第四十二話 男の哀しい性
ドランの街を出発する日の早朝、俺はガバッと布団から飛び起きた。
はい。
またエロい夢を見ました。
しかも……な……なんつう夢を見てるんだよ俺はっ?
思い出すのも憚られる、あ、あんな、あんなことをハナちゃんとっ…………え?
「……!?」
『……?!』
はっと気付けば何故かハナちゃんも俺と同じ姿勢、つまり布団を跳ね除けて体半分だけ起こしてる状態で固まっていた。
もしかして俺とハナちゃん、同時に起きたのか? す、すごいタイミングだな。
「お、おはようハナちゃん……」
『おおおおはようございまひゅっ……ます、向田さん』
「は、早いね?」
『む、向田さんこそ……』
「はは、へ、変な夢見ちゃってさ……」
『わ、わた、私もです……きっ奇遇ですね』
「……」
『……』
「二度寝しよっか……」
『そうしましょう……』
見てた夢が夢だけにハナちゃんと目を合わせられん。
俺たちはもう一度布団に戻っていった。
「ぅお」
体を横にしたらハナちゃんの蔓がぴょこんと俺の前に顔を出してくる。もちろん今日も腕に巻きついてるから、これはその先端部分だ。俺の方に1本だけ来てるってことは、もう1本はハナちゃんの方に行ってるのか。
顎辺りをすりすりされたと思ったら、胸元でくるんと丸まって静かになった。
……なんか感情表現が豊かになってないか?
確証はないが、昨日のアレが関係してる?
ハナちゃん自身まだアルラウネの体を持て余している。でも昨日は蔓の仕組みというか構造がちょっとわかった。だからもしかしたら理解が深まる度に蔓もちょっとずつ変わっていくのかも……? 完全な憶測だけどな。
しかしまさか蔓の先端が開くなんてな……しかもそこから精力剤になる粘液が吐き出されるなんて……。
ファンタジー系エロに出てくる触手みたいって思っちまったせいであんな夢を見たのか俺は。
反省。
俺が一人でうんうん思い悩んでいると、蔓触手はまるで欠伸のようにがぱぁ……と大口を開けてまたにゃむにゃむと閉じた。
それを見て一瞬ゾクッとしちまった。
だって夢ではあんな……………………いかん。
忘れるんだ向田剛志。俺のためにもハナちゃんのためにもならん。
……あれ? そう言えばエロい夢を見たわりには全然ムラムラしてない、むしろスッキリしてる。
な、なんでだ?
一瞬まさか暴発してんのかと肝が冷えたがそれも杞憂だったよかったそれだけはマジで勘弁してくれ。
はぁ、二度寝しよ二度寝。
……しかしこの謎の現象はこの日以降、度々起こることになるのであった……。
『あるじー、元気いっぱいだねー』
「わかるかスイちゃん、なんか今朝は体が軽いんだよなぁ」
『ご飯もいーっぱいでうれしー』
「はは、つい作りすぎちまった。……あんな夢見た後なのに余計な煩悩が抜けてるっていうか(ボソッ)」
『ぼんのー?』
「な、なんでもないよ。もうすぐ飯にするからなー」
『わーい』
『フェル様、ドラくん、おはようございます』
『うむ。……む?』
『おいハナ、また頭の花が元気になってんぞ。力が有り余ってるって感じだな』
『え、また? でも私も調子いいかも……わっ、蔓もすっごく元気っ、びちびちしてるっ?!』
『なんだよ俺らに隠れて美味いもんでも食ったのかー?』
『あはは、朝ごはんはこれからだよ』
『……ほう、ドラの言う通りかもな。なるほど、ハナもアルラウネの自覚が少しずつ出てきたと見える。精進するのだぞ』
『……?? は、はい、頑張ります……?』
フェル曰く明日の夕暮れまでにはネイホフの街に着くらしい。ドランを出て5日目だから、明日で6日か。
正直言うと出発初日にあんな夢を見ちまったせいでしばらく気まずいか? と思ってたんだが、意外と大丈夫だったというか気が付いたらどっかいってた。
ハナちゃんにとってはこれが転生して初めての旅だ。
フェルがひたすら付き走るだけなのに、ずっと嬉しそうで、楽しそうだったよ。
風圧にすらはしゃぎ声をあげるハナちゃんに調子に乗ってスピード上げそうになるフェルには焦ったわ。
でもその風を切る音とかぐんぐん流れていく景色とか、草の匂いとか太陽のあたたかさとか、もちろん俺のご飯とか。
五感全部をめいっぱい使ってこの世界を旅するハナちゃんを見てたら、ねぇ?
だからってその、初めての旅の記念にって言うのは我ながらクサイと思ったんで、目的地には無事に着くから晩酌でもしようかって名目で誘ってみた。
この前買ったお酒もあるし、街道沿いだから森の中じゃない分危険も少ないしね。離れたところで野営している商隊の焚き火の光が見えるだけでなんとなく安心。
ハナちゃんはめちゃくちゃ喜んでくれました。
ちびちび酒を飲みながら、色んな話をしたよ。
こういうゆったりとした時間はいいねぇ。
「……そうだ。次の街ではさ、宿屋じゃなくて一軒家を借りようと思ってるんだよね」
『一軒家ですか?』
「どこの獣舎もフェルには窮屈そうだったしさ」
『あぁ!』
これには実はもう一つ理由がある。
一軒家ともなれば少なくとも二部屋以上はあるだろうから、流石に明日からハナちゃんと別室で眠れるはずだ。
べ、別に何が何でも離れたいとか、迷惑してるとかそんなんじゃない。
ハナちゃんがパーティー入りしてからもう2週間以上、起きたら隣で女の子が幸せそうに寝てるっていう状況にも慣れてきたよ。
慣れてきたんだけどさ。
またあんな夢を見ないとは限らないのが男の哀しい
『流石向田さん、きっとフェル様も皆も喜びますよ』
うう、ハナちゃんの純粋な称賛に心が痛い……。
俺の気持ちを知る由もない酒が入ってご機嫌のハナちゃんは、いつにも増してふにゃふにゃの笑顔を見せてくれた。
『ふふふっ、向田さんはいつもやさしい……いつも……いつもありがとうございます……』