔法で浮かせてハナちゃんは俺の分とハナちゃんの分とを仕分けてくれる。
 手元まで来た洗濯ネットを受け取りながら俺はどう伝えればセクハラにならないか必死。てか指摘した時点でセクハラか?
 で、でもハナちゃんて、基本的には物を大事に扱ってるんだよ。それもすっごく。
 例えば靴は長持ちさせたいからって毎日埃や汚れを落としてるし。ネットスーパーで買える価格帯だから、そこまで上等な物じゃないのにさ。櫛なんかは使い終わった後ふとしたように眺めて嬉しそうに笑ってるのを見かけるし……いつも見てるわけじゃないですけどっ、たまたま、たまたま目に入っただけでっ。
 下手したら数百年ていう長い時間を何にもなくて空っぽのまま過ごしてきたんだ。〝自分の物〟が持てる今がどれだけ幸せかって、ハナちゃんを見てればわかるんだよね。
 だからこそ……だからこそ、俺は……俺は……!
「……」
『向田さん?』
 意を決した俺は、ハナちゃんの腕の中にある一番小さいサイズの洗濯ネットをスッ……と指さした。
 入れてるとしたら多分それのはず……。
『……? ………………………………あ゙っ』
 つ、通じた。
 通じたはいいがそりゃそうだよね恥ずかしいよねごめんなさいっ、俺も恥ずかしいですっっ。
 みるみるうちに真っ赤になったハナちゃんが見てられなくて俺は慌てて回れ右した。
「ごごごごごめんっ、セクハラみたいなこと言ってっ」
『い、いえっっ、絶対絶対そんなことありませんっっ!!』
 す、すんごい力強く否定された。
『こちらこそごめんなさい……! そこまで気が回らず、お恥ずかしい限りです……! だ、男性の向田さんにお気遣い頂いてしまうなんて……』
「あ、謝らなくていいって、俺はその……姉が! 姉がいたからさ!! つい大丈夫かなって思っただけだからっ!!」
 うう、本当のことではあるがまくしたてると途端に言い訳がましいぜ。
 ハナちゃんに悪い印象持たれなきゃいいけど……。
『こ、今回はその……なんとか無事、みたいです……!?』
「そっ?! そそそそそっか、よかった……」
 思わず声が裏返った、か、確認したのね。見てないけどドキッとしちまった。
『……型崩れしてたら私、ショックを受けてたかもしれません。だから、セクハラかもって思いながらも教えてくださったんですよね……』
「……そ、それはまあ……」
 その通り。その通りなんだが、ハナちゃんてマジで俺を好意的に解釈しすぎじゃないか。うう、いい子だ。
『ありがとうございます、向田さん。助かりました……その……〝向田さんから頂いた物〟は、全部大切にしたいので……!!』
 …………。
 …………。
 …………。
 …………ハッ。
 え? なんか殺し文句じゃなかった今? 自分の物ってことより俺に貰った物だから大切にしてるって? は?
 い、いや、意味は大体同じはずだよなそうだよなうん。
「こ、こちらこそありがとうございます、それだけ大事にしてくれるなんて俺も嬉しいです」
「い、いえ、とんでもないです、次回までに脱水の改善案を模索致します……!」
 何故か敬語になっちまった。
 しばらくお互いの顔が見れないまま俺たちは洗濯物を干しました。
 もちろんハナちゃんの下着類は部屋干しです!!!!!

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