第四十話 なんか咲いたしなんか出た

 肉屋でソーセージ作りの材料を買って花屋と雑貨屋にも寄った。
『売ってないですね……』
「売ってなかったね……」
 残念ながらドライフラワーは売ってなかったわ。
 大きい街だしもう少し探せばあるかもしれないけど、狩りに行きたいフェルたちが待てなさそうなので断念。
 うーん、どうしたものか。
 ぶっちゃけ中身は香りをつけるだけだからドライフラワーじゃなくてもいいんだが、この世界でも存在する物で、尚且ついい香りがしても可笑しくない物じゃないと。
 今後本格的に販売した時に誰かが袋を開けないとは限らないからね。
 そう考えるとドライフラワーが無難だよねってハナちゃんと話した。乾燥させた花やハーブなんかはこの世界にもあるだろうし。
 花屋で生花を買って乾燥させて、ってのはちょっと手間がかかる上に、もし量産ってなったらかなりの量を買うことになる。それはハナちゃん的に『買い占めみたいになってしまうのは現地の方にご迷惑では……』とのことで却下。
 結局しばらくはギフト用ドライフラワーでちまちま作っていくことになった。
 ウゴールさんと約束したけど別に今すぐにってわけじゃないし、焦る必要はないからね。
「今後俺のテナントに花屋が入るかもしれないしさ、気長にいこうよ」
『はい。……ふふ、そしたら向田さん、お花屋さんが出来ますね』
「あはは、俺が花屋? ハナちゃんにはぴったりだけど」
『そ、そうですか?』
 そんな風に笑い合いながら街の外まで来たよ。
 フェルとドラちゃんは早速狩りに、スイにはお願いして道具作り、俺はソーセージ作り、そしてハナちゃんは加護の効果の検証だ。
 ハナちゃんがちょっとソーセージ作りを手伝いたそうにしてたんで、また今度一緒に作ろうって声をかけといた。
「俺の方は大丈夫だから、色々試してみてね」
『はいっ、ありがとうございます!』
 優先度は加護の方が高いからな。
 埃や砂がこっちに飛ばないようにってハナちゃんは俺とスイから十分に距離を取った。
 遠くにあるハナちゃんの背中を時々視界に収めながら俺は挽肉をこねる。
『じゃあまずは、風魔法から……』
 やっぱり念話でも独り言が癖になってますね。
 と思ったらすぐバギバギバギバギッ!! とすごい音が鳴り響いた。
『…………』
「…………」
『わー、ハナちゃんすごーい』
 スイがぴょんぴょこ跳ねた。
 め、目の前の木々が根こそぎ倒れていった……。
 嵐でもあったのか? ってくらいめちゃくちゃになってるぞ。
『わ……私は……か、環境破壊を……?』
「お、俺も土魔法練習した時に木を使ったよーー!! ハナちゃんだけじゃないって!! フェルなんかいつもなぎ倒してるしーー!!」
 俺はハナちゃんに向かって叫んだ。焦って思わず念話使うの忘れたわ。
 ハナちゃんがこっちを振り向いてこくこくと頷いている。
『ええとほら、後で木こりや木工の人を探して場所を伝えたら喜んで採りに来てくれるって』
『な、なるほど……!?』
 ハナちゃんは俺に向かってお辞儀をするとなんとか気を取り直したみたいだ。ふう、よかった。しかしすんごい威力だったな。
 それからハナちゃんは火、土、水と次々に魔法を試していった。
 火魔法は加護があってもやっぱり適性がなかったみたいで不発に終わってた。
 土魔法は地面から圧縮した土というか尖った岩というかなんというかちょっと恐ろしげなものを何本も連続で出してたよ。あ、相性がいいのか?
 水魔法は通常の加護を持ってるスイほどではなかったけど、小さな水の球をいくつも周りに浮かべていた。
 女神様たちの加護の効果はバッチリみたいだな。アグニ様以外。
 あ、でももしかしたら……
『ハナちゃん、火魔法は使えなかったけど、もしかしたら前より火が平気になってるかもしれない。あとで試してみよう、危ないから一緒にね』
『……!!(やさしい……!! そういうところがほんとうに……!!)』
 ぶんぶんとハナちゃんが両手と蔓を振ってるのが見えた。な、何も言われてないのに熱烈に感謝を感じます。照れるぜ。
 あとはヴァハグン様とヘファイストス様の加護か。
 今は検証出来ないな。
 ハナちゃんもそう思ったのかこっちに戻ってくる。
 ヴァハグン様のは戦闘中にブーストがかかるやつだし。通常の加護は5割増しらしいから、ハナちゃんの極小がどれくらいなのかは気になるけどね。
 ヘファイトス様のは……どうなんだ? スイの時はスキルに鍛冶が追加されてたのにハナちゃんにはないんだよな。
 火魔法みたいに適性がなかったのか?
「おかえりハナちゃん、お疲れ様」
『おかえりハナちゃん、すごかったねー』
『……ふふっ。ただいま、向田さん、スイちゃん』
 戻ってきたハナちゃんは目を細めてふわりと微笑んだ。ぐえ。急に可愛い顔しないで欲しい、し、心臓に悪い。そ、そんなにおかえりが嬉しかったのっ?
「あぁえっと、火の検証しよっか」
『よろしくお願いします』
 俺はドギマギしつつ魔導コンロのボタンを押して点火した。とりあえず弱火。
 もし急に蔓がのけぞっても受け止められるように俺はハナちゃんの後ろに立った。
 そろそろとハナちゃんが近づいていく。
 前はハナちゃん自身が火を見る、火に当たる分は大丈夫だったよな。
 一定距離まで蔓が火に近づくと防衛本能なのかビュンッ! て勝手に逃げちゃうから、ハナちゃんの体が引っ張られて危なかった。
 さて、アグニ様の加護を授かった今はどうだ?
 前回蔓が勝手に動いた距離まで来ると……
 ウネウネ。
 蔓が身をよじった。
『……イヤイヤしてますね……?』
「い、イヤイヤしてるね……」
『イヤイヤー? ハナちゃんの蔓、ウネウネしてるー』
 アレだ、子供がイヤイヤ首を振って駄々こねる感じ、アレに似てる。蔓はウネウネとくねって火から逃れようとしている。
『わ、わ、』
「おっと、」
 少し後ずさってバランスを崩したハナちゃんの両肩を支えた。
 えっ肩薄っ、怖っ、だからいい匂いがするんだってっ。
『わっ、ありがとうございます……』
「ど、どういたしまして……そ、それにしても大分反応が変わったね?」
 気恥ずかしい空気を変えたいのもあって思わず早口になっちまった。
『ええ、前より平気になってるみたいで嬉しいです!』
 旅の途中は焚き火を起こしたりするし、イヤイヤするくらいならハナちゃんに危険は少ないよね。
 ただやっぱり今みたいによろけるのは心配なので、引き続き火の扱いは注意していくことになったよ。
 今出来る検証はこれくらいか?
 ハナちゃんが魔法の練習をしている間にソーセージは大量に作ってあるし、そろそろフェルとドラちゃんも帰って来るだろうから飯の準備を始めてもいいんだが。
 極小とは言え加護は加護、寄せ集めでも小~通常くらいにはなるってキシャール様が言ってたな。
 つまりハナちゃん自身かなり強化されてるはず。
「何かやりたいこととか、出来そうなこととか考えてみよっか。もしかしたら出来ることが増えてるかもしれないし」
『やりたいこと、出来そうなこと、ですか?』
 具体的なスキルが鑑定一覧に載っていなくても、使ってからスキルとして表示されるパターンがあるからね。
 今までもアルラウネの体はハナちゃんの気持ちや状態を察してスキルを発動させてきた。魅了はなんでかわからなかったが、それはさて置き。
『確かに、色々試してみるのも楽しそうですね! 今一番やりたいこと、というか欲しいものはドライフラワーの材料ですが……』
 ウゴールさんと約束したもんねぇ。
『あとは鍛冶神様からも折角加護を頂いてるので、何か作れたらいいなぁと』
 確かに。まだヴァハグン様の加護は試してないけど戦闘中にブーストかかるのはほぼ確定だから、そうなるとヘファイストス様の加護だけ浮いちゃうというか、もったいないというか。
 複数加護がついてるだけで意味はあるけどさ。
『……? あれ? 出来そうな気がします……? ちょっと待ってくださいね……むん……』
 むん……。
 マジかハナちゃん。出来ちゃうのかハナちゃん。
 ハナちゃんが両手を組んで祈るようにぎゅっと力を込める。
 ぽぽぽぽぽん!
 コロン。
『…………』
「…………」
『わー、ハナちゃんすごーい』
 スイがぴょんぴょこ跳ねた。
 な、なんか咲いたしなんか出た。

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