第五十一話 進化する可能性

 今日はキュクロープス討伐だ。
 ハナちゃんは『傷つけないように倒すのはまだ難しそうです……!』ってことで戦闘に不参加です。
 覚えたばかりの吸収ドレインは蔓をブスッと挿さなくても蔓の開かれた先端が相手に触れてさえいれば使えるみたいなんだが、昨日吸い過ぎた体力と魔力がまだ余ってるらしく大事を取って控えることに。そ、相当倒したんだろうな。
 そうすると戦闘スタイルはハナちゃんが得意な風魔法になるんだけど、裂傷になっちまうってことで俺と一緒に見学することになった。
 フェルがまた『次回までの課題だな。手数を増やさねばならぬぞ』って師匠面してたし、ドラちゃんとスイは『見ててねー、ビュッビュッてやっつけてくるよー』『俺たちの戦い方よく見てろよなっ』なんて張り切ってたよ。
 で、キュクロープスは瞬殺。
 まあ正直そうなるって知ってました。みんな強いもんね。
 その場でのんびり飯食って借家に帰って風呂に入って寝室でゆっくりしてたら、フェルにスイが進化してるって言われた。
 スイはヒュージスライムに進化してて新スキルも覚えてたから、明日試しに行くってスイと約束したよ。
 フェル曰く次の進化先はおそらくエンペラースライムだってさ。スゲェなスイちゃん。
 進化の話をしてたらハナちゃんが『質問してもよろしいですか?』ってフェルに聞いた。
 なんでハナちゃんが一緒の寝室にいるかっていうと俺たちが風呂に入ってる間フェルのブラッシングを行ってたからです。日課だもんね。
『よかろう』
『ありがとうございます! ええと、アルラウネは進化するんでしょうか?』
『する場合もあるな』
 え? するの?
 する場合ってことはしない場合もあるのか?
 教えてフェル先生。
『基本的にアルラウネはある程度人間や魔物から精気を吸い取ったら勝手に殖えていくのだが、時々殖えずに養分を蓄え続ける個体が出るのだ』
 そもそも進化出来るまで養分を蓄えられる個体がかなり少ないんだそう。
 必ずしも進化するってわけじゃないんだな。
 フェル曰くそうした特殊個体が長く生きると草花ではなく木のようになり、アルラウネの要素を備えたトレントになる場合があるらしい。
 トレントって動き回る木の魔物だよな?
 なんとなく攻撃しなければ襲いかかってこない森の長老的なイメージがあったんだが、アルラウネの要素を備えたトレントはまず間違いなく精気を吸い取ってくるんだろうな……。
『教えて頂きありがとうございます、フェル様。勉強になりました!』
『うむ』
 ハナちゃんがぺこりとお辞儀をした。俺も勉強になりました。
 つまり将来ハナちゃんが進化する可能性は十分あるってことだよな。
 養分を蓄えられるかはわからんが長生きして欲しいし長生きするでしょ。俺はともかくフェルとスイとドラちゃんがいれば危険な目にはそうそう遭わないし。
 い、いや俺だってハナちゃんが危ない目に遭うようなら立ち向かうよ? でもハナちゃん、既に俺より強いからさ……。
 こ、こういうのは気持ちが大事だよな、うん。
『じゃあ私もお風呂行ってきますね』
「あ、いってらっしゃい」
 律儀に俺とフェルに挨拶して、いつの間にか寝てたスイとドラちゃんを見てくすっと笑うとハナちゃんは寝室から出て行った。
 その後フェルとドラちゃんと俺のステータスを順に見て行ったら“獲得経験値倍化”スキルが俺に付いてることが発覚。
 絶対神たちのせい。
 スキルは経験してきたことで増えていくってフェルが言うけど獲得する経験値が倍になるような経験とかしてないし。
 付いてて困るものじゃないどころかかなり良い効果だけどさ、要はテナントのためだろ?
 断りもなしに勝手に付けられたのが腑に落ちん。今度文句言ってやる。
 俺だって人間なので多少はムッとするんです。
 こんな時はリラックスするに限るぜ。アロマテラピーポプリの試作品第1号の出番だな。
 昨日『ドライフラワー向けの薔薇を咲かせてみます!』って張り切ってたハナちゃんが早速成功したって言うんで、今朝一緒に作ったんだよね。
 作り方は超簡単。ハナちゃんから代金を受け取ってガラスのキャンディーポットを購入、そこにハナちゃんお手製のドライフラワーを入れるだけ。
 脚付きキャンディーポットは銅貨8枚でした。
 有難くもまたもらってしまったのでしっかり活用させて頂きます。
 俺はアイテムボックスからアロマテラピーポプリを取り出した。
 うん、ガラス越しに見てもお洒落でいいぞ。
 中身のドライフラワーは『あんまり大きなポットがなさそうだったので』とハナちゃんが用意した小振りな薔薇の蕾のドライフラワーだ。
 色はうっすら緑がかっていて上品で、薔薇の蕾がころんと5つとハナちゃんオリジナルの小さな白い花の花弁っていうシンプルさ。
 中に入れる花次第で大分印象が変わりそうだが、これくらい素朴な感じなら人を選ばなそう。
 ハナちゃんのことだし最初から俺に渡すつもりで作ってくれたんだろうなぁ。ありがたや。
 サイドチェストの上に置いたガラスポットの蓋を開けると、ラベンダーに似た香りが辺りに広がったのがわかった。
 袋に包まれてない分サシェよりポプリの方が香るね。
『むむむ……それはハナのスキルではないか?』
「そうそう、この花に効果と匂いを移してあるんだよ。あ、匂い平気か?」
 フェルは鼻が効くから気をつかってやらないとな。
『嫌な匂いではないが……いかんせん力が抜けていくのがな……むむ……む…………』
 とか言ってるうちに寝ちまったよ。いつもは丸まって寝てるのにリラックスしてるのかちょっと横向きになってる。フフ、効果は抜群だな。
 なんか俺も眠くなってきた。目を瞑ったらより花の匂いがわかる気がする。
 通常のアルラウネはこんなスキルアロマテラピーなんて覚えないってフェルが言ってたっけ。
 やっぱりハナちゃんも特殊個体に入るのかな。一応アルラウネの一応部分が謎だし、そもそも中身が転生者だけどさ。
 特殊個体……ハナちゃんに進化の可能性か。
 アルラウネってちょっとこう、誘惑するわ興奮させてくるわ精気を吸い取るわでどうも性的なイメージが強すぎるから、進化して違う種族名になった方がいいかもしれん。
 ステータスからセクハラ要素が少しでも減るのはハナちゃん的にもいいことだし。
 もちろん俺の精神衛生にもな。

<< 前へ 次へ >> 目次