第三十九話 ハナちゃん、冒険者ギルドに顔を出す
約束の三日後になったのでバーベキューコンロを取りに行ったらそのままバーベキュー大会になりました。やっぱ炭火は最高。酒がうめぇ。ハナちゃんは皆と一緒になって肉を食べ、にこにこしながらビールを飲んでる。
……うん、今日も楽しそうで何よりです。
バーベキューコンロを試させてくれるって言うから、お言葉に甘えるついでに「外に待たせている連れがいるんですが……」ってステルスで消えてたハナちゃんもご一緒させてもらうことにしたんだよね。
こっそり参加するよりどうせなら堂々と食べた方が美味しいだろうしさ。
ハナちゃんが喋れない理由(捏造したサイレントバットが云々)はあらかじめ伝えといたけど、ドワーフ親父のアレシュさんは今となっちゃ渡した酒に夢中なんで言わなくても大丈夫だったかも。
不意に目が合うと酒が入ってるからかなんなのか、ハナちゃんはいつもより更にやわらかくふにゃっと破顔する。
ぐわあああっ。
いかん。
気をしっかり持て向田剛志。
確かに殺し文句は言われた。いや昨日に限らず際どい発言は沢山あった。
だがいくらハナちゃんが好意的に俺を見てくれてるからってか、勘違いするんじゃないぞ。
ハナちゃんは大事な身内、仲間、よしっ。
ゴクゴクゴク、プハーッ!
手に持っていたビールを一気に煽り、俺は意気込みを新たにした。
ビールが染み渡るぜ。
次の日、俺たちはドランを経つ前にと冒険者ギルドへ挨拶をしに行った。
なんと今回ハナちゃんはステルスを使っていない。
商人ギルドの方で姿を見せているから、冒険者ギルドにも一度顔を出しておいた方がいいんじゃないか? って話し合ったんだよね。
サシェの件もあるし、ハナちゃんとウゴールさんを会わせたかったってのもある。
ハナちゃんもウゴールさんに挨拶したかったみたい。
ただ、前回急に覚えたってか発動した
万が一何かあっても明日にはドランを離れるからな。
全力で誤魔化すぜ。
「なななななな、な、なんですか貴女は!? ど、ドラちゃんを頭に乗せてるなんて、なんて、なんて羨ましいッッ!!」
『……』
『……』
とか思ってたらこれだよ。
ドラちゃんは俺の頭とか肩にも乗るんですが、ハナちゃんがステルスを使ってない時は、ハナちゃんの頭に乗ることが多いんだよな。
なんでも『どうもハナは危なっかしいからなー、仕方ないから俺が面倒みてやるぜ』だって。頼もしいぜドラちゃん。ハナちゃんは最初からドラくんて呼んでたし、きちんと雄扱いされてるからか、兄貴分のつもりなのかも。
ちなみにハナちゃんは申し訳なさ半分嬉しさ半分以上の嬉しさが勝った複雑な表情で『あ、ありがとうねドラくん、頼りにしてます……!』ってお礼言ってた。
しかしすまん二人とも、エルランドさんのドラゴン好きをもっと考慮するべきだった。
ドラちゃんとハナちゃんが思いっ切りスン……と冷めた目をしている。
こんな顔したハナちゃん見るの初めて。
だってエルランドさん、羨まし過ぎるのか悔し泣きしてるし。そりゃあハナちゃんとてドン引きもしますわ。
突っ伏して嘆いてる壮年エルフは放置して、今のうちにさっさとハナちゃんをウゴールさんに紹介しちまおう。
「ウゴールさん、紹介します。こちらが以前話に出た、同郷のハナです」
「ああ、先日の……! その節はお気遣い頂き、ありがとうございました。改めまして、ドランの冒険者ギルド副ギルドマスター、ウゴールと申します」
「(ぺこり)」
「彼女はついこの間、うっかりサイレントバットにやられてしまいまして。薬を服用したばかりなので今はまだ喋れないのですが……しばらく一緒に旅をすることになりましたので、ドランを離れる前にご挨拶だけでもと」
「(こくこくこくっ)」
商人ギルドで使った捏造設定はここでも使っていく。
「これはご丁寧に……私としても直接お礼を申し上げたかったので。いや、アレは本当に素晴らしいです(ぼそぼそ)」
「……!!(こくり)」
本人は聞いちゃいないだろうがエルランドさんがいる手前、アロマテラピーサシェのことは濁しつつ小声になったウゴールさんに、ハナちゃんは喋れないなりに一生懸命頷いた。
商人ギルドの時もそうだったな~。ハナちゃんて全部顔に出るし、身振り手振りでもなんとなく言いたいことが伝わってくるから微笑ましいんだよね。ウゴールさんはお子さんがいるからか、眼差しが完全にパパになってるよ。
「ウゴールさん、アレの効能は一年ほどだそうです。恐らく香りがあるうちは大丈夫かと……(ぼそぼそ)」
「なんと……定期的に購入したいくらいですよ(ぼそぼそ)」
「!(こくこく)」
俺はハナちゃんの代わりに近々販売していきたい旨をウゴールさんに伝えた。使用感で何か気になることがあれば教えて欲しいともね。ユーザー目線は大事だからな。
今のところ不満は何もないとのことだったが、ウゴールさん曰く「実際に使ってみないとにわかには信じがたい効果かもしれませんね」だって。
確かにねぇ。すごい良い匂いはするけどさ、そんなに効くか? ってちょっと眉唾商品感はあるかも。
表向きにはリラックスして安眠・疲労に効くって言ってるけど、まさか本当は持ってるだけで体力・魔力ともに回復していくとは誰も思わないもんな。
でも実際に使って効果を実感した上でいたく気に入ってくれたウゴールさんが「もしよければ話だけでもご紹介させて頂けませんか? もちろん私が信頼出来る人に限ります」と言ってくれた。つまり販売前に宣伝してくれるってことだよな。ありがたや~。副ギルドマスターの紹介なら色んな意味で安心だ。
販売開始の際は必ず連絡するってウゴールさんと約束したぞ。
俺はこっそり念話でハナちゃんに話しかける。
『気に入ってもらえてよかったね、ハナちゃん』
『はいっ! うれしいです……!』
うんうん、本当によかったなぁ。
泣いてる子供たちを落ち着かせたいって気持ちから出来たスキルが、人を癒す物になるってなんかいいよね。
商売になるからって理由だけじゃなくて、つい疲れた人にお届けしたくなるっていうか。
難点と言えば材料になるギフト用ドライフラワーがちょっと小さいことか? ネットスーパーにはそれしか売ってなかったし。販売するってなったらある程度の数は確保しておきたいよな。
この世界の花屋や雑貨屋にドライフラワーが置いてあるか見に行こうってハナちゃん誘ってみよっと。
「はぁ………………あ、それで何でしたっけ?」
「いや、明日の朝にこの街を発とうと思いまして……」
「えーーーッッ!!」
ようやく立ち直ったエルランドさんが叫び出すのに、俺たちは揃って苦笑した。
何だかんだで悪い人、もとい悪いエルフじゃないんだが、ドラゴン好きも程々に……は、無理か。
やれやれ。
『やっと終わったか。他に用事がないのなら、我は狩りに行きたい』
『おっ、いいなそれ』
挨拶が終わって冒険者ギルドから出たところでフェルが言ってドラちゃんも同調する。スイたんは鞄の中で寝てます。流石に出発前日だしダンジョンとは言い出さなかったか。
昨日一昨日と作り置き作業……と洗濯……でずっと街の中だったし、ちょっくらお外に行きましょうかね。
そうだ、アレシュさんに聞いたソーセージ作りを早速やってみるのもいいかもしれない。
あとは忘れちゃいけないハナちゃんの加護。外なら人目を気にしなくていいし、ぼちぼち確認していくぞ。